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 海難審判庁裁決録 >  2003年度(平成15年) > 遭難事件一覧 >  事件





平成15年神審第15号
件名

プレジャーボートボートエース遭難事件(簡易)

事件区分
遭難事件
言渡年月日
平成15年4月23日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(甲斐賢一郎)

副理事官
河野 守

受審人
A 職名:ボートエース船長 海技免状:四級小型船舶操縦士

損害
航行不能のまま漂流し、のち転覆

原因
気象・海象に対する配慮不十分

裁決主文

 本件遭難は、気象海象に対する情報収集が不十分で、雷強風波浪注意報が発令中であることを知らないまま発航したことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
適条

 海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年11月3日14時25分
 京都府伊根港 

2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボートボートエース
全長 3.08メートル
機関の種類 電気点火機関
出力 3キロワット

3 事実の経過
 ボートエースは、普通乗用車等のカートップに設置したキャリヤーで固定して運搬できる軽量の超高分子ポリエチレン製プレジャーボートで、A受審人が単独で乗り組み、友人1人を同乗させ、魚釣りの目的で、船首0.20メートル船尾0.45メートルの喫水をもって、平成14年11月3日07時00分伊根港の通称カルビ海岸のスロープ(以下「スロープ」という。)を発し、伊根港内の釣り場に向かった。
 ところで、ボートエースは、艇体が中空二重構造の一体成型となっており、200リットルを超える空気室を持ち、艇内が冠水しても沈没しない構造であったが、いわゆる甲板部を持たず、乾舷も小さいので、荒天下では波の打ち込みで容易に浸水して航行困難な状況に陥るおそれがあった。
 また、当日の気象海象は、朝方には南寄りの弱い風が吹いて海面も穏やかであったが、雷強風波浪注意報が発令中で、今後強風が吹いて大きな風浪が発生することが予想されていた。
 A受審人は、発航に先立ち、今のところ風が弱いので大丈夫と思い、ラジオの気象情報を聞くなどして正確な気象海象に対する情報収集を十分に行っていなかったので、前示注意報が発令中であることを知らないまま発航した。
 A受審人は、発航直後、スロープ前面沖で釣りを開始し、その後伊根港内を移動して釣りを行い、同日14時青島北方沖の伊根港灯台から050度(真方位、以下同じ。)400メートルの地点で竿を納めてスロープに戻ることとし、船首部に救命胴衣を着用した同乗者を座らせ、自らも救命胴衣を着用して船尾部に腰を下ろして発進し、帰途に着いた。
 14時05分A受審人は、青島の東から外海へ出て、伊根港灯台から105度580メートルの地点に至ったとき、船首を東に向け、3.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、スロープに向けて進行したが、そのころから西寄りの風が強まり、すぐに強風が連吹して風浪も高まって、西寄りの風浪を右舷船尾方から受けるようになり、右舷船尾から海水が艇内に打ち込み始めたものの、スポンジなどで排水をしながらスロープへ向けて続航した。
 14時09分A受審人は、艇内の海水を排出しながら伊根港灯台から098度900メートルの地点まで進行したが、スロープ付近の状況を見ると、大きな波が連続してスロープを洗っていたので接岸を断念し、青島の陰となる水域へ避難しようと反転し、針路を244度に定めたものの、風波により速力が0.6ノットの低速力となるとともに、右舷船首からの海水の打ち込みが一段と激しくなって排水が追いつかず、乾舷が減少して水船状態となりながら続航した。
 14時25分A受審人は、伊根港灯台から107度720メートルの地点に至り、船外機が空気取り入れ口から海水を吸って停止し、航行不能となった。
 当時、天候は曇で風力6の西風が吹き、潮候は下げ潮の初期で、波高約1.5メートルの波浪があった。
 その結果、ボートエースは、航行不能のまま漂流し、04時30分右舷側から大波を受け転覆して船外機に濡損を生じたが、漁船により回収されたのち修理された。また、A受審人及び同乗者は、転覆時海中に投げ出されたが、自力で付近海岸に泳ぎ着いて無事であった。

(原因)
 本件遭難は、京都府伊根港において、魚釣りを行おうとする際、気象海象に対する情報収集が不十分で、雷強風波浪注意報が発令中であることを知らないまま発航したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、京都府伊根港において、無甲板型で軽量小型のボートエースを使用して魚釣りを行おうとする場合、ラジオの気象情報を聞くなど気象海象に対する情報収集を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、発航に先立ち、今のところ風が弱いので大丈夫と思い、気象海象に対する情報収集を十分に行わなかった職務上の過失により、折から雷強風波浪注意報が発令中であることを知らないまま発航し、その後魚釣りを終えて帰途についた際、風波が強まって艇内に大量の海水が打ち込んで乾舷が減少し、船外機が空気取り入れ口から海水を吸い込んで停止し、自船を航行不能にさせたのち転覆させ、船外機を濡損させるに至った。





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