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 海難審判庁裁決録 >  2003年度(平成15年) > 機関損傷事件一覧 >  事件





平成14年仙審第44号
件名

漁船諏訪丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成14年2月21日

審判庁区分
仙台地方海難審判庁(大山繁樹、亀井龍雄、上中拓治)

理事官
岸 良彬

受審人
A 職名:諏訪丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
クランク軸及び全数の主軸受などが焼損、船体・機関とも解撤

原因
主機潤滑油圧力が低下した際、速やかに同機の停止措置不履行

主文

 本件機関損傷は、主機潤滑油圧力が低下した際、速やかに同機の停止措置がとられなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年12月12日04時10分
 山形県酒田港内

2 船舶の要目
船種船名 漁船諏訪丸
総トン数 10.30トン
登録長 14.70メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 345キロワット
回転数 毎分2,000

3 事実の経過
 諏訪丸は、昭和53年9月に進水した小型底引き網漁業に従事するFRP製漁船で、主機としてアメリカ合衆国キャタピラー社が製造したD343TA型と称するディーゼル機関を装備し、操舵室から主機及び逆転減速機を運転操作するようになっていた。
 主機の潤滑油系統は、油受の潤滑油が直結の歯車式潤滑油ポンプで吸引加圧され、冷却器、こし器を順に経て主管に送られ、枝管を分流して各軸受に注油されたのち油受に戻り、運転中の潤滑油圧力が約0.7キログラム毎平方センチメートルに低下すると、操舵室の潤滑油圧力低下警報装置が作動して警報を発するようになっていた。
 諏訪丸は、A受審人ほか1人が乗り組み、操業の目的で、船首0.5メートル船尾2.0メートルの喫水をもって、平成13年12月12日03時20分山形県酒田港第1区の水産岸壁を発し、同業船7隻とともに縦列となり、最後尾から3隻目のところに位置して同県飛島東方沖合の漁場に向かった。
 A受審人は、発航時から単独で操船に当たり、主機を回転数毎分1,500にかけ、全速力前進の6.0ノットの対地速力で、幅約200メートルの酒田港第2区の水路を北上し、03時36分ごろ酒田港北防波堤灯台を右舷側50メートルに航過したところで、第2北防波堤南西端を船首やや右に見る330度(真方位、以下同じ。)の針路とした。
 03時39分諏訪丸は、港口近くに達したころ、正面から強い風波を受け始めて船体の動揺が大きくなったので、主機回転数を毎分1,400に下げたところ、間もなく、主機の潤滑油ポンプ付圧力調整弁が同ポンプ歯車軸のブッシュから剥離(はくり)した金属粉を噛み込んで(かみこんで)固着し、同弁の戻り油量が増加して潤滑油圧力が低下し、03時40分酒田港南防波堤灯台から033度120メートルの地点で、潤滑油圧力低下警報装置の警報ブザーが鳴るとともに警報ランプが点灯した。
 A受審人は、警報ブザーのスイッチを切ったのち、船尾で網を片づけていた甲板員に主機潤滑油圧力を機関室側の圧力計で確認させ、同圧力が異常に低下している旨の報告を受けたが、これまで航行中に警報が作動する事態を経験したことがなかったことから、気が動転して少しでも早く発航地に戻ろうと思い、航行船舶の妨げとならない海域で投錨(とうびょう)するなどして、速やかに主機の停止措置をとることなく、主機を回転数毎分1,200にかけ、半速力前進として発航地に向けて引き返した。
 諏訪丸は、主機潤滑油圧力低下警報装置の警報ランプが点灯したまま航行を続けているうちに、主機各部の潤滑が阻害されて主軸受などが焼損し始めたが、A受審人がそのことに気付かないまま運転を続け、04時10分酒田港南防波堤灯台から128度3,750メートルの地点において、酒田港第1区の水産岸壁に着岸した。
 当時、天候は曇で風力4の北西風が吹き、海上は波立っていた。
 着岸後A受審人は、機関修理業者に主機の潤滑油圧力低下について調査を依頼し、主機が開放点検された結果、クランク軸及び全数の主軸受などが焼損していることが判明したが、修理費の都合で船体・機関とも解撤した。

(原因)
 本件機関損傷は、山形県酒田港内を港口に向けて航行中、主機潤滑油圧力が低下した際、速やかに同機の停止措置がとられず、主軸受などの潤滑が阻害されたまま運転が続けられたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、山形県酒田港内を港口に向けて航行中、主機潤滑油圧力低下警報装置が作動し、同圧力の低下を認めた場合、そのまま運転を続けると主軸受など滑動部の潤滑が阻害されるおそれがあったから、航行船舶の妨げとならない海域で投錨するなどして、速やかに主機の停止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、気が動転して少しでも早く発航地に戻ろうと思い、速やかに主機の停止措置をとらなかった職務上の過失により、主軸受などの潤滑が阻害された状態で運転を続ける事態を招き、クランク軸及び全数の主軸受などを焼損させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して、同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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