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平成15年門審第45号
件名

油送船栄豊丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成15年8月26日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(西村敏和、長谷川峯清、小寺俊秋)

理事官
上中拓治

受審人
A 職名:栄豊丸船長 海技免状:四級海技士(航海)(旧就業範囲)

損害
船底外板に擦過傷及び推進器翼に曲損

原因
狭視界時の運航(レーダー、速力)不適切

主文

 本件乗揚は、視界制限状態における運航が適切でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年5月5日07時25分
 関門港
 
2 船舶の要目
船種船名 油送船栄豊丸
総トン数 998トン
全長 80.00メートル
登録長 74.08メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,618キロワット

3 事実の経過
 栄豊丸は、専ら重油の輸送に従事する船尾船橋型の鋼製油送船で、A受審人ほか7人が乗り組み、空倉のまま、船首2.10メートル船尾4.00メートルの喫水をもって、平成14年5月3日16時50分富山県伏木富山港を発し、関門海峡経由で山口県徳山下松港に向かった。
 A受審人は、通常、一等航海士として乗り組んでいるが、同年4月20日船長の休暇下船に伴って臨時に船長職に就いたもので、船橋当直を、自らと一等航海士及び甲板長による4時間交替3直制とし、各直に甲板員1人を付け、関門海峡では自らが操船を指揮することにしていた。
 A受審人は、5月5日04時00分山口県角島北方において船橋当直に就き、法定の灯火を表示し、機関を回転数毎分250の全速力前進にかけ、13.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、同県蓋井島東方の水島水道を通航して関門海峡北口に向かった。
 06時00分ごろA受審人は、北九州市藍島東方の関門海峡北口に至り、甲板員を手動操舵に付けて六連島西水路を南下していたところ、霧のため視界が急に狭まって視界制限状態となったものの、これまで関門海峡を何度も通峡しており、水路事情などを良く知っていたので、視界が回復するまで関門港外の安全な海域で待機することなく、引き続き法定の灯火を表示し、霧中信号を始め、操舵室左舷側にある電子海図表示のレーダーを3海里レンジに、他のレーダーを1.5ないし3海里レンジにしてそれぞれ使用し、機関を全速力前進にかけたまま、関門第2航路に向けて南下した。
 A受審人は、06時25分関門第2航路に、同時30分関門航路に入航し、折からの西流に抗して11.0ノットの速力で、視程約300メートルとなった関門航路の右側をこれに沿って東行した。
 A受審人は、レーダーの後方で操船に当たり、07時08分半門司埼灯台から224度(真方位、以下同じ。)2,780メートルの地点において、針路を041度に定め、関門航路東側境界線の内側約150メートルのところを進行した。
 07時12分A受審人は、門司埼灯台から225度2,130メートルの地点に差し掛かり、関門橋まで約1海里となったとき、3海里レンジとしたレーダーで、ほぼ正船首約1,650メートルに関門航路内で漂泊中の2隻(以下「小型漁船」という。)及び右舷船首約2海里に早鞆瀬戸を西行中の1隻(以下「反航船」という。)の映像をそれぞれ探知した。
 A受審人は、小型漁船を避けるために航路中央寄りを続航すると、航路幅員約500メートルの関門海峡最狭部にあたる門司埼ないしは関門橋付近で反航船と行き会い、同船と接近することが予想されたものの、航路の右側を航行すれば、反航船とは左舷を対して無難に通過できるものと思い、一旦航路外に出て、潮流の影響が少ない関門港門司区西海岸沖で反航船の通過又は視界の回復を待たずに、機関回転数毎分220の半速力前進に下げただけで、西流に抗して6.0ノットの速力で進行した。
 A受審人は、船首方の小型漁船を避けるため、同漁船のレーダー映像のみを監視し、反航船のレーダー映像を系統的に観察するなど、動静監視を十分に行っていなかったので、反航船が関門航路中央寄りの進路をとっていることに気付かず、視程約200メートルに狭まった同航路を続航し、しばらくして小型漁船に接近したところでレーダーから離れ、右舷側ウイングに出て同漁船の目視確認に当たり、07時18分半門司埼灯台から233度680メートルの地点で、ほぼ正船首約200メートルのところに漂泊中の小型漁船を視認することができたので、左舵10度をとって左転し、同漁船を右舷側に約60メートル隔てて通過する、関門航路中央寄りの進路をとって進行した。
 07時19分半A受審人は、門司埼灯台から243度540メートルの地点に差し掛かり、関門橋まで約200メートルとなったとき、航路中央寄りを西行していた反航船がほぼ正船首約700メートルとなり、自船が航路中央寄りの進路としたことで、同船と著しく接近することを避けることができない状況となったが、依然として、ウイングから小型漁船を監視していて、レーダーによる反航船の動静監視を十分に行っていなかったので、このことに気付かず、その後反航船が機関を後進にかけて速力を大幅に減じたことにも気付かず、針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも、必要に応じて行きあしを止めることもせずに続航した。
 一方、航路中央寄りを西行していた反航船は、レーダーで、栄豊丸の映像が航路の中央に寄り、同船と著しく接近することを避けることができない状況となったことに気付いたのか、門司埼北方約300メートルの地点に達したころ、行きあしを止めようとして機関を後進にかけたところ、約4ノットの潮流によって南西方に流され始めた。
 こうして、A受審人は、レーダーから離れたまま反航船の動静監視を行わずに進行し、07時20分門司埼灯台から248度430メートルの地点に達して、関門橋まで約100メートルとなったとき、小型漁船を右舷正横約60メートルに見て替わし終えたことから、右転して元の041度の針路に復した後、ウイングから操舵室に戻り、関門橋下を通過した。
 A受審人は、関門橋下を通過した直後の、07時21分門司埼灯台から257度300メートルの地点において、操舵中の甲板員から「前方に船がいる。」との報告を受け、正船首約200メートルのところに、総トン数約500トンの反航船が、船首を西方に向け、機関を後進にかけて行きあしを止めようとしているのを視認し、衝突の危険を感じて、直ちに左舵一杯をとって左回頭を始めた。
 07時22分半A受審人は、門司埼灯台から297度270メートルの航路中央部で、反航船の船首を約50メートル隔てて辛うじて替わし、折しも視界が幾分回復して約400メートル前方にうっすらと視認できるようになった山口県下関市壇之浦付近の海岸を、左舵一杯をとったまま左回頭を続けて替わそうとしたが、やがて右舷船尾に潮流の影響を強く受けるようになり、十分に左回頭することができずに同海岸に向けて続航し、07時25分門司埼灯台から304度620メートルの地点において、栄豊丸は、船首が260度に向いたとき、原速力のまま、壇之浦付近の海岸に乗り揚げた。
 当時、天候は霧で風力1の東北東風が吹き、潮候は下げ潮の中央期に当たり、関門海峡早鞆瀬戸では西流約4ノットの潮流があり、視程は約200メートルで、山口県西部地方には濃霧注意報が発表されていた。
 栄豊丸は、手配したタグボートによって08時06分に引き下ろされ、自力航行して修理地に向かった。
 乗揚の結果、栄豊丸は、船底外板に擦過傷及び推進器翼に曲損を生じたが、のち修理された。

