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 海難審判庁裁決録 >  2003年度(平成15年) > 乗揚事件一覧 >  事件





平成14年神審第109号
件名

貨物船第弐拾六天神丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成15年7月10日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(竹内伸二、相田尚武、平野研一)

理事官
堀川康基

受審人
A 職名:第弐拾六天神丸船長 海技免状:四級海技士(航海)

損害
左舷船首部船底外板に凹損及び破口

原因
居眠り運航防止措置不十分

主文

 本件乗揚は、居眠り運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年7月24日23時40分
 兵庫県家島諸島太島
 
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第弐拾六天神丸
総トン数 1,594トン
全長 76.02メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,103キロワット

3 事実の経過
 第弐拾六天神丸(以下「天神丸」という。)は、瀬戸内海において石材輸送に従事する船尾船橋型鋼製貨物船で、A受審人ほか5人が乗り組み、大阪港堺泉北区において砂を揚荷したのち、空倉のまま、船首1.8メートル船尾3.0メートルの喫水をもって、平成14年7月24日20時20分同港を発し、兵庫県家島港沖合の錨地に向かった。
 ところで、天神丸の就労体制は、航海当直時は、A受審人を含めた甲板部職員4人が、単独で2時間ずつ交替であたり、荷役作業時には、常に4人が全員であたることとしていた。
 A受審人は、2箇月前から休暇を取っておらず、数日前からは、瀬戸内海諸港と大阪湾諸港間を往来し、7月23日は徳島県粟津(あわづ)港に夕刻から停泊し、翌24日05時00分同港を出港し、兵庫県尼崎西宮芦屋港に09時40分入港して砂を満載したのち13時40分出港し、大阪港堺泉北区に14時50分入港し、荷役終了後間もなく出港する運航に携わり、この間、粟津港入港中と同港から尼崎西宮芦屋港間の航行中に2ないし3時間休息をとったのみで、長期間にわたり連続した休息がとれなかったことから、疲労がかなり蓄積した状態となっていた。
 A受審人は、父親である一等航海士に出港操船及びその後の船橋当直を任せて短時間休息したあと、22時30分ごろ播磨灘北航路第10号灯浮標(以下「第10号灯浮標」という。)の東方2.5海里ばかりの地点において、同航海士から引き継いで単独の当直に就き、疲労を感じていたので、間もなく舵輪後方のいすに腰掛けて当直にあたり、同灯浮標手前で数隻の漁船を避けたのち、22時43分鞍掛(くらかけ)島灯台から108度(真方位、以下同じ。)9.3海里の地点で、針路を284度に定め、機関を全速力前進にかけて、折からの西流に乗じて11.0ノットの対地速力(以下、「速力」という。)で自動操舵により、ほぼ太(ふとん)島に向首して進行した。
 A受審人は、太島までの距離が3海里となったとき、同島と大碇(おおいかり)礁との間に向け転針するつもりで、いすに腰掛けたまま当直にあたっていたところ、疲労が蓄積していたうえ、前方に支障となる他船がいなかったことから気が緩み、定針して間もなく、強い眠気を催すようになり、そのまま単独当直を続けると、居眠り運航となるおそれがあったが、当直交替してまだ10数分しか経過していないうえ、あと1時間ばかりで家島港外に到着するから、それまで居眠りに陥ることはあるまいと思い、機関室当直者を呼んで2人当直とするなど、居眠り運航の防止措置をとることなく続航中、いつしか居眠りに陥った。
 23時24分天神丸は、鞍掛島から129度1.9海里の地点に達し、前路の太島に向首したまま3海里に接近したが、A受審人が居眠りに陥っていたので、転針の措置がとられず、同島に向首したまま進行中、23時40分鞍掛島灯台から251度1.4海里の太島北東岸の浅所に、原針路、原速力のまま、乗り揚げた。
 当時、天候は晴で風力2の北東風が吹き、潮候は上げ潮の末期で付近には微弱な西流があった。
 A受審人は、衝撃を感じて目覚め、乗り揚げたことを知り、事後の措置にあたった。
 乗揚の結果、左舷船首部船底外板に凹損及び破口を生じたが、引船2隻の来援を得て離礁し、のち修理された。

(原因)
 本件乗揚は、夜間、播磨灘北部を家島港沖合に向け西行中、居眠り運航の防止措置が不十分で、予定の転針が行われず、太島北東岸の浅所に向首進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、単独で船橋当直に就き、播磨灘北部を家島港沖合に向け西行中、数日前から連続した休息をとることができず、疲労が蓄積して眠気を催した場合、居眠り運航とならないよう、機関室当直者を呼んで2人当直とするなど、居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、1時間ばかりで家島港外に到着するから、それまで居眠りに陥ることはあるまいと思い、機関室当直者を呼んで2人当直とするなど、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、いすに腰掛けたまま単独で当直を続け、居眠りに陥って、太島北東岸の浅所への乗揚を招き、左舷船首部船底外板に凹損及び破口を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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