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 海難審判庁裁決録 >  2003年度(平成15年) > 乗揚事件一覧 >  事件





平成15年神審第11号
件名

貨物船第五冨貴丸乗揚事件(簡易)

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成15年7月29日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(小金沢重充)

副理事官
河野 守

受審人
A 職名:第五冨貴丸船長 海技免状:五級海技士(航海)

損害
船底外板に擦過傷

原因
下向流の危険性に対する配慮不十分

裁決主文

 本件乗揚は、下向流の危険性に対する配慮が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年8月26日12時10分
 徳島県今切港
 
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第五冨貴丸
総トン数 341トン
全長 54.61メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 735キロワット

3 事実の経過
 第五冨貴丸(以下「冨貴丸」という。)は、船尾船橋型の液体化学薬品ばら積船で、A受審人ほか3人が乗り組み、水酸化ナトリウム約405立方メートルを積み、船首2.3メートル船尾4.3メートルの喫水をもって、平成14年8月26日11時20分徳島県今切港内の、今切川河口部から約7キロメートル上流左岸にある東亜合成化学工業株式会社の専用桟橋を発し、三重県四日市港へ向かった。
 ところで、今切港は、今切川河口部から上流約11キロメートルの三ツ合橋にかけて設けられた河川港で、前示発航地から下流約2.5キロメートルのところに可動橋の加賀須野橋(以下「可動橋」という。)が架かっており、同橋中央部少し左岸寄りに、幅15メートル長さ5メートルのほぼ東西方向に船舶通航用水路を設けた跳開部があり、可動橋の中央部付近から上流側約300メートルにわたり、右岸から浅所が拡延し、2メートルの等深線が川の中央付近まで張り出しており、冨貴丸にとって可航幅の狭い湾曲部となっていた。
 また、A受審人は、航海士の職務を執っていたときに今切港への入出港経験が数回あり、前示浅所の存在も、潮位が下げ潮のときに下向流が速くなることも承知しており、前回船長として初めて同港へ入出港したときに、今切川における操船に熟知した案内人(以下「案内人」という。)を乗船させて通航し、その際に修得した操船要領に従って今切港を発航することとしたものであった。
 しかし、A受審人は、前回乗船した案内人が下向流について注意を払っているように見掛けなかったことから、気にすることもないと思い、強い下向流を受けて船体が危険な状態に陥ることのないよう、流速が遅くなる時機を待つなど、下向流の危険性に対する配慮を十分に行わなかった。
 こうして、A受審人は、今切川の下航を始め、可動橋の跳開部が1時間ないし2時間ごとに開橋されるので、開橋時刻に合わせるように時間調整しながら進行した。
 12時08分半A受審人は、可動橋の上流300メートルばかりの、今切港長原導流堤灯台から311度(真方位、以下同じ。)2.1海里の20.4メートル三角点(以下「三角点」という。)から323度530メートルの地点で、2メートル等深線に沿う060度の針路とし、機関を微速力前進にかけ、約2ノットの下向流に乗じて8.0ノットの対地速力で進行し、同時09分わずか過ぎ可動橋まで180メートルのところで跳開部に向かおうとして右舵をとったところ、下向流により左方に圧流されて左岸に著しく接近する状況となったので、舵及び主機を種々に使用して反転することとしたものの、操船の自由を失い、12時10分三角点から349度440メートルの地点において、冨貴丸は、その船首が248度に向いたころ、6.0ノットの対地速力で浅所に乗り揚げた。
 当時、天候は晴で風力2の東南東風が吹き、潮候は下げ潮の末期で約2ノットの下向流があった。
 乗揚の結果、船底外板に擦過傷を生じた。

(原因)
 本件乗揚は、徳島県今切港を発航するにあたり、下向流の危険性に対する配慮が不十分で、可航幅の狭い湾曲部で強い下向流を受けて操船の自由を失い、浅所へ圧流されたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、徳島県今切港を発航する場合、可航幅の狭い湾曲部がある今切川を下航するのであるから、強い下向流を受けて船体が危険な状態に陥ることのないよう、流速が遅くなる時機を待つなど、下向流の危険性に対する配慮を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、前回乗船した案内人が下向流について注意を払っているように見掛けなかったことから、気にすることもないと思い、下向流の危険性に対する配慮を十分に行わなかった職務上の過失により、可航幅の狭い湾曲部で可動橋に設けられた跳開部へ向け転舵するとき、強い下向流を受けて操船の自由を失い、浅所に圧流されて乗揚を招き、船底外板に擦過傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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