(原因)
 本件乗揚は、霧のため視界制限状態となった関門港関門航路を門司埼沖に向けて東行中、レーダーにより船首方の航路内で漂泊中の小型漁船と早鞆瀬戸を西行する反航船の映像を探知した際、航路外の安全な水域で反航船の通過又は視界の回復を待たなかったばかりか、レーダーによる動静監視不十分で、小型漁船を避けるため転舵したことによって、反航船と著しく接近することを避けることができない状況となったとき、針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも、必要に応じて行きあしを止めることもせず、前路近距離のところで行きあしを止めた反航船を視認して左舵一杯をとり、辛うじて反航船との衝突を避けることができたものの、そのまま左回頭を続け、山口県下関市壇之浦付近の海岸に向けて進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、霧のため視界制限状態となった関門港関門航路を門司埼沖に向けて東行中、レーダーにより船首方に漂泊中の小型漁船と早鞆瀬戸を西行する反航船の映像を探知し、同漁船を避けるため転舵する場合、反航船と無難に通過することができるか否かを判断できるよう、レーダー映像を系統的に観察するなど、反航船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、航路の右側を航行すれば、反航船とは左舷を対して無難に通過できるものと思い、前路で漂泊中の小型漁船を替わすため、レーダーから離れ、ウイングに出て同漁船を目視確認することに気を取られ、反航船に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、自船が小型漁船を替わすために左転して航路中央寄りの進路をとったことにより、航路中央寄りを西行していた反航船と著しく接近することを避けることができない状況となったことに気付かず、針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも、必要に応じて行きあしを止めることもしないまま進行中、前路近距離のところで行きあしを止めた反航船を視認して左舵一杯をとり、辛うじて反航船との衝突を避けることができたものの、そのまま左回頭を続けて山口県下関市壇之浦付近の海岸への乗揚を招き、船底部に擦過傷及び推進器翼の曲損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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