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 海難審判庁裁決録 >  2003年度(平成15年) > 乗揚事件一覧 >  事件





平成14年門審第135号
件名

漁船第十一栄丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成15年5月27日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(安藤周二、長谷川峯清、小寺俊秋)

理事官
黒田敏幸

受審人
A 職名:第十一栄丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
左舷船尾部外板に破口及びプロペラ流失等の損傷、のち廃船

原因
居眠り運航防止措置不十分

主文

 本件乗揚は、居眠り運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年11月6日02時50分
 宮崎県南郷町大島南岸

2 船舶の要目
船種船名 漁船第十一栄丸
総トン数 9.97トン
登録長 11.90メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 65

3 事実の経過
 第十一栄丸(以下「栄丸」という。)は、まぐろはえ縄漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人が実兄と2人で乗り組み、操業の目的で、船首0.8メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、平成13年10月30日06時00分宮崎県内海港を発し、種子島南東方沖合約15海里の漁場で操業したのち、漁獲物の水揚げ等のため、11月5日15時00分同漁場を発進し、同県目井津漁港に向かった。
 ところで、栄丸は、1週間程度の航海を周年にわたって繰り返し、操業を、日出前の薄明時から約3時間かけて長さ40キロメートルのはえ縄を投入し、正午ごろから約9時間かけて揚縄したのち、夜間に5時間ほどかけて翌日の投縄開始地点に移動する形態で行っていた。A受審人は、移動時には自らが操船に当たり、投・揚縄作業時には同作業と操船とを実兄と適宜分担して行っていたので、毎日4時間ほどの仮眠を断続的にとるだけで、睡眠不足のうえ疲労が蓄積している状況であった。
 A受審人は、操舵装置及び主機遠隔操縦装置が操舵室屋上のオーニングを展張した暴露甲板に設置されていたので、平素、出入港のとき両装置を使用し、それ以外は同室内で遠隔操作器を使用して操船を行っていた。
 こうして、A受審人は、発進後船橋当直に就いて北上したのち、20時ごろ同当直を実兄と交代して休息をとり、翌6日00時00分宮崎県都井岬の南方10海里付近で再び昇橋して単独の船橋当直に就き、操舵室左舷前部に設置したレーダーを作動させ、仮眠用として同室床に敷いた布団の上に座り込み、時々レーダー画面を見たり、窓越しに前路を見たりしながら北上を続けた。
 01時22分A受審人は、都井岬灯台から091度(真方位、以下同じ。)3.3海里の地点に達したとき、針路を002度に定め、機関を全速力前進の回転数毎分1,300のところ同1,200にかけ、6.0ノットの対地速力で、鞍埼灯台の南西方1,000メートル付近を転針予定地点として、そこで目井津漁港に向けるつもりで、自動操舵により進行した。
 01時50分A受審人は、都井岬灯台から050度4.4海里の地点に至ったとき、レーダー映像に表示された宮崎県陸岸まで約2海里の離岸距離で、ほぼ予定の進路を北上していることを確認して安心し、布団にあお向きになって腰を伸ばしたところ、連続した操業による疲労の蓄積と睡眠不足であったこととから、眠気を催し、そのまま単独の船橋当直を続けると居眠りに陥るおそれがあったが、目的地までもう少しなので何とか眠気を我慢できるものと思い、操舵室屋上に設置された操舵装置で操舵を手動に切り替えたうえ、休息中の実兄を起こして交互に操舵に当たるなど、居眠り運航の防止措置を十分にとることなく、同じ姿勢で進行しているうち、いつしか居眠りに陥った。
 02時45分栄丸は、前示転針予定地点に達したが、A受審人が居眠りに陥っていて予定の転針が行われず、宮崎県南郷町大島の南岸に向首して進行中、02時50分鞍埼灯台から284度200メートルの地点において、原針路、原速力のまま、同島南岸の岩礁に乗り揚げた。
 当時、天候は曇で風力3の南西風が吹き、潮候はほぼ低潮時であった。
 乗揚の結果、左舷船尾部外板に破口及びプロペラ流失等の損傷を生じ、サルベージ船によって乗揚地点西方2海里の宮崎県外浦港に引き付けられたが、のち修理費の都合により廃船処理された。

(原因)
 本件乗揚は、夜間、宮崎県都井岬北東方沖合を北上中、居眠り運航の防止措置が不十分で、同県南郷町大島の南岸に向首したまま進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、単独の船橋当直に就き、宮崎県都井岬北東方沖合を自動操舵として北上中、眠気を催した場合、連続した操業による蓄積した疲労と睡眠不足とのために居眠りに陥るおそれがあったから、居眠り運航にならないよう、操舵室屋上に設置された操舵装置で操舵を手動に切り替えたうえ、休息中の実兄を起こして交互に操舵に当たるなど、居眠り運航の防止措置を十分にとるべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、目的地までもう少しなので何とか眠気を我慢できると思い、居眠り運航の防止措置を十分にとらなかった職務上の過失により、操舵室内の床にあお向きになって腰を伸ばしているうち、いつしか居眠りに陥り、同県南郷町大島の南岸に向首したまま進行して乗揚を招き、左舷船尾部外板に破口及びプロペラ流失等の損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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