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平成14年那審第28号
件名

旅客船ビーチリゾートクラブ乗組員負傷事件

事件区分
死傷事件
言渡年月日
平成15年1月21日

審判庁区分
門司地方海難審判庁那覇支部(平井 透、金城隆支、坂爪 靖)

理事官
濱本 宏

受審人
A 職名:ビーチリゾートクラブ船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
指定海難関係人
B 職名:ビーチリゾートクラブ乗組員
有限会社M 業種名:ダイビングツアーガイド

損害
乗組員が仙骨骨折及び馬尾神経を損傷

原因
主機軸室に入室する際の安全に対する配慮不十分

主文

 本件乗組員負傷は、主機軸室に入室する際の安全に対する配慮が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年2月23日10時00分
 沖縄県那覇港西方沖合

2 船舶の要目
船種船名 旅客船ビーチリゾートクラブ
総トン数 19トン
登録長 11.98メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 500キロワット

3 事実の経過
 ビーチリゾートクラブ(以下「ビーチリゾート」という。)は、平成元年4月に進水した2基2軸を有するFRP製旅客船で、主機として昭和精機工業株式会社が製造した6GHD-ST型と称する機関を備え、最大搭載人員が41人で年間に約130日運航していた。
 一般配置は、船首方から順に、上甲板上の船首部に操舵室、上甲板上及び同甲板下にも区画を持つ旅客室、上甲板から一段低くなった後部甲板が配置され、操舵室の下には発電機室が、旅客室の下には主機の中間軸などとともに逆転減速機を配置した主機軸室が、後部甲板の下には機関室などがそれぞれ配置されていた。
 主機軸室内には、主機のクランク軸と逆転減速機を連結する外径60ミリメートル(以下「ミリ」という。)、長さ3,600ミリの中間軸が船底からの最大高さ880ミリの位置に水平に、同減速機とプロペラを連結するプロペラ軸が中間軸に対して10度の角度で船尾方の斜め下方に向ってそれぞれ取り付けられ、床面には主機冷却海水、浴室用清水、ビルジなどの配管が張り巡らされていた。また、中間軸及びプロペラ軸には保護覆い、保護柵などが取り付けられず、剥き出しの状態であった。
 主機軸室は、高さ1.1メートル、幅4.5メートルで船体中央部に幅1メートルの通路が、旅客室船尾方の左舷側に配置された厨房床面の左舷側に同室の出入口がそれぞれ設けられ、出入口の開口部には縦及び横寸法が同じ50センチメートル(以下「センチ」という。)の木製の蓋が取り付けられていた。
 また、出入口から船尾方を向いて同室に入室した位置の背後が機関室隔壁であり、同位置から左舷側に0.5メートル離れた位置に左舷側主機の中間軸が、右舷側に1.5メートル離れた位置に右舷側主機の中間軸が船底からの高さ約600ミリの位置に水平にそれぞれ取り付けられていた。
 主機軸室の床面は、航行中、船首部が浮上することから、平素ビルジが深さ約2センチで機関室隔壁から約30センチの幅で同室の船尾方に滞留し、ビルジには主機の中間軸の軸受から溢れ出した油分が混入して滑りやすい状況となっていた。
 A受審人は、平成9年7月有限会社Mに入社し、主にダイビングインストラクターとして勤務するほか、会社の管理船全てに船長として乗り組むことがあったが、同13年7月に購入されたビーチリゾートを運航するときには常に船長として乗り組み、操船のほか船舶の保守管理にあたり、主機軸室内で中間軸及びプロペラ軸が剥き出しの状態で回転し、床面が滑りやすい状況となっていたことを認めていたものの、回転機器には保護覆い、保護柵などを取り付けるよう会社に進言したり、同室の滑りやすい床面に対策を施すなど、同室に入室する際の安全に対する配慮を十分に行うことなく、ビーチリゾートの船舶管理者としての業務を行っていた。
 B指定海難関係人は、同13年2月正社員ではなくダイビングインストラクターの見習いとして有限会社Mに入社し、潜水器材、食料、救命胴衣などの点検、船底掃除、機器の保守管理の助手などを行い、A受審人と組んで勤務することが多く、海技知識が十分でなかったものの、ビーチリゾートの乗船経験は豊富であった。
