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 海難審判庁裁決録 >  2003年度(平成15年) > 施設等損傷事件一覧 >  事件





平成14年長審第44号
件名

押船第五げんかい被押バージ第五げんかい海苔網損傷事件

事件区分
施設等損傷事件
言渡年月日
平成15年3月28日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(半間俊士、道前洋志、寺戸和夫)

理事官
尾崎安則

受審人
A 職名:第五げんかい船長 海技免状:五級海技士(航海)(旧就業範囲)
指定海難関係人
K県漁業協同組合連合会海苔技術指導部

損害
げんかい押船列・・・損傷ない
海苔網・・・・・・・14セット損傷

原因
水路調査不十分

主文

 本件海苔網損傷は、水路調査が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年11月2日04時57分
 熊本港沖合

2 船舶の要目
船種船名 押船第五げんかい
総トン数 418トン
全長 29.13メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 2,942キロワット
船種船名 バージ第五げんかい
全長 104.45メートル
21.00メートル
深さ 7.50メートル

3 事実の経過
(1) 押船第五げんかい及び被押バージ第五げんかい
 第五げんかい(以下「げんかい」という。)は、2機2軸の鋼製押船で、甲板上に海砂採取設備を装備した鋼製被押バージの第五げんかい(以下「バージ」という。)の船尾ノッチ部に船体を嵌合し、全長113.00メートルの押船列(以下「げんかい押船列」という。)を形成して海砂採取、運搬に従事していた。
(2) 受審人A
 A受審人は、昭和48年からガット船に乗り組み、同52年海技免状取得後、船長として砂利運搬関連の業務に従事し、平成10年9月げんかい竣工後船長として乗船した。
(3) 指定海難関係人K県漁業協同組合連合会海苔技術指導部
 指定海難関係人K県漁業協同組合連合会海苔技術指導部(以下「海苔技術指導部」という。)は、昭和24年に成立したK県漁業協同組合連合会(以下「K県漁連」という。)にある5部のうちの1部で、海苔養殖施設の標識灯設置の指導、海上保安部への届出、設置位置及び時期について関係先への周知など海苔養殖全般に関する業務を行う目的で設置され、Yは平成14年1月10日海苔技術指導部長に就任した。
(4) 島原湾熊本県沖における海苔浮流し漁業
 島原湾熊本県沖における海苔浮流し漁業(以下「海苔浮流し漁業」という。)は、昭和40年ころから毎年10月から翌年の4月までの期間に行われており、長さ18メートル、横幅1.8メートルの海苔網30枚を約40メートル四方の範囲の中に張り、その周囲に長さ約0.7メートル、直径約0.4メートルの発泡スチロール製のフロート24個及び各網の間に小型のフロートを網1枚につき約10個を付けて浮かしたものを1セットとして錨で固定していた。
(5) 海苔浮流し漁業許可海域を示す標識
 海苔浮流し漁業許可海域を示す標識は、灯浮標を含む種々標識灯が、熊本県、K県漁連及び傘下の各漁業協同組合により毎年10月から翌年の4月までの期間設置され、熊本県が設置した熊本港に向かっての左舷標識である熊本県熊本沖第1号灯浮標及び右舷浮標である熊本県熊本沖第2号灯浮標(以下、熊本県が設置した2灯浮標については「熊本県」を省略する。)については平成5年、熊本県漁連が設置したいずれも島原湾奥に向かっての右舷標識である熊本県漁連長洲港南沖灯浮標、熊本県漁連熊本港北西沖灯浮標及び熊本県漁連赤瀬港北西沖灯浮標(以下、熊本県漁連が設置した3灯浮標については「熊本県漁連」を省略する。) ついては平成7年にそれぞれ水路通報に記載され、熊本県が設置した2灯浮標については平成11年に常設の灯浮標として設置された旨が記載された。
(6) 本件発生に至る経過
 げんかい押船列は、げんかいにA受審人ほか6人が乗り組み、海砂2,500立方メートル、除塩水1,200トンを積み、げんかい及びバージがそれぞれ、船首船尾とも5メートルの等喫水をもって、平成13年11月1日18時25分佐賀県唐津港を発し、熊本港に向かった。
