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 海難審判庁裁決録 >  2003年度(平成15年) > 乗揚事件一覧 >  事件





平成15年広審第1号
件名

漁船神海丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成15年4月16日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(高橋昭雄、西林 眞、佐野映一)

理事官
雲林院信行

受審人
A 職名:神海丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:神海丸甲板員 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
球形船首部に破口及び船首部船底等に擦過傷
甲板員1人が第6頸椎剥離骨折

原因
居眠り運航防止措置不十分、当直引継の不適切

主文

 本件乗揚は、居眠り運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年6月3日05時30分
 島根県仁万港北方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船神海丸
総トン数 14トン
全長 21.80メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 515キロワット

3 事実の経過
 神海丸は、平成14年4月に進水したばかりの少ない乗組員数で操業することができるよう漁ろう設備が機械化された船首船橋型の軽合金製漁船で、A及びB両受審人ほか3人が乗り組み、ばいかご漁の目的で、船首1.5メートル船尾2.8メートルの喫水をもって、同年6月2日13時00分島根県仁万港の係留地を発し、同港北方沖合約35海里の漁場に向かい、15時30分漁場に至って操業を開始した。
 ところで、A受審人は、島根県内では資源保護のため神海丸を含めた7隻にしか許可されていないばいかご漁が前日の1日に解禁されたことから、同日は港で出漁準備を行い、翌2日に新造船では初めての同漁に出漁したもので、その操業は、これまで同様に100個のばいかごを取り付けた長さ約1,800メートルの幹縄6本を、約4時間毎の簡単な食事を挟んで昼夜にわたって連続して仕掛けるものであったが、従来とは異なり少ない乗組員数と新たな漁ろう設備による操業の手順を一つずつ確認しながら作業を進めなければならなかったため、同人をはじめ全乗組員がこれまでより疲労した状態となっていた。また、A受審人は、平素から仁万港と漁場との往復の船橋当直を自らが単独で行い、他の乗組員は、その間休息をとることができた。
 操業を終えたA受審人は、帰航の途につくこととし、翌3日02時30分出雲日御碕灯台から321度(真方位、以下同じ。)18.2海里の地点で、針路を180度に定め、機関を回転数毎分1,500の全速力前進にかけ、10.0ノットの対地速力で自動操舵により進行した。
 ところが、A受審人は、新造船による初めてのばいかご漁の疲労から強い眠気を催し、それを我慢して当直を続けることが難しくなり、短時間の休息をとるため、B受審人を呼んで昇橋させ船橋当直を行わせることとし、03時30分出雲日御碕灯台から290度12.2海里の地点に達して船橋当直を交替するとき、新造船による初めての操業で自分のみならずB受審人も疲労し居眠りに陥るおそれがあったが、短時間であれば1人で船橋当直を行わせても大丈夫と思い、甲板員2人で当直を行わせるなどの居眠り運航の防止措置をとることなく、B受審人に単独の船橋当直を命じ、30分経ったら起こすよう指示して操舵室左舷後部のベッドに横になり休息をとった。
 一方、B受審人は、立って船橋当直にあたっていたところ、新造船による初めてのばいかご漁で足に強い疲労を覚え、操舵室中央にある椅子に腰掛けて当直を続けるうちに眠気を催したが、操舵室後部のベッドで休息中の船長に知らせるなり、他の休息中の甲板員を呼んで2人当直とするなりして居眠り運航の防止措置をとることなく椅子に腰掛けたまま当直を続け、やがて居眠りに陥った。
 こうして、神海丸は、単独で船橋当直中のB受審人が居眠りを続け、島根県逢島に向首したまま続航し、05時30分島根県の宅野港西防波堤灯台から308度600メートルの地点において、原針路、原速力のまま、逢島北岸に乗り揚げた。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の初期であった。
 A受審人は乗揚の衝撃で目覚め、事後の措置にあたった。
 乗揚の結果、球形船首部に破口及び船首部船底等に擦過傷を生じたが、その後自力離礁し、のち修理され、B受審人が、第6頸椎剥離骨折を負った。

(原因)
 本件乗揚は、夜間、島根県仁万港北方沖合の漁場から同港に向け帰航中、居眠り運航の防止措置が不十分で、同県逢島の北岸に向かって進行したことによって発生したものである。
 運航が適切でなかったのは、船長が、全乗組員の疲労状態に配慮した当直体制をとらなかったことと、単独の船橋当直者が、眠気を催しながら何らの措置もとらなかったこととによるものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、島根県仁万港北方沖合の漁場から同港に向けて帰航中、新造船による初めてのばいかご漁の疲労から眠気を催して自ら船橋当直を続けることが難しくなり、一時的に部下に船橋当直を行わせる場合、部下も疲労し居眠りに陥るおそれがあったから、たとえ短時間の当直とはいえ甲板員2人で当直を行わせるなどの居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかし、同人は、短時間であれば1人で船橋当直を行わせても大丈夫と思い、2人で当直を行わせるなどの居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、単独で当直中の部下が居眠りに陥って乗揚を招き、球形船首部に破口及び船首部船底等に擦過傷を生じさせ、また、B受審人に第6頸椎剥離骨折を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、夜間、島根県仁万港北方沖合の漁場から同港に向けて帰航中、疲労して休息をとろうとする船長から短時間の交替を命じられて単独の船橋当直にあたる場合、船長と同様に新造船による初めてのばいかご漁の疲労で椅子に腰掛けて当直を続けるうちに眠気を催すようになったから、居眠り運航となることのないよう、操舵室後部のベッドで休息中の船長に知らせるなり、他の休息中の甲板員を呼んで2人当直とするなりして居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかし、同人は、何らの措置もとらずに椅子に腰掛けたまま当直を続け、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、やがて居眠りに陥り、同県逢島の北岸に向かったまま進行して乗揚を招き、前示の損傷を生じさせるとともに、自らも負傷するに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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