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 海難審判庁裁決録 >  2003年度(平成15年) > 乗揚事件一覧 >  事件





平成15年広審第35号
件名

プレジャーボート幸福丸乗揚事件(簡易)

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成15年5月14日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(西田克史)

理事官
亀井龍雄
副理事官
園田 薫

受審人
A 職名:幸福丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
船底中央部外板に破口

原因
針路選定不適切

裁決主文

 本件乗揚は、針路の選定が適切でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
適条

 海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号

裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年12月23日06時30分
 愛媛県西浦漁港西方沖合

2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボート幸福丸
総トン数 8.12トン
登録長 10.30メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 139キロワット

3 事実の経過
 幸福丸は、FRP製プレジャーボートで、A受審人が1人で乗り組み、知人1人を同乗させ、釣りの目的で、船首0.4メートル船尾1.3メートルの喫水をもって、平成14年12月23日06時20分愛媛県西浦漁港を発し、同漁港南南西方沖合の沖ノ磯に向かった。
 ところで、西浦漁港から西方に延びる陸岸の北端(以下「岬」という。)沖合には浅所が存在し、岬から北方約40メートルのところに耳毛と称する干出岩を含む岩礁域(以下「耳毛の岩礁」という。)が広がり、また、耳毛の岩礁から北東方約200メートルのところに赤碆と称する水上岩があって、その頂部に紅色回転灯の付いた簡易標識灯(以下「赤碆灯標」という。)が設置されていた。
 A受審人は、長年、地元で漁師や瀬渡しの仕事をしていたことから岬沖合の浅所の存在を知っており、数年前に引退したあとも時折釣りに出かけることがあって、沖ノ磯など南方の釣り場に向かうときには赤碆と耳毛の岩礁との間を通り、その際耳毛の岩礁を視認すれば数メートルまで近づいて航過し、高潮時などでそれが水面下に隠れるようであれば、その付近で発生する磯波の様子を確かめながら少しばかり迂回するようにしていた。
 発航したA受審人は、操縦席に腰を掛けて操舵と見張りにあたり、北上して間もなく道越鼻北方沖合に至り、06時24分伊予鹿島灯台から096度(真方位、以下同じ。)1,880メートルの地点で、針路を同灯台と赤碆灯標とがほぼ重なる275度に定め、機関を半速力前進にかけ、5.9ノットの速力で手動操舵により進行した。
 06時26分半A受審人は、伊予鹿島灯台から096度1,425メートルの地点に達したとき、それまで先航していた1隻の漁船を左舷側に追い抜き前路に他船がいなくなったことから、左転して岬寄りに航行することとしたが、日出前の薄明時で周囲がまだ薄暗いうえ、海上平穏で磯波の発生もなく、目視により耳毛の岩礁を確かめることが困難な状況であったのに、そのうち同岩礁を見付けてこれを替わせるものと思い、引き続き赤碆灯標を船首目標にこれに接航するなどして、耳毛の岩礁を大きく迂回する安全な針路を選定することなく、ぼんやりとした岬の輪郭を見て針路を261度に転じ、同岩礁に著しく接近する状況で続航した。
 こうして、A受審人は、前路のわずかに干出した岩に気付かないまま進行中、突然船底に衝撃を感じ、06時30分伊予鹿島灯台から107度830メートルの地点において、幸福丸は、原針路、原速力で耳毛の岩礁に乗り揚げた。
 当時、天候は晴で風はなく、潮候は上げ潮の初期にあたり、日出は07時10分であった。
 乗揚の結果、船底中央部外板に破口を生じ、間もなく自然離礁し漂流中のところ来援した僚船に救助され、のち修理された。

(原因)
 本件乗揚は、日出前の薄明時、愛媛県西浦漁港西方沖合を西行する際、針路の選定が不適切で、耳毛の岩礁に接近し過ぎたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、日出前の薄明時、愛媛県西浦漁港西方沖合を西行する場合、周囲がまだ薄暗いうえ、海上平穏で磯波の発生もなく、目視により耳毛の岩礁を確かめることが困難な状況であったから、引き続き赤碆灯標を船首目標にこれに接航するなどして、耳毛の岩礁を大きく迂回する安全な針路を選定すべき注意義務があった。しかるに、同人は、そのうち同岩礁を見付けてこれを替わせるものと思い、耳毛の岩礁を大きく迂回する安全な針路を選定しなかった職務上の過失により、同岩礁に接近し過ぎて乗揚を招き、船底中央部外板に破口を生じさせるに至った。





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