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 海難審判庁裁決録 >  2003年度(平成15年) > 乗揚事件一覧 >  事件





平成15年門審第29号
件名

漁船第五十五金比羅丸乗揚事件(簡易)

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成15年5月20日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(西村敏和)

副理事官
小俣幸伸

受審人
A 職名:第五十五金比羅丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
船底部に亀裂を伴う損傷、魚倉及び機関室に浸水

原因
船位確認不十分

裁決主文

 本件乗揚は、船位の確認が不十分であったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
適条

 海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号

裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年9月12日15時19分
 山口県角島北東方沖合の三ケ瀬

2 船舶の要目
船種船名 漁船第五十五金比羅丸
総トン数 19トン
全長 24.00メートル
登録長 19.61メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 603キロワット

3 事実の経過
 第五十五金比羅丸は、いか一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか2人が乗り組み、操業の目的で、船首0.45メートル船尾1.50メートルの喫水をもって、平成14年9月12日14時55分山口県特牛港(とっといこう)を発し、海士ケ瀬戸(あまがせと)経由で同県角島沖合の漁場に向かった。
 A受審人は、操舵室右舷側でいすに腰を掛けて単独で操船に当たり、機関を回転数毎分1,000の半速力前進にかけて海士ケ瀬戸に向かい、15時13分角島大橋を通過した後、角島東岸を約500メートル隔てて北上した。
 ところで、角島の北東方沖合には、同島北東岸から約700メートルのところに三ケ瀬(さんがせ)と称する干出岩や暗岩から成る危険な岩場が拡延し、さらに、その北西方約400メートルのところには一ツ礁が存在していたが、角島周辺海域が好漁場となっていることから、小型漁船が昼夜を問わず同島北東方を通航していた。
 そのため、元山三ケ瀬北東照射灯(以下「三ケ瀬北東照射灯」という。)から021度(真方位、以下同じ。)1,020メートルの三ケ瀬北東端に、平均水面上の高さ3.3メートルの白色に塗色された標柱(以下「北東標柱」という。)が設置され、さらに、同照射灯から004度720メートルの同瀬南西端に、同じ高さの緑色に塗色された標柱(以下「南西標柱」という。)が設置されていて、夜間には、三ケ瀬北東照射灯により北東標柱が、また、同所に併設された元山三ケ瀬南西照射灯により南西標柱がそれぞれ照射され、約400メートル隔てた両標柱間に三ケ瀬が存在することが示されていた。
 A受審人は、漁獲したいかの水揚げのために特牛港に入港することがあり、その際には、角島北東方及び海士ケ瀬戸を通航していたので、角島北東方に三ケ瀬などの危険な岩場が存在することなど、角島周辺海域の水路事情については良く知っていた。
 A受審人は、角島大橋を通過して間もなく、左舷前方約1海里のところに三ケ瀬の両標柱を視認し、いつものように北東標柱の東方を通過するつもりで、機関を回転数毎分1,200の全速力前進として、12.0ノットの対地速力で、海士ケ瀬戸北口を北上した。
 15時15分半A受審人は、三ケ瀬北東照射灯から113度800メートルの地点において、針路を北東標柱の東方約300メートルに向く357度に定めたとき、北東標柱を左舷船首14度1,330メートルのところに、南西標柱を左舷船首30度1,230メートルのところにそれぞれ視認し、両標柱によって船位を確認しながら、手動操舵により進行した。
 ところが、A受審人は、海士ケ瀬戸を通過して外海に出たことで安堵し、操舵室中央後部の板の間に座っていた母親と雑談を始めるようになり、左後方を向いて言葉を交わしているうち、いつしか針路を北東標柱の東方に向けて定針したことを失念し、船首マストなどの船首構造物によって船首方向の見通しが部分的に妨げられ、北東標柱が見え隠れしていたこともあって南西標柱を北東標柱と思い込み、時折、左舷前方の南西標柱を確認しながら続航した。
 15時17分半A受審人は、三ケ瀬北東照射灯から057.5度800メートルの地点に差し掛かり、北東標柱と誤認した南西標柱を左舷船首65度700メートルに見るようになったとき、針路を左に転じることにしたが、いすに腰を掛けたまま雑談を続けていて、両標柱との位置関係により、船位の確認を十分に行わなかったので、標柱を誤認していることに気付かず、針路を326度に転じたところ、北東標柱がほぼ正船首600メートルとなり、同標柱付近の岩場に著しく接近する状況で進行した。
 こうして、A受審人は、左舷正横付近となった南西標柱を北東標柱と誤認したまま続航し、15時19分少し前、三ケ瀬北東照射灯から027度950メートルの地点に達したとき、北東標柱がほぼ正船首100メートルとなったが、依然として、南西標柱との位置関係だけを確認し、船位の確認を十分に行っていなかったので、正船首の北東標柱に気付かずに進行中、漁場に向ける針路に転じようとして少し左舵をとって左回頭を始め、同時19分わずか前、三ケ瀬の北西方にある一ツ礁を確認しようと前方を見たとき、右舷船首至近に北東標柱を認めたが、どうすることもできず、15時19分三ケ瀬北東照射灯から022度1,000メートルの地点において、左回頭中の第五十五金比羅丸は、船首が319度を向いたとき、原速力のまま、北東標柱至近の岩場に乗り揚げた。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の中央期であった。
 乗揚の結果、第五十五金比羅丸は、船底部に亀裂を伴う損傷を生じて前部甲板下の魚倉及び機関室に浸水し、起重機船により山口県粟野港に運搬され、のち修理された。

(原因)
 本件乗揚は、山口県角島北東方沖合を漁場に向けて北上する際、船位の確認が不十分で、三ケ瀬北東標柱至近の岩場に著しく接近したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、山口県角島北東方沖合を漁場に向けて北上する場合、角島北東方沖合には、三ケ瀬などの危険な岩場が存在していたのであるから、これに著しく接近することのないよう、三ケ瀬の両端に設置された北東標柱及び南西標柱との位置関係により、船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、乗組員と雑談しながら操船を行い、船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、北東標柱至近の岩場に著しく接近して乗揚を招き、第五十五金比羅丸の船底部に亀裂を生じさせ、前部魚倉及び機関室に浸水させるに至った。





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