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 海難審判庁裁決録 >  2003年度(平成15年) > 機関損傷事件一覧 >  事件





平成14年門審第65号
件名

漁船恵勝丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成15年2月18日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(河本和夫、米原健一、橋本 學)

理事官
中井 勤

受審人
A 職名:恵勝丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
ピストンが破損、シリンダブロック損傷、航行不能、のち廃船

原因
潤滑油の性状管理及び圧力監視不十分

主文

 本件機関損傷は、潤滑油の性状管理及び圧力監視がいずれも不十分であったことにより発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年8月23日05時00分
 対馬東方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船恵勝丸
総トン数 19.80トン
登録長 16.83メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 334キロワット
回転数 毎分1,650

3 事実の経過
 恵勝丸は、昭和47年11月に進水したあなごかご漁業に従事する木製漁船で、主機は平成4年7月久保田鉄工株式会社製のMH150CS型ディーゼル機関に換装され、その遠隔操縦装置、警報装置及び監視盤が船橋に備えられていた。
 主機は、燃料としてA重油が使用され、各シリンダには船首側を1番として順番号が付されていた。
 主機の潤滑油系統は、オイルパンに入れられた約100リットルの潤滑油が、直結駆動の潤滑油ポンプ(以下、潤滑油系統の各機器については「潤滑油」を省略する。)で吸引・加圧され、こし器、冷却器を経て、3ないし5キログラム毎平方センチメートル(以下「キロ」という。)に調圧されて主管に至り、主管から主軸受、カム軸受、ピストンなどに分岐して各部を潤滑及び冷却してオイルパンに戻り、主管の圧力が2キロ以下に低下すると警報装置が作動するようになっていた。
 主機の潤滑油は、こし器や冷却器内の油も含めて全量を300時間ごとに取り替えるよう取扱説明書に記載されており、取替えの際はオイルパン内をスポンジ等でふき取ることなどの手順も付記されていた。
 A受審人は、平成4年ごろから船長として乗り組み、周年、対馬周辺海域において、長崎県三浦湾漁港を12時ごろ出港して翌朝5時ないし6時に帰港する形態で月平均15日操業に従事し、月間165時間ないし200時間主機を運転していた。
 A受審人は、潤滑油の性状管理について、主機の取扱説明書がなかったので適正な潤滑油性状管理方法がわからないまま、僚船が約半年ごとに取り替えていたことから、同じ間隔で取り替えていれば大丈夫と思い、主機の取扱説明書を取りよせるなりメーカー代理店などに問い合わせるなりして適正な潤滑油の性状管理方法を確認せず、潤滑油の性状管理を十分に行うことなく、主機の運転を続けた。
 主機は、潤滑油の性状管理が不十分なまま運転が続けられるうち、潤滑油の性状劣化、こし器の目詰まり、ピストン冷却面の汚損などに起因して、平成11年ごろ1シリンダのピストンが過熱膨張して焼き付いた。
 A受審人は、鉄工所に主機の修理を依頼したが、損傷した1シリンダのピストン、ピストンリング、シリンダライナなどを新替えしただけで、他5シリンダのピストン、ピストンリング、シリンダライナなどの摩耗状態や汚損状態を確認しなかった。
 その後主機は、各部の摩耗や汚損がさらに進行し、燃焼不良から排気が黒ずむようになった。
 A受審人は、平成13年2月ごろには主機の排気が黒ずんでいることに気付いたが、ピストン抜き整備をせず、同月潤滑油を新替えしたのち、8月22日に至って潤滑油圧力が2キロ近くまで低下するほどこし器の目詰まりが進行し、通油量の不足とピストン冷却面の汚損が相まってピストンの冷却が不足する状況となったが、潤滑油圧力の監視を十分に行わなかったのでこのことに気付かなかった。
 こうして恵勝丸は、A受審人ほか1人が乗り組み、平成13年8月22日12時00分三浦湾漁港を発し、15時00分対馬東方沖合の漁場に至って操業を開始し、翌23日04時30分操業を終えて回転数毎分約1,400として航行中、こし器の目詰まりがさらに進行して潤滑油圧力低下警報装置が作動したがA受審人は船首甲板にて作業中で、甲板員も就寝中でいずれも警報に気付かずに主機の運転が続けられ、通油量不足から冷却が阻害された1番シリンダのピストンが過熱膨張して焼き付き、ピストンが破損して連接棒がシリンダブロックを突き破り、05時00分比田勝港雷埼灯台から真方位100度23.6海里の地点において、主機が停止した。
 当時、天候は曇で風はなく、海上は穏やかであった。
 損傷の結果、恵勝丸は航行不能となり、僚船にえい航されて帰港したが、のち、廃船処理された。

(原因)
 本件機関損傷は、主機を運転する際、潤滑油の性状管理及び圧力監視がいずれも不十分で、潤滑油の性状劣化、こし器の目詰まり、ピストン冷却面の汚損などが進行するまま主機の運転が続けられ、ピストンの冷却が阻害されたことにより発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、主機を運転する場合、潤滑油の劣化によるこし器の目詰まりやピストン冷却面の汚損などが進行することのないよう、潤滑油の性状管理を十分行うべき注意義務があった。ところが、同受審人は、主機の取扱説明書がなかったので適正な潤滑油性状管理方法がわからないまま、僚船は約半年ごとに取り替えていたことから、同じ間隔で取り替えていれば大丈夫と思い、主機の取扱説明書を取りよせるなりメーカー代理店などに問い合わせるなりして適正な潤滑油の性状管理方法を確認せず、潤滑油の性状管理を十分行わなかった職務上の過失により、ピストンの冷却阻害を招き、ピストン、シリンダライナ、シリンダブロックなどを損傷させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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