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 海難審判庁裁決録 >  2003年度(平成15年) > 施設等損傷事件一覧 >  事件





平成14年広審第118号
件名

押船第十七菊清丸被押起重機船第18菊清号海底ケーブル損傷事件

事件区分
施設等損傷事件
言渡年月日
平成15年2月20日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(高橋昭雄、西田克史、佐野映一)

理事官
横須賀勇一

受審人
A 職名:第十七菊清丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
海底端子を切断し、海底ケーブル損傷、通信不通

原因
水路調査不十分

主文

 本件海底ケーブル損傷は、水路調査が十分に行われなかったことによって発生したものである。
 受審人Aの一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年3月29日08時00分
 香川県四海漁港港外

2 船舶の要目
船種船名 押船第十七菊清丸 起重機船第18菊清号
総トン数 19トン 1,554トン
全長 15.00メートル 55.00メートル
5.80メートル 20.00メートル
深さ 2.00メートル 4.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関  
出力 1,471キロワット  

3 事実の経過
 第十七菊清丸(以下「菊清丸」という。)は、鋼製押船で、A受審人ほか5人が乗り組み、香川県四海漁港港内護岸工事のため船首尾喫水1.65メートルの非自航型起重機船第18菊清号(以下「起重機船」という。)を押航して、平成14年3月26日05時00分徳島県徳島小松島港を発し、12時25分四海漁港沖合に至り、周辺の陸岸に三角形の白塗立標の海底ケーブル敷設表示陸標(以下単に「陸標」という。)が見当らなかったことから、海底ケーブルが敷設されていないものとしても、初めての港のため不安であったので、四海港12号防波堤灯台(以下「防波堤灯台」という。)から247度(真方位、以下同じ。)750メートルの地点にあたる防波堤入口から十分に離したところに投錨し、起重機船に搭載してきた総トン数19トン全長11.97メートル及び出力264キロワットの揚錨船第15菊清丸(以下「揚錨船」という。)を降ろした。そして揚錨船で港内工事区域の水深調査を行ったのち、揚錨船に先導曳航させながら起重機船を押航して港内に係岸した。
 ところで、四海漁港は、香川県小豆島北西部に位置した漁港で、防波堤によって囲まれた港内及び港外には対岸の沖ノ島との間に2系統の海底ケーブルが敷設されて、その位置が海図第137A号及び第1114号(海上保安庁水路部刊行)に記載され、各敷設ケーブルの両端にあたる陸岸には所定の陸標も導灯形式に設置されていた。しかし、港外の陸標については樹木等で遮られて、注意しないと認識することが難しい状況であった。
 一方、A受審人は、菊清丸の船長兼作業監督指揮者として7年間乗船して港湾工事に従事し、日頃から港泊図等によって海底ケーブルや水道管など敷設物に注意を払っていた。しかし、それまで主として徳島県内の港湾工事に従事していたこともあって、四海漁港関連の海図としては小縮尺度の海図第106号及び第153号の2枚しか所持していなかったので、出航4日前に同漁港港内護岸工事施行の指示を受け、同工事の護岸工事図や同漁港防波堤内の資料を得たものの、初めての港への回航そして港湾工事であったので、早速海図第137A号及び第1114号の海図を発注した。しかし、同発注が土日の休日前のため予定した出航当日まで入手することができなかったが、四海漁港入港前に港内の水深調査を行う予定でもあったので、鳴門海峡の通峡時期や日没まで入港する予定などの理由から、海図の入手を待たずまた工事元から水路状況に関する資料を取り寄せるなどして発航に先立って水路調査を十分に行わないまま出航した。その後、四海漁港入港前の港内水深調査時に海底ケーブル敷設表示陸標を見て対岸の沖ノ島との間に港内にケーブルが敷設されていることを知った。
 ところが、2日間の工事終了後、A受審人は、往路と同様に起重機船を押航して回航するにあたり、揚錨船に起重機船を先導曳航させて、港外で起重機船の錨を投じるなどして揚錨船を揚収することにしていた。しかし、発航時注文していた海図を入手できず水路調査不十分の状態で、たまたま港内に敷設海底ケーブルの存在を知ったにもかかわらず、入航時港外に陸標が見当らずその後に認めた港内敷設海底ケーブルのほかに港外にまで敷設されていることはあるまいと思い、工事終了までに工事元請や最寄りの坂手海上保安署に問い合わせしてその有無を確かめるなどの水路調査を十分に行わなかった。その結果、同港防波堤入口から200メートル沖に南北方向に沖ノ島との間に別系統の海底ケーブルが敷設されていたことに気付かなかった。
 こうして、越えて29日07時15分菊清丸は、工事を終えて起重機船を回航する目的で、揚錨船に先導曳航された起重機船を押航しながら四海漁港を発し、港外で揚錨船を揚収する予定で徳島県徳島小松島港に向かった。
 A受審人は、港外に至って弱い南西流を認めて投錨して揚錨船を揚収することとし、07時30分防波堤入口から約200メートル沖にあたる防波堤灯台から200度170メートルの地点において、前示海底ケーブルの敷設に気付かないまま、同ケーブル上に起重機船の船尾左舷錨を投じた。そして揚錨船を揚収して揚錨を始めたところ、08時00分防波堤灯台から213度220メートルの地点において、敷設海底ケーブルが錨に絡んで揚錨不可能な状態となり同ケーブルを損傷した。
 当時、天候は曇で風力3の南西風が吹き、潮候は上げ潮の中央期で、付近には弱い南西流があった。
 その結果、敷設海底ケーブルの一部が暴露し更に海底端子を切断し、沖ノ島との間が通信不通状態に陥ったが、その後応急的に別系統を使って同島間の回線が維持された。

(原因)
 本件海底ケーブル損傷は、香川県四海漁港港外において、初めての港での護岸工事を終えて起重機船を回航する際、水路調査が不十分で、揚錨船に起重機船を曳航させたのち港外で揚錨船を揚収する際に敷設海底ケーブル上に投錨したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、香川県四海漁港港外において、初めての港での護岸工事を終えて回航する際、港外で揚錨船を起重機船に揚収するため投錨する場合、発航時から海図等の水路資料不十分の状況下でたまたま港内陸標で敷設海底ケーブルの存在を知ったことでもあったから、港外についても敷設海底ケーブルの有無を確かめるよう、回航開始までに工事元請や最寄りの坂手海上保安署に問い合わせるなどして水路調査を十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、入航時港外に陸標が見当らずその後に認めた港内敷設海底ケーブルのほかに港外にまで敷設されていることはあるまいと思い、工事元請や最寄りの坂手海上保安署に問い合わせたりして水路調査を十分に行わなかった職務上の過失により、敷設海底ケーブル上に投錨して、同ケーブルを損傷させ通信不通状態を招くに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。





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