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 海難審判庁裁決録 >  2003年度(平成15年) > 乗揚事件一覧 >  事件





平成14年那審第55号
件名

プレジャーボート第三海勇丸乗揚事件(簡易)

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成15年6月27日

審判庁区分
門司地方海難審判庁那覇支部(坂爪 靖)

副理事官
神南逸馬

受審人
A 職名:第三海勇丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
プロペラを破損、船底外板全般に小破口及び舵に折損、のち廃船

原因
守錨対策不履行

裁決主文

 本件乗揚は、船内を無人とし、守錨対策がとられなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年5月4日03時00分
 沖縄県硫黄鳥島南西岸
 
2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボート第三海勇丸
総トン数 6.3トン
登録長 10.98メートル
3.27メートル
深さ 0.95メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 205キロワット

3 事実の経過
 第三海勇丸(以下「海勇丸」という。)は、船体後部に操舵室を設けた最大とう載人員13人のFRP製プレジャーボートで、平成10年4月15日に一級小型船舶操縦士免許を取得したA受審人が1人で乗り組み、友人など12人を乗せ、レジャーの目的で、船首0.55メートル船尾1.80メートルの喫水をもって、平成14年5月2日10時00分沖縄県金武中城港天願地区を発し、同県硫黄鳥島に向かった。
 硫黄鳥島は、沖縄島北端辺戸岬の北方約59海里に位置する、北北西方から南南東方への長さ約3,000メートル、幅約900メートルの無人島で、その周囲は断崖となっていて、船舶を係留できる場所はなかったものの、同島南西岸の一部に砂浜があったので、ここが釣人などの上陸地点やキャンプ場などに利用されていた。
 翌3日08時30分A受審人は、硫黄鳥島南西岸付近に至って漂泊して釣りを始め、時々潮上りしながら釣りを行ったのち、15時00分前示砂浜から南方へ180メートル離れた、硫黄鳥島212メートル頂(以下「硫黄鳥島頂」という。)から165度(真方位、以下同じ。)2,270メートルの地点で、水深が約15メートル、底質が砂と岩が混在するところに、重さ約40キログラムの6爪錨を船首から投下し、同錨に取り付けた約1メートルのチェーンに直径14ミリメートルの合成繊維製の錨索を結び付け、これを約50メートル延出して錨泊した。
 ところで、A受審人は、硫黄鳥島南西岸沖合での錨泊は今回が初めてであったが、それまでに他船で何度か同島付近で漂泊して釣りを行った経験があったことから、友人などに呼びかけ、同島付近で釣りを楽しんだあと同島南西岸の砂浜でキャンプをする計画を立てていたもので、同島には係留場所がなかったため、前示のとおり錨泊した。
 A受審人は、翌日まで錨泊を続けるつもりでいたが、投錨時風が弱く、海上も穏やかであったことから、大丈夫と思い、自らが海勇丸に残り、錨索の張り具合や錨位を監視するなどの守錨対策をとらないで、船内を無人としたまま、錨泊して間もなく乗船者全員で手漕ぎのゴムボートにより同島南西岸の砂浜に上陸し、キャンプを始めた。
 18時00分A受審人は、いったん1人でゴムボートを漕いで帰船し、停泊灯を点灯し、次いで、念のため、重さ約50キログラムの予備錨の5爪錨を船首から投下して2錨泊とし、これに取り付けた直径20ミリメートルの合成繊維製の錨索を約60メートル延出した。そして、船首が南寄りの弱い風に立ち錨索が張って錨が効いたあと、両錨索とも同じ方向に適度に張っていて異常がないことを確かめ、再び硫黄鳥島南西岸の砂浜に上陸した。
 こうして、海勇丸は、無人のまま錨泊中、同月4日02時30分ごろ両錨索が海底の岩で擦れるかして錨から約20メートルの箇所で両錨索とも切断して風下に圧流されだし、そのころ同船のことが気になり寝られずに同船の方を眺めていたA受審人がこれに気付いたが、真夜中でどうすることもできないでいるうち、03時00分硫黄鳥島頂から172度1,800メートルの地点において、船首が315度を向いて、硫黄鳥島南西岸の浅礁に乗り揚げた。
 当時、天候は晴で風力3の南東風が吹き、潮候は下げ潮の初期であった。
 乗揚の結果、プロペラを破損したほか、船底外板全般に小破口及び舵に折損を生じたが、救助船により引き下ろされ、のち廃船とされた。

(原因)
 本件乗揚は、夜間、沖縄県硫黄鳥島南西岸沖合において、錨泊する際、船内を無人とし、守錨対策がとられず、錨索が切断して風下の同島南西岸の浅礁に向かって圧流されたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、沖縄県硫黄鳥島南西岸沖合において、錨泊する場合、錨索切断などの事態に対応できるよう、船内を無人としないで、自らが海勇丸に残り、錨索の張り具合や錨位を監視するなどの守錨対策をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、投錨時風が弱く、海上も穏やかであったことから、大丈夫と思い、船内を無人とし、守錨対策をとらなかった職務上の過失により、錨索が切断して風下の硫黄鳥島南西岸の浅礁に向かって圧流されて乗揚を招き、海勇丸のプロペラを破損させたほか、船底外板全般に小破口及び舵に折損を生じさせ、同船を廃船させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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