日本財団 図書館




 海難審判庁裁決録 >  2003年度(平成15年) > 機関損傷事件一覧 >  事件





平成15年広審第14号
件名

漁船第二十八わかば丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成15年5月15日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(西林 眞、西田克史、佐野映一)

理事官
吉川 進

受審人
A 職名:第二十八わかば丸機関長 海技免状:五級海技士(機関)(機関限定・履歴限定)
指定海難関係人
石倉 明 職名:W漁業株式会社船舶部長

損害
1番及び4番シリンダのピストンが損傷、軸受メタル等新替、のち廃船

原因
軸受等の点検不十分、主機の開放点検措置不十分

主文

 本件機関損傷は、主機潤滑油圧力の低下と同油こし器への金属粉の付着が続くようになった際、軸受等の点検が十分でなかったことによって発生したものである。
 船舶所有者の船体・機関整備統括責任者が、機関長から主機潤滑油中に金属粉が混入する経過の報告を受け、機関整備業者から主機の開放点検を勧められた際、速やかに点検する措置をとらなかったことは、本件発生の原因となる。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年1月18日18時00分
 島根県浜田港沖
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船第二十八わかば丸
総トン数 230トン
登録長 42.70メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 713キロワット
回転数 毎分810

3 事実の経過
 第二十八わかば丸(以下「わかば丸」という。)は、昭和60年2月に進水した鋼製漁船で、主機として新潟原動機株式会社(旧株式会社新潟鐵工所、更生計画に基づき平成15年2月3日付新会社として設立)が製造した6PA5L型と称するディーゼル機関を装備し、逆転減速機を介してプロペラを駆動するようになっていた。
 主機は、シリンダ径255ミリメートル(以下「ミリ」という。)行程270ミリで、各シリンダに船尾側から1番ないし6番の順番号が付され、シリンダブロックに挿入されたシリンダライナ下部に、冷却水をシールするOリングが3本装着され、連接棒大端部が斜め割りセレーション構造となっており、クランクピン軸受には、鋼製裏金の内側に銅合金であるケルメットを0.5ミリの厚さに溶着し、表面にインジウムを含有した鉛錫合金を約0.02ミリの厚さでオーバーレイを施した二層メタルが組み込まれていた。
 主機の潤滑油系統は、クランク室油だめの潤滑油が直結潤滑油ポンプ又は電動の予備潤滑油ポンプにより吸引加圧され、油冷却器、250メッシュのノッチワイヤ複式こし器(以下「1次こし器」という。)及び逆洗式精密フィルタ(以下「2次こし器」という。)を経て主機入口主管に至り、各主軸受、各シリンダのクランクピン軸受及びピストンピン軸受を順に潤滑したうえピストンを冷却するほか、カム軸、伝動歯車装置、調速機などにも分流して各部を潤滑したのち、いずれも油だめに戻り循環する主経路と、同冷却器出口で分岐して圧力調整弁を経た潤滑油が、主機上方に設けられた張込み量約1,000リットルの補助サンプタンクに送られ、オーバーフロー油がクランク室に落ちる側流経路とを設けていた。
 また、主機の潤滑油圧力は、漁船のように回転数変動が多い仕様の場合、入口主管で3.5ないし6キログラム毎平方センチメートル(以下「キロ」という。)を適正範囲とし、常用運転付近で5ないし6キロになるよう調圧され、3.5キロ以下に低下すると潤滑油圧力低下警報装置が作動するようになっていた。
 ところで、クランクピン軸受メタルは、運転時間で16,000ないし20,000時間ごとに、もしくはオーバーレイ部分の消失面積が表面の3分の1以上に達した場合に交換を要するとの保守点検基準が取扱説明書に記載されているほか、軸受部が運転中にピストンの慣性力を受け、経年によりクランクピンの下側がメタルの油溝によって段摩耗するいわゆるカムウェアを生じると、オーバーレイやケルメットに強い当たりや剥離が発生することがあるので、潤滑油中に金属粉が混入する状況となったときには、早期に点検して取替え等の判断を行う必要があった。
 わかば丸は、W漁業株式会社(以下「W漁業」という。)が平成6年にまき網漁業船団の運搬船として購入したもので、1箇月当たり22日ほど出漁していた。そして、主機は、年間約5,000時間運転し、2年毎にピストン抜き整備と主要な点検が行われ、クランクピン軸受メタルについては、同8年8月に全シリンダを、同10年には1、3、4及び6番シリンダをそれぞれ取り替え、同12年の定期検査工事では異常なしとして継続使用されていたものの、その後、クランクピンに経年摩耗によるカムウェアが発生した影響も加わって、翌13年8月の入渠工事を終えて操業を続けるうち、クランクピン軸受メタルの摩耗が進行するようになっていた。
 A受審人は、わかば丸が購入されたときから機関長として乗り組み、機関の運転管理に当たり、主機の潤滑油を毎年の入渠時に新替えするほか、2次こし器のエレメントを2年ごとに取り替え、1次こし器を3箇月ごとに切り替えて開放掃除するようにしていたところ、翌9月下旬ごろ運転中の同油圧力が5キロまで上昇しなくなり、2次こし器の差圧には異常がなく、1次こし器を開放してみると金属粉が付着していたので、毎年整備を依頼している機関整備業者に尋ねたところ、原因がはっきりしないので様子を見るように助言を受け、その後も同圧力が1キロばかり低下して同こし器を開放する都度金属粉を認めたことから、10月に入ってB指定海難関係人にその旨を連絡した。
 B指定海難関係人は、W漁業の船舶部長として船体・機関の整備を統括していたもので、A受審人から主機の潤滑油1次こし器に金属粉が付着する経過の報告を受け、同人を交えて機関整備業者の技師と協議したところ、原因調査のために操業を中断して開放点検するよう勧められたが、出渠して間がなく、漁獲も比較的好調だったのでこのまま操業を中断したくないと考え、また、同業他社の減船に伴って翌14年2月ごろに運搬船の購入を計画していたこともあって、同受審人には同こし器を注意して整備するよう指示し、速やかに主機を点検する措置をとることなく運航を続けさせた。
 一方、A受審人は、依然として2、3日すると主機の潤滑油圧力が低下し、1次こし器に金属粉が付着する状況が続いていたにもかかわらず、同こし器を開放掃除していればしばらくは運転が続けられるものと思い、B指定海難関係人に強く依頼して機関整備業者による軸受等の点検を行わなかったので、クランクピン軸受が損耗していることなどを発見できないまま運転を続けた。
 こうして、わかば丸は、引き続き操業を続けたことから、主機クランクピンのカムウェアと潤滑油圧力低下によってクランクピン軸受のオーバーレイの摩耗が急速に進行してケルメットの露出面積が増し、クランクピンとの接触でケルメット層が一部剥離し始めたばかりか、さらに1次こし器に金属粉が捕捉されるまま運転を続けて潤滑油圧力が低下する悪循環を生じたことから、やがて潤滑油量の減少でピストンの冷却も阻害されるようになり、同年1月18日の朝、水揚げ地の島根県浜田港に入港するころに主機潤滑油圧力低下が著しかったため、A受審人が入港後同こし器を開放掃除して出航に備えた。
 水揚げを終えたわかば丸は、A受審人ほか7人が乗り組み、船団の操業に加わる目的で、船首1.8メートル船尾4.5メートルの喫水をもって、同日17時30分浜田港を発し、主機を回転数毎分900として島根県沖合の漁場に向かったところ、1次こし器が再び閉塞気味となってピストンへの冷却油量が減少したため、1番及び4番シリンダのピストンが過熱膨張してシリンダライナと金属接触し、18時00分馬島灯台から真方位287度2.2海里の地点において、潤滑油圧力低下警報装置が作動するとともに、オイルミストに着火、爆発してクランク室安全弁から同ミストが噴出した。 
 当時、天候は曇で風力4の北東風が吹いていた。
 操舵室から機関室に急行したA受審人は、4番シリンダのクランク室側蓋付安全弁から周囲に潤滑油が飛散しているのを認めて主機を停止し、予備潤滑油ポンプを運転しても潤滑油圧力が上昇せず、冷却を待って同ドアを開放してクランク室を点検したところ、1番シリンダライナの裾から冷却水が漏れているのを発見して運転不能と判断した。
 わかば丸は、漁場から来援した僚船に曳航されて浜田港に引き付けられ、主機を精査した結果、1番及び4番シリンダのピストンが損傷してシリンダライナの下部に亀裂を生じていたほか、すべてのクランクピン軸受でケルメットの剥離が生じていることなどが判明し、損傷した両シリンダのピストン及びシリンダライナ、全クランクピン軸受メタル等を新替えして修理され、約1箇月操業に従事したのち廃船となった。

