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 海難審判庁裁決録 >  2003年度(平成15年) > 機関損傷事件一覧 >  事件





平成15年函審第4号
件名

漁船立旺丸機関損傷事件(簡易)

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成15年5月29日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(岸 良彬)

理事官
河本和夫

受審人
A 職名:立旺丸機関長 海技免状:四級海技士(機関)(機関限定)

損害
ピストン及びシリンダライナ全数に焼損

原因
冷却清水系統の漏水個所の調査不十分

裁決主文

 本件機関損傷は、補機清水膨張タンクの水位が低下した際、冷却清水系統の漏水個所の調査が不十分であったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
適条

 海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年3月22日06時30分
 釧路港
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船立旺丸
総トン数 160トン
全長 38.37メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 1,029キロワット
回転数 毎分625

3 事実の経過
 立旺丸は、平成4年4月に進水した沖合底引網漁業に従事する鋼製漁船で、機関室中央に据え付けられた主機の両側に、補機として株式会社新潟鉄工所が製造した6NSF-G型と称する、定格出力161キロワット同回転数毎分1,200の過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関を各1機装備し、いずれも電圧225ボルト容量180キロボルトアンペアの交流発電機を駆動していた。
 補機の冷却清水系統は、直結の冷却清水ポンプにより加圧された冷却水が機関本体各部を冷却したのち高温用自動温度調整弁に至り、清水冷却器内蔵の容量20リットルの清水膨張タンク、低温用自動温度調整弁、空気冷却器及び潤滑油冷却器を順に経て同ポンプに戻る主経路と、高温用自動温度調整弁から直接同ポンプに戻る温水戻し経路とからなり、主経路の配管途中にはゴム製管継手が5箇所に使用され、冷却水圧力の常用値が1.1キログラム毎平方センチメートルあり、冷却水温度が摂氏95度に達すると船橋及び機関室に警報を発する装置を備えていた。
 A受審人は、平成10年10月に乗船して以来、補機の清水膨張タンクの水位計にマークを付して水量管理を行い、1箇月に1回程度少量の清水を補給する程度であったところ、右舷補機の空気冷却器と潤滑油冷却器間の配管に使用されていた長さ400ミリメートル内径48ミリメートル厚さ6ミリメートルのゴム製管継手が経年により長さ方向に亀裂を生じてわずかに漏水するようになった。
 同14年2月下旬A受審人は、右舷補機の清水膨張タンクの水位の低下が著しくなったのを認めたが、清水を補給しておけば大事に至ることはないと思い、冷却水系統の漏水個所の調査を十分に行うことなく補給を繰り返していたので、同継手からの漏水に気付かないまま運転を続けるうち、補給量も次第に増加する状況となった。
 立旺丸は、A受審人ほか13人が乗り組み、操業を終えて3月19日19時10分釧路港に帰港し、水揚げを終えたが荒天のため出漁を見合わせることとなり、船首1.2メートル船尾3.5メートルの喫水をもって東区の漁港埠頭西側岸壁2号に係留していたところ、船内電源を供給していた右舷補機の前示ゴム製管継手の亀裂が進行し、冷却水が流失して同機が冷却阻害となり、越えて22日06時30分釧路港東区北防波堤北灯台から真方位081度370メートルの係留地点において、冷却水温度上昇警報を発した。
 当時、天候は曇で風力5の南南西風が吹き、海上には白波が少し立っていた。
 折から、朝食をとるため帰宅していたA受審人は、船長から警報が出たことの電話連絡を受けて急ぎ帰船したところ、右舷補機の清水膨張タンクが空となり機関表面が過熱しているのを認め、左舷補機を運転して電源を切り替えたのち、しばらく低速運転を続けて停止し、整備業者に修理を手配した。
 立旺丸は、右舷補機が開放された結果、ピストン及びシリンダライナ全数に焼損を生じていることなどが判明し、のちいずれも新替修理された。

(原因)
 本件機関損傷は、補機清水膨張タンクの水位が低下した際、冷却清水系統の漏水個所の調査が不十分で、ゴム製管継手に亀裂を生じたまま運転が続けられ、冷却水が流失したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、補機清水膨張タンクの水位の低下が著しくなったのを認めた場合、漏水が拡大して冷却阻害となるおそれがあったから、冷却清水系統の漏水個所の調査を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、清水を補給しておけば大事に至ることはないと思い、冷却清水系統の漏水個所の調査を十分に行わなかった職務上の過失により、ゴム製管継手に亀裂を生じていることに気付かないまま運転を続けて冷却水の流失を招き、全数のピストン及びシリンダライナに焼損を生じさせるに至った。





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