 これより先、K県漁連は、同年9月28日付けで三池海上保安部長及び三角海上保安部長宛にそれぞれ海苔浮流し漁業許可海域を示す標識の設置のために工事届を提出し、海苔技術指導部は、10月11日から23日にかけて熊本港管理事務所をはじめとして、熊本港に出入りする、あるいは出入りが予想される船舶の管理者及び代理店並びに海苔網設置海面付近を航行する、あるいは航行が予想される船舶の管理者及び代理店に対し、個別に訪問して海苔網設置に関する周知連絡を行った。そして、同漁連は10月17日から19日にかけて海苔浮流し漁場浮標灯設置作業を実施し、漁業者は10月25日から順次海苔網の設置を行った。
 ところで、A受審人は、平成11年5月に初めて熊本港に寄港し、その出港時に、熊本港第1号灯浮標(以下「1号灯浮標」という。)及び熊本港第2号灯浮標(以下「2号灯浮標」という。)の間を抜けた直後に島原湾湯島瀬戸に向かって航行する船舶を認め、航程短縮のため、住吉灯台から313度(真方位、以下同じ。)4.2海里の地点にGPSプロッターの入力ポイント(以下「入力ポイント」という。)を設定し、以後同港への入港経験が7回あったものの、いずれも海苔浮流し漁業が行われていないときであり、平成13年10月8日の入港時には、まだ漁場を示す標識灯等がなかったことから、入力ポイントを利用して湯島瀬戸からワンコースで入港していた。
 A受審人は、冬期に入ると熊本港沿岸海域では海苔網が設置されることを漠然と知っていたが、今まで同網用竹竿等を見なかったことから、これまでと同様に入力ポイントを利用することで無難に入港できると思い、発航に際して、備え付けの海図や水路誌を調べ、代理店に島原湾の状況を問い合わせるなど水路調査を十分に行わず、赤瀬港北西沖灯浮標と熊本沖第2号灯浮標を結ぶ線の東側及び同灯浮標と2号灯浮標を結ぶ線の南側の海域で海苔浮流し漁業が行われていることを知らなかった。
 翌2日02時40分A受審人は、四季咲岬灯台から354度6.0海里の地点で船橋当直を引き継ぎ、早崎瀬戸を経て島原湾に入り、03時59分湯島灯台から281度1.7海里の地点で、針路を入力ポイントに向けて053度に定め、機関を全速力前進にかけ、12.5ノットの対地速力とし、自動操舵で進行した。
 A受審人は、04時25分湯島灯台から037度4.6海里の地点に達したとき、霧で視程が500メートルばかりに急速に制限され、作動中のレーダー2基のレンジを各々1海里と0.75海里とに切り替えて続航し、更に視界が悪化した中、同時29分たまたま昇橋した甲板員を見張りにつけたが、漁場を示す標識灯などを視認することができず、レーダーの各種調整が十分でなかったので、海苔浮流し網の周囲につけたフロートなどの映像を探知できないまま海苔養殖施設に向首進行していることに気付かず、同一の針路、速力のまま続航中、04時57分住吉灯台から286度5.4海里の地点において、海苔養殖施設に乗り入れた。
 当時、天候は霧で風はほとんどなく、視程は200メートルであった。
 A受審人は、何ら異状を感じなかったので、海苔網を損傷したことに気付かないまま05時10分入力ポイントを通過して進行し、熊本港入航後バージの球状船首に多量の網がかかっているのに気付いて海苔網を損傷したことを知り、事後の措置に当たった。
 その結果、げんかい押船列には損傷はなかったが、14セットの海苔網に損傷を生じた。

(原因)
 本件海苔網損傷は、冬期、夜間のうえ視界が制限された島原湾を熊本港に向けて航行する際、水路調査が不十分で、熊本港西方沖に設置された海苔養殖施設に向首進行したことによって発生したものである。

(受審人等の所為)
 A受審人は、冬期、夜間のうえ視界が制限された島原湾を熊本港に向けて航行する場合、冬期には同港沿岸に海苔網が設置されているのであるから、同港西方沖に設置された海苔養殖施設に向首進行することのないよう、備え付けの海図や水路誌を調べるなど、水路調査を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、前回まで無難に入航できたので大丈夫と思い、水路調査を十分に行わなかった職務上の過失により、海苔養殖施設の存在に気付くことなく、これに向首進行して乗り入れ、海苔網に損傷を生じさせた。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して、同人を戒告する。
 熊本県漁連の所為は本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。





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