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 海難審判庁裁決録 >  2003年度(平成15年) > 乗揚事件一覧 >  事件





平成15年門審第15号
件名

漁船正法丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成15年6月16日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(小寺俊秋、長浜義昭、千葉 廣)

理事官
島 友二郎

受審人
A 職名:正法丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
船底部外板に破口、機関を濡損、のち廃船

原因
居眠り運航防止措置不十分

主文

 本件乗揚は、居眠り運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年6月28日22時00分
 鹿児島県枕崎港

2 船舶の要目
船種船名 漁船正法丸
総トン数 4.97トン
登録長 9.80メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 90

3 事実の経過
 正法丸は、船体中央部に操舵室を有するFRP製漁船で、A受審人が単独で乗り組み、かつお一本釣り漁の目的で、船首0.5メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、平成14年6月26日09時00分鹿児島県枕崎港を発し、同人が受有する操縦免許(5トン限定二級小型船舶操縦士)で運航が可能な海岸から5海里以内の航行区域を超え、同県硫黄島西南西方約9海里の漁場へ向かった。
 A受審人は、13時ごろ前示漁場に至って操業を開始したが、漁獲がなかったので1時間ばかりでいったん操業を中断したのち、新たな漁場に向かうため、南西方に約80海里航行し、翌27日03時00分臥蛇島西方約30海里の海域で漂泊して2時間ほど仮眠をとり、日出時ごろから同海域で操業を再開した。
 A受審人は、日没後再び漂泊して翌28日も早朝から操業を開始したが、ラジオ放送により、低気圧接近に伴い天候が悪化する旨の情報を得たため、カツオ100キログラムを獲て操業を切り上げ、10時00分臥蛇島灯台から266度(真方位、以下同じ。)32.5海里の地点を発進し、針路を航程約110海里で枕崎港沖合に直行する041度に定め、機関を全速力前進にかけ、9.2ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、自動操舵により帰航の途に就いた。
 こうしてA受審人は、発進後操舵室の中央よりやや後方、床から高さ70センチメートル(以下「センチ」という。)のところに横方向に設置した、幅30センチの木製の板(以下「長いす」という。)に座り、早朝からの操業に引き続き連続した船橋当直に就き、レーダーを作動させて北上中、日没時を過ぎたころから眠気を催し、時々長いすから立ち上がって体を動かしたり、操舵室から外に出て外気に当たったりして眠気を払っていた。
 21時28分A受審人は、坊ノ岬灯台から150度3.5海里の地点に達したとき、枕崎港の南西方1.5海里にある立神瀬がレーダー映像で3海里になったのを認め、間もなく入港できるので何とか眠気を我慢できると思い、以降、長いすに座ったまま、操舵室の外に出て外気に当たるなど、居眠り運航の防止措置を十分にとらなかったので、やがて居眠りに陥った。
 正法丸は、枕崎港の岩戸海岸に向首して進行中、22時00分枕崎港東防波堤灯台から081度1,900メートルの地点において、原針路、原速力のまま、同海岸に乗り揚げた。
 当時、天候は雨で風力3の東風が吹き、潮候はほぼ低潮時であった。
 乗揚の結果、船底部外板に破口を生じて機関を濡損し、のち廃船とされた。

(原因)
 本件乗揚は、夜間、枕崎港の南西方沖合において、同港に向けて帰航中、居眠り運航の防止措置が不十分で、同港岩戸海岸に向首したまま進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、枕崎港の南西方沖合において、単独で乗り組み同港に向けて帰航中、眠気を催した場合、早朝からの操業に引き続き連続した船橋当直に就いていたので、操舵室の長いすに座ったままでいると居眠りに陥るおそれがあったから、同室の外に出て外気に当たるなど、居眠り運航の防止措置を十分にとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、間もなく入港できるので何とか眠気を我慢できると思い、居眠り運航の防止措置を十分にとらなかった職務上の過失により、長いすに座ったまま居眠りに陥り、同港岩戸海岸に向首進行して乗揚を招き、船底部外板に破口を生じさせ、機関を濡損させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して、同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。





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