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 海難審判庁裁決録 >  2003年度(平成15年) > 乗揚事件一覧 >  事件





平成15年広審第23号
件名

貨物船旭伸丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成15年6月19日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(佐野映一、高橋昭雄、西林 眞)

理事官
岩渕三穂

受審人
A 職名:旭伸丸船長 海技免状:五級海技士(航海)

損害
船首部船底に破口を伴う凹損

原因
居眠り運航防止措置不十分

主文

 本件乗揚は、居眠り運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年4月28日05時35分
 山口県祝島南岸

2 船舶の要目
船種船名 貨物船旭伸丸
総トン数 199トン
登録長 43.01メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 478キロワット

3 事実の経過
 旭伸丸は、専ら塩酸の輸送に従事する船尾船橋型の液体化学薬品ばら積み船で、A受審人ほか2人が乗り組み、空倉で、船首0.70メートル船尾2.40メートルの喫水をもって、平成14年4月27日11時00分大阪港を発し、積地の福岡県三池港に向かった。
 ところでA受審人は、前日26日早朝大阪港に入港着桟し、約4時間の揚げ荷役作業に従事したのち、翌日に予定されていたカーゴポンプ修理のため同港内安治川の桟橋にシフトして着桟し、夕方から私用で上陸したあと23時頃帰船して就寝し、翌27日08時00分から書類整理や同修理に立ち会った後、同港を出航したもので、同年2月以降沖待ちのない航海が続いていたものの、このたびの大阪港入港中はカーゴポンプ修理で一泊したため、十分に休息をとることができた。
 また、旭伸丸は、空船における自動操舵の保針性が比較的悪く、気象や海象によっては設定した針路が各舷に3度ないし5度振れることがあったので、そのようなときA受審人は、手動操舵に切り替えて保針にあたっていた。
 A受審人は、船橋当直を自らと一等航海士による単独5時間ないし6時間の2直制とし、食事時の30分ないし1時間は機関長を船橋当直にあてることとし、出航操船ののち、12時00分船橋当直を一等航海士と交替して休息をとり、18時00分昇橋し、夕食時で入直中の機関長と交替して船橋当直に就き、宮ノ窪瀬戸を通峡して23時40分次直の一等航海士に船橋当直を引き継ぎ、自室に退いて休息をとった。
 翌28日04時30分A受審人は、目覚まし時計で起床して昇橋し、同時50分山口県天田島の東北東方約3海里の地点で、前直の一等航海士から手動操舵で引き継いで単独の船橋当直に就き、いつものように舵輪後方の椅子に座って当直にあたりながら西行し、05時06分天田島灯台から134度(真方位、以下同じ。)1,390メートルの地点で、針路を祝島南西方灯浮標に向く264度に定め、機関を全速力前進にかけて10.0ノットの速力とし手動操舵により進行した。
 定針して間もなくA受審人は、右舷船首方に南下する漁船と思われる灯火を認め、05時11分少し過ぎ天田島灯台から211度1,290メートルの地点に達したころ、同灯火を左舷方に替わすため、右転して針路を274度として続航した。
 ところが、A受審人は、幾度となく航行した海域であったことや、視界も良好で付近には左舷方に遠ざかっていく漁船と思われる灯火の他に航行船も見当たらなかったので気が緩み、眠気を催したが、椅子から立ち上がったり外気に当たるなどして居眠り運航の防止措置をとることなく、椅子に座ったまま当直にあたるうち、いつしかわずかに右舵をとったまま居眠りに陥った。
 こうして、旭伸丸は、わずかに右回頭して、山口県祝島南岸に向首するようになったまま進行し、05時35分鼻繰島灯台から252度3.0海里の地点において、船首が297度に向いたとき、原速力のまま、祝島南岸の岩礁に乗り揚げた。
 当時、天候は曇で風力2の西風が吹き、潮候は上げ潮の中央期で、鼻繰瀬戸には微弱な北流があった。
 乗揚の結果、船首部船底に破口を伴う凹損を生じたが、徳山海上保安部の巡視船によって引き下ろされ、のち修理された。

(原因)
 本件乗揚は、夜間、山口県祝島南東方沖合を西行中、居眠り運航の防止措置が不十分で、同島南岸に向かって進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、単独の船橋当直に就き、椅子に座って手動操舵にあたり、山口県祝島南東方沖合を西行中、眠気を催した場合、椅子から立ち上がったり外気に当たるなどして居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかし、同人は、椅子に座ったまま当直を続け、何ら居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、居眠りに陥り、同島南岸に向かって進行して乗揚を招き、船首部船底外板に破口を伴う凹損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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