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 海難審判庁裁決録 >  2003年度(平成15年) > 機関損傷事件一覧 >  事件





平成14年函審第51号
件名

漁船第六十七永昌丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成15年3月11日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(安藤周二、工藤民雄、古川隆一)

理事官
杉崎忠志

受審人
A 職名:第六十七永昌丸機関長 海技免状:四級海技士(機関)(機関限定)
指定海難関係人
N原動機株式会社生産センター品質管理グループ 
Nガスタービン工場検査チーム 業種名:機関製造業

損害
インペラのほかロータ軸、圧縮機ケーシング及び軸受ケーシング等の損傷

原因
主機過給機の圧縮機のインペラの検査不適切

主文

 本件機関損傷は、機関製造業者の検査等部門が、主機過給機の圧縮機インペラの検査が不適切で、内部の亀裂が著しく進行したことによって発生したものである。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年11月19日14時45分
 北海道襟裳岬東北東方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船第六十七永昌丸
総トン数 124.38トン
全長 37.00メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 1,471キロワット
回転数 毎分720

3 事実の経過
 第六十七永昌丸(以下「永昌丸」という。)は、昭和55年5月に進水した、沖合底びき網漁業に従事する鋼製漁船で、可変ピッチプロペラを有し、主機として平成3年6月に株式会社N鐵工所(以下「N鐵工所」という。)製造の6MG28CX型機関を備え、主機架構の船尾側上部に排気ガスタービン過給機(以下「過給機」という。)を装備し、操舵室から主機とプロペラ翼角(以下「翼角」という。)の遠隔操作を行うようになっていた。
 主機は、翌7月換装の際に据え付けられ、燃料最大噴射量制限装置の付設により計画出力1,029キロワット同回転数毎分640(以下、回転数は毎分のものを示す。)として登録された後、同装置の設定が解除されていた。
 過給機は、N鐵工所が製造したニイガタ・M.A.N.-B&W NR24/R型と呼称する、定格回転数36,000圧力比4.0のもので、遠心圧縮機、半径流タービン、ロータ軸、浮動式軸受、圧縮機ケーシング、タービンケーシング及び軸受ケーシング等から構成されていた。ロータ軸は、長さ475ミリメートル(以下「ミリ」という。)直径37ミリのクロムモリブデン鋼製で、直径276ミリのアルミニウム合金製の圧縮機インペラ(以下「インペラ」という。)が装着されていた。
 また、過給機は、保守点検の重要事項として、4年ごと又は32,000時間の運転を経過するごとN鐵工所によるインペラの探傷検査及びロータ軸完備品のバランス点検等の実施を必要とすることが取扱説明書に記載されていた。
 永昌丸は、北海道釧路港を根拠地とし、毎年9月1日から翌年5月末まで月間500時間ばかり主機を運転して北海道襟裳岬北東方沖合及び落石岬南西方沖合の漁場でオッタートロール網漁を続け、操業の際には、主機を回転数650翼角5度に操作して投網後、回転数700翼角14度としてオッターボードを投入し、引き綱を延出のうえ曳網を繰り返し、高負荷域で負荷が急激に変動する状況のもと過給機が運転されていた。
 A受審人は、同7年7月に永昌丸の一等機関士として乗り組み、同9年7月に機関長に昇進し、毎年6月から7月にかけ根拠地で機関の定期整備を行っており、僚船の同型過給機のロータ軸周りを損傷する事故が頻発していたところ、同13年6月下旬に中間検査の受検整備の際、工場で過給機の検査等を実施するようにN鐵工所北海道支店道東営業所技術員の要請を受け、船舶所有者から了解を得た後、機関製造業者による検査等を信頼し、過給機をN鐵工所原動機カンパニーNガスタービン工場品質管理室(以下「品質管理室」という。)に送った。
 一方、品質管理室は、製品の検査、納入先に対する技術指導、損傷事故の防止及び処理等業務を行う部門で、責任者Tが副工場長兼品質管理室長として統括し、また、同型過給機の損傷事故の調査にあたっていたほか、同業船の操業中における主機の運転状況を把握していた。
 ところで、過給機のインペラは、主機換装時以来のもので、長期間使用されているうち、内部にはクリープによるひずみが生じて亀裂になり、これが次第に進行していた。
 しかし、品質管理室は、過給機の検査等にあたり、インペラの表面の目視による外観検査やカラーチェックを行ったものの、クリープに対する寿命の余裕があるものと見込み、主機の運転状況に応じ、非破壊検査を検討するなど、検査を適切に実施しなかったので、インペラ内部のクリープによる亀裂を検知しないまま、インペラを継続して使用することにした。
 なお、品質管理室の業務は、同15年2月3日以降、指定海難関係人N原動機株式会社生産センター品質管理グループNガスタービン工場検査チーム(以下「検査チーム」という。)に継承された。また、T責任者は、生産センターガスタービン製造グループ長に就任した。
 こうして、永昌丸は、過給機がロータ軸完備品のバランス点検等を終えて復旧され、同13年9月1日に操業を再開し、A受審人ほか13人が乗り組み、船首1.8メートル船尾2.5メートルの喫水をもって、11月18日21時30分釧路港を発し、翌19日05時35分襟裳岬東北東方沖合の漁場に至って操業を行い、第3回目投網後の主機増速中、過給機のインペラ内部の前示亀裂が著しく進行して外周部が欠損し、14時45分襟裳岬灯台から真方位066度23.6海里の地点において、同機が異音を発した。
 当時、天候は晴で風力3の北西風が吹き、海上は穏やかであった。
 A受審人は、機関室で異音を聞き、過給機の異状を認めて船長に報告し、揚網を急がせて主機を停止した後、過給機内部を点検したところ、インペラが欠損していたことから、主機が運転不能と判断した。
 永昌丸は、僚船に救助を要請し、釧路港に曳航された後、過給機が精査された結果、インペラのほかロータ軸、軸受、圧縮機ケーシング及び軸受ケーシング等の損傷が判明し、各損傷部品が新替えされた。
 検査チームは、本件後に同型過給機の損傷再発防止対策として、インペラの非破壊検査を検討のうえ実施することとし、搭載船に対してインペラの交換などを周知することにした。

(原因)
 本件機関損傷は、機関製造業者の検査等部門が、過給機のインペラの検査が不適切で、内部のクリープによる亀裂が検知されないまま、操業中、同亀裂が著しく進行したことによって発生したものである。

(受審人等の所為)
 検査チームが、過給機のインペラの検査を適切に実施しなかったことは、本件発生の原因となる。
 検査チームに対しては、本件後に同型過給機の損傷再発防止対策として、インペラの非破壊検査を検討のうえ実施することとし、搭載船に対してインペラの交換などを周知することにした点に徴し、勧告しない。
 A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。





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