 指定海難関係人有限会社M(以下「M」という。)は、同7年ダイビングスクール、ダイビングツアーガイドなどのマリンスポーツ全般を事業目的として設立され、自社船であるビーチリゾート及びほぼ同じ大きさの自社船1隻並びに他社船1隻の合計3隻の船舶を管理し、代表取締役を含めて10人で業務を行い、旅客に対しては安全対策基準、出航前船上説明書、緊急連絡フローチャートなどを作成して安全に対する注意喚起を行い、旅客が行動する範囲の滑りやすいなどの不安全箇所にはマットを張るなどの対策を施し、従業員に対しては発航前点検の手順、接客の要領、操船の要領などを記載したボートマニュアルと称する文書を作成して安全に対する注意喚起を行っていた。
 また、Mは、従業員に先輩後輩の意識はあったものの、受付1人、営業1人、ダイビングインストラクター7人及び代表取締役1人で構成された会社で会社組織といえるものがなく、仲間的雰囲気で業務を行い、責任の所在が不明確で船舶管理、安全管理、教育指導などは乗り組んだ船長に一任するほかない状況であった。
 ところで、A受審人は、同14年2月22日右舷プロペラ軸の軸封装置グランドパッキンの締め代がなくなったことから、B指定海難関係人とともに同パッキンの取替え作業を行ったが、同作業の終了が夜遅くなったことから、主機を運転しての同パッキン部の状態確認を後日行うこととした。
 こうして、ビーチリゾートは、A受審人及びB指定海難関係人が乗り組み、ホエールウォッチングの旅客30人を乗せ、翌23日09時00分沖縄県那覇港北部の那覇北マリーナと称する船だまりを発し、同県座間味島に向かった。
 A受審人は、航行中、ビーチリゾートで座間味島までの長時間航行を行うのが初めてで、前日整備した軸封装置グランドパッキン部からの漏水が気になったことから、同パッキン部の状態確認を行うよう、10時00分少し前主機を運転したまま、B指定海難関係人に同パッキン部の点検を指示した。
 B指定海難関係人は、Tシャツの上に長袖の特大で脇腹部分に余裕があるトレーナーを着てズックを履き、主機軸室に入室する際にトレーナーを脱いだり裾をズボンの中に入れるなど、同室に入室する際の安全に対する配慮を十分に行わないまま、入室して最初の一歩を踏み出したとき、床面に滞留したビルジでズックが滑って体勢を崩し、10時00分ナガンヌ島南西方灯標から真方位180度2.7海里の地点において、トレーナーの左脇腹部の裾が剥き出しの状態で回転する左舷側主機の中間軸に接触して同軸に巻き込まれた。
 当時、天候は晴で風力1の南風が吹き、海上は穏やかであった。
 A受審人は、衣服が破れる音に気付き、両舷の主機を停止し、主機軸室から出ようとしていたB指定海難関係人を救出し、失神した同人を病院に搬送するよう会社に連絡するなどの事後措置にあたった。
 その結果、B指定海難関係人は、仙骨骨折及び馬尾神経を損傷するなどの重傷を負った。
 A受審人は、左舷側主機の中間軸全長の3分の1となる船尾方部分に対し、同軸の右舷側にベニヤ板で壁を取り付け、身体が同軸に直接接触しない対策を会社に進言した。
 Mは、A受審人の進言を実行するとともに、主機運転中に主機軸室には船長以外の入室を禁止するなど、注意喚起して同種事故の再発防止に努めた。

(原因)
 本件乗組員負傷は、主機軸室に入室する際の安全に対する配慮が不十分で、同室に入室した乗組員が体勢を崩し、衣服の裾が剥き出しの状態で回転する主機の中間軸に巻き込まれたことによって発生したものである。

(受審人等の所為)
 A受審人は、船舶の保守管理にあたる場合、主機軸室内で中間軸及びプロペラ軸が剥き出しの状態で回転し、床面が滑りやすい状況となっていたことを認めていたのであるから、回転機器には保護覆い、保護柵などを取り付けるよう会社に進言するなど、同室に入室する際の安全に対する配慮を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、同室に入室する際の安全に対する配慮を十分に行わなかった職務上の過失により、同室に入室した乗組員が滑って体勢を崩し、衣服の裾が剥き出しの状態で回転する主機の中間軸に巻き込まれる事態を招き、乗組員を負傷させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人が、主機軸室に入室する際、トレーナーを脱いだり裾をズボンの中に入れるなど、同室に入室する際の安全に対する配慮を十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては、勧告しない。
 指定海難関係人有限会社Mの所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。





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