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平成14年神審第41号
件名

漁船第百三十一明神丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成15年3月19日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(内山欽郎、上原 直、前久保勝己)

理事官
安部雅生

受審人
A 職名:第百三十一明神丸機関長 海技免状:四級海技士(機関)(機関限定)
指定海難関係人
B 職名:S機器株式会社Kサービスセンター所長

損害
5番シリンダのシリンダライナ、ピストン及びシリンダヘッド等に損傷

原因
セレーション部に生じた亀裂が進行して破断したこと

主文

 本件機関損傷は、主機の連接棒大端が、セレーション部に生じた亀裂が進行して破断したことによって発生したものである。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年9月23日06時00分
 三陸海岸東北東方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船第百三十一明神丸
総トン数 125トン
全長 39.50メートル
機関の種類 過給機付4サイクル8シリンダ・ディーゼル機関
出力 735キロワット(計画出力)
回転数 毎分900(計画回転数)

3 事実の経過
 第百三十一明神丸(以下「明神丸」という。)は、昭和58年11月に進水したかつお一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、主機として、平成6年3月に換装した三菱重工業株式会社(以下「三菱重工」という。)製のS8U-MTK型と称するディーゼル機関を装備していた。
 明神丸の主機は、連続最大出力1,765キロワット及び同回転数毎分1,175の原機に負荷制限装置が付設され、計画出力735キロワット及び同回転数毎分900として受検・登録されたもので、各シリンダには船首側を1番として8番までの順番号が付され、各シリンダの連接棒大端部が斜め割れセレーション合わせとなっていて、同部が4本の連接棒ボルトで締め付けられていた。
 明神丸は、毎年12月初めから翌年2月中旬にかけての休漁期に入渠して、船体及び各機器の整備を行っており、主機の換装後は、その整備を三菱重工の四国地区総代理店であるS機器株式会社のKサービスセンター(以下「Kサービスセンター」という。)に行わせ、毎年、ピストン抜き整備を含むほとんど同じ内容の整備を行っていた。
 Kサービスセンターは、三菱重工が製造した陸用機関及び舶用機関の販売、整備及び修理を主な業務とし、サービス員と称する現場担当の社員10人が、入渠地等の各現場に出張して整備及び修理業務を担当していたので、三菱重工製の機関の整備には相当の実績を有しており、作業のほとんど全てを三菱重工の整備マニュアルに従って行っていた。
 B指定海難関係人は、昭和46年にS機器株式会社に入社以来、Kサービスセンターのサービス員として現場作業に従事していたもので、明神丸の主機の整備には当初から責任者として携わり、同船が三菱重工製の主機を搭載した初めてのかつお一本釣り漁船だったこともあって、入念な整備を心がけており、連接棒については、三菱重工製の他の機種でセレーション部に亀裂が発生することがあったので、毎年のピストン抜き整備時には必ずセレーション部の染色浸透探傷検査(以下「カラーチェック」という。)を行うようにしていた。
 A受審人は、平成8年3月から明神丸に機関長として乗り組んで機関の運転及び保守管理に当たっており、主機については、魚群を追尾するときなどには回転数を毎分910ないし920まで上昇させることがあったものの、通常航行中は回転数を毎分850ないし900とし、年間4,500時間ほど運転しながら操業に従事していた。また、定期整備に当たっては、毎年の整備内容がほとんど同じであったうえ、同整備を機関製造業者の代理店であるKサービスセンターが行っていたことから、必要と思われる追加工事のみをサービス員に口頭で指示していた。
 主機の換装後、明神丸は、同9年11月に主機6番シリンダのピストン焼付き事故を、同10年11月に主機燃料制御リンク装置の連結部が外れて主機が過回転する事故を起こしていた。
 B指定海難関係人は、主機の過回転事故の修理も担当し、排気弁やプッシュロッド等の損傷部品を取り替えたほか、念のために連接棒ボルトを全数新替えするなどの修理を行うとともに、連接棒大端部については、本社に簡易型の磁気探傷装置が1台あることを知っていたものの、三菱重工からは磁気探傷装置による点検を指導されていなかったこと及びKサービスセンターに同装置がなかったことなどから、セレーション部の亀裂の有無をカラーチェックで確認して修理を終えていた。
 その後、明神丸は、同11年12月の第1種中間検査工事及び同13年1月の定期整備時にも、Kサービスセンターが主機のピストン抜き整備を行い、各連接棒大端部については、カラーチェックでセレーション部に亀裂がないことを確認し、整備マニュアルに従って連接棒ボルトを締め付ける整備を行ったのち、同年2月中旬から太平洋側の日本近海で主機を運転しながら操業を繰り返していたところ、過去のピストン焼付き事故や過回転事故の影響によるものか、連接棒大端セレーション部に衝撃的な引張力及び慣性力が繰り返し作用するうち、いつしか、主機5番シリンダ連接棒大端の連接棒ボルト穴近傍のセレーション部に亀裂が生じ、次第に同亀裂が進行する状況となっていた。
 こうして、明神丸は、A受審人ほか21人が乗り組み、操業の目的で、同13年9月22日05時00分宮城県気仙沼港を発し、途中の餌場で餌を積み込んだのち、主機を回転数毎分900の全速力前進にかけ、三陸海岸沖合の漁場に向かって航行中、前示の亀裂が進行し、翌23日06時00分北緯40度38分東経145度44分の地点において、主機5番シリンダの連接棒大端が破断するとともに、連接棒ボルト4本が瞬時に切損し、主機が異音を発して激しく振動した。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、海上は穏やかであった。
 明神丸は、主機の異常に気付いた船橋当直者が直ちに主機の操縦ハンドルを中立位置にする一方、次直者を起こしに行っていた機関室当直中の操機長が、異常に気付いて直ちに機関室に戻り、主機を停止させた。
 自室で就寝していたA受審人は、異常に気付いて目を覚まし、機関室に急行したところ、主機5番シリンダのクランク室ドアが外側に膨出し、辺りに油煙が立ち込めているのを認めたので、主機の運転は不可能と判断し、事態を船長に報告した。
 明神丸は、近くにいた僚船に曳航されて気仙沼港に引き返し、同港においてKサービスセンターのサービス員が調査したところ、シリンダブロック及びクランク軸並びに5番シリンダのシリンダライナ、ピストン及びシリンダヘッド等に損傷が判明し、更に、損傷部品を陸揚げして三菱重工が精査した結果、蛍光磁粉探傷検査とカラーチェックで7番シリンダの連接棒大端セレーション部に亀裂が確認されたほか、蛍光磁粉探傷検査で1番シリンダの同セレーション部にも微細な亀裂が確認されたので、全ての連接棒を最新の強化形連接棒に取り替えるとともに、損傷部品を新替えするなどの修理を行った。
 なお、三菱重工は、今回の事故を契機として、従来は磁気探傷装置による検査を指導していなかったものの、カラーチェックの場合はやり方によっては亀裂を見落とす可能性があることから、亀裂を検出しやすい磁気探傷装置による検査を指導することにした。一方、S機器株式会社も、三菱重工の指導に従って磁気探傷装置による検査に移行することとし、同装置をKサービスセンター等各営業所に備えることにした。

(原因に対する考察)
 本件は、平成6年3月に主機が換装され、6番シリンダのピストン焼付き事故及び過回転事故を経たのち、過回転事故から約2年10箇月後の航行中、5番シリンダの連接棒大端がセレーション部に生じた亀裂が進行して破断し、シリンダブロック及びクランク軸並びに5番シリンダのシリンダライナ、ピストン及びシリンダヘッド等が損傷したものである。
 なお、本件後の調査の結果、蛍光磁粉探傷検査及びカラーチェックで7番シリンダの連接棒大端セレーション部に亀裂(以下、亀裂箇所については「連接棒大端セレーション部」を省略する。)が確認されたほか、蛍光磁粉探傷検査で1番シリンダにも微細な亀裂が確認された。
 以上の状況を踏まえ、本件の原因について考察する。
1 5番シリンダの亀裂
 5番シリンダの亀裂の原因は、主機が過去に6番シリンダの焼付き事故や過回転事故を起こしていること及び3シリンダの亀裂が相次いで発生していることから、過去の事故が影響した可能性が高いと考えられる。また、平成13年1月のカラーチェックで確認されなかった7番シリンダの亀裂が、約4,000時間の運転後に同じカラーチェックで明確に確認されたことから、5番シリンダの亀裂は、同11年12月の点検以後に発生したと考えられ、更に、1番シリンダの微細亀裂がカラーチェックでは確認できなかったことから、同13年1月の点検時に発生していた可能性は残るものの、以下の点を考えると、同点検以後に発生したと認めるのが相当である。
(1)本件が前回の点検から約4,000時間運転後に発生している点
(2)亀裂の起点が応力の集中しやすい連接棒ボルト穴近傍であること及び約200時間の運転で疲労限度繰返し数の1×107回に達することから、同13年1月の点検時に亀裂が発生していれば破断までに4,000時間もかからない可能性が高いと考えられる点
(3)3シリンダの亀裂が相次いで発生し、1番シリンダの亀裂が発生して間もない点
2 セレーション部の点検
 本件後にカラーチェックでは確認できない1番シリンダの微細亀裂が蛍光磁粉探傷検査で確認されたことから、点検が十分でなかったのではないかとの指摘があるが、以下の点を考えると、セレーション部の点検不十分が本件発生の原因であるとは認められない。
(1)前示のとおり、5番シリンダの亀裂は、平成13年1月の点検以後に発生したもので、過回転事故直後には発生していなかったと考えられる点
(2)三菱重工はセレーション部の点検を磁気探傷装置で行うよう指導しておらず、Kサービスセンターにも磁気探傷装置がなかった点
(3)過回転事故後3回にわたってカラーチェックで亀裂の有無を確認しており、過回転事故直後は別として、その後の点検をカラーチェックで行ったことに問題があるとは認められない点
(4)B指定海難関係人の当廷における、「今までにカラーチェックで亀裂を見落として事故になったということはない。」旨の供述から、カラーチェックのやり方に問題があったとは認められない点

(原因)
 本件機関損傷は、主機5番シリンダの連接棒大端が、セレーション部に生じた亀裂が進行して破断したことによって発生したものである。

(受審人等の所為)
 A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
 B指定海難関係人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。





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