(原因)
 本件機関損傷は、主機潤滑油圧力の低下と1次こし器への金属粉の付着が続くようになった際、軸受等の点検が不十分で、クランクピン軸受メタルが損耗して同こし器に捕捉されるまま運転が続けられ、ピストンの冷却油量が不足したことによって発生したものである。
 船舶所有者の船体・機関整備統括責任者が、機関長から主機潤滑油中に金属粉が混入する経過の報告を受け、機関整備業者から主機の開放点検を勧められた際、速やかに点検する措置をとらなかったことは、本件発生の原因となる。

(受審人等の所為)
 A受審人は、主機の運転管理に当たり、潤滑油圧力の低下と1次こし器への金属粉の付着が続いた場合、主軸受やクランクピン軸受などの軸受メタルが損耗しているおそれがあったから、船体・機関整備を統括する船舶部長に強く依頼して機関整備業者による軸受等の点検を行うべき注意義務があった。ところが、同人は、同こし器を開放掃除していればしばらくは運転が続けられるものと思い、機関整備業者による軸受等の点検を行わなかった職務上の過失により、クランクピン軸受メタルが損耗して同こし器に捕捉されるまま運転を続け、冷却油量が不足してピストンとシリンダライナとの金属接触を招き、1番及び4番シリンダのピストンとシリンダライナ、並びに全クランクピン軸受などを損傷させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人が、機関長から主機潤滑油中に金属粉が混入する経過の報告を受け、協議した機関整備業者から主機の開放点検を勧められた際、速やかに点検する措置をとらずに運航を続けさせたことは、本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては、対応が遅れたことを反省している点に徴し、勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION