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 海難審判庁裁決録 >  2003年度(平成15年) > 機関損傷事件一覧 >  事件





平成14年長審第55号
件名

引船第2ひろ丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成15年1月10日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(寺戸和夫、平田照彦、半間俊士)

理事官
弓田邦雄

受審人
A 職名:第2ひろ丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
主機全シリンダのピストンとシリンダライナとが焼損、主機の運転が不能

原因
主機の冷却水系統の船外排出状況の確認不十分、高温警報装置の整備不十分

主文

 本件機関損傷は、主機の冷却水系統について、船外排出状況の確認が十分でなかったばかりか、高温警報装置の整備が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年3月23日02時00分
 長崎県西方沖合

2 船舶の要目
船種船名 引船第2ひろ丸
総トン数 19トン
全長 14.07メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 809キロワット
回転数 毎分850

3 事実の経過
 第2ひろ丸(以下「ひろ丸」という。)は、平成8年10月に進水し、沿海区域を航行区域とする鋼製の引船で、主機として昭和56年9月に製造されたヤンマーディーゼル株式会社製のT220A-ET型と称するディーゼル機関を備え、A受審人が単独で乗り組み、専ら自社の非自航クレーン台船第2はる号の曳航作業に従事していたところ、平成14年3月22日長崎県長崎港から同県茂木港へ同港防波堤延長基礎工事のため同台船を曳航することとなった。
 ところで主機の冷却は、海水による直接冷却方式で、船底の吸入口に直径12ミリメートル(以下「ミリ」という。)の多孔を穿った(うがった)外径300ミリの目皿が取り付けられ、同目皿、船底弁、複式の海水こし器、逆止弁などを順次経た海水が、直結の冷却水ポンプで吸引加圧され、空気及び潤滑油各冷却器、機関内部及び過給機を冷却したのち操舵室右舷側にある船外排出口から海面上に排出されるようになっていた。
 A受審人は、平成9年7月から船長として乗船し、年に一度8月頃に上架して船底やプロペラ周囲の洗浄を行っていたが、年間の稼働時間が500時間と少ないこともあり、上架時も含めて主機の定期的な開放を行わず、このため冷却水系統は全般に海水のスケールが付着していたほか、平成13年8月に出渠したのち半年を経過した頃には、係留地近辺海中の生態に例年と比べて何らかの変化が生じたものか、海藻や貝などの海洋生物が船底、とりわけ海水吸入口の目皿におびただしく増殖して船外排出量が激減しており、また、同系統の警報装置の整備を一度も行わなかったことから、機関出口と機側にそれぞれ取り付けられた高温警報用の感温筒や温度スイッチなどが機関の老朽化と相まって、警報設定値が大きく狂ったか同スイッチの可動部が固着するかして同装置が作動しない状況となっていたが、これらのことについて気付かなかった。
 A受審人は、これまで主機を始動したとき冷却水の船外排出の有無を確認していたものの、同日22時30分主機を始動した際は、乗船以来初めての夜間就業であり、運転中に冷却水の量が不足することはあるまいと思っていたこともあって、冷却水排出状況の確認を十分に行わなかったので、排出量がわずかな量にまで減少していることに気付かないまま曳航の準備にかかった。
 ひろ丸は、翌23日00時40分長さ44メートル幅19メートルで160トン型クレーンを搭載して、船首1.3メートル船尾2.0メートルの喫水となった同号を引き、作業船とともに船首1.3メートル船尾2.6メートルの喫水をもって、長崎県香焼町尾ノ上の係留地を発し、その後主機を毎分730回転として速力4.5ノットで航行中、辛うじて維持されていた冷却水の温度及び通水量による冷却能力と主機負荷との均衡が崩れ、02時00分野母北浦灯台から真方位310度1.6海里の地点において、主機が警報を生じないまま過熱運転となり異臭を発し始めた。
 当時、天候は晴で風力3の北風が吹き、長崎県南部には強風波浪注意報が発表されていた。
 異臭に気付いた操舵室のA受審人は、冷却水の船外排出口から湯気が噴出しているのを認め、主機を停止回転としたところ自停した。
 その結果、ひろ丸は、主機全シリンダのピストンとシリンダライナとが焼損し、主機の運転が不能となり来援した引船によってクレーン台船とともに発航地に引き付けられ、のち、焼損部品を新替えするなどの修理を行った。

(原因)
 本件機関損傷は、主機の冷却海水系統について、始動時の船外排出状況の確認が十分でなかったばかりか、高温警報装置の定期的な整備が十分に行われず、船底に設けられた海水の吸入口が目づまりした状態で運転され、クレーン台船を曳航中、高温警報が作動しないまま過熱運転となったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、海水直接冷却方式の主機を始動する場合、冷却水吸入系統の目づまりを放置することのないよう、冷却水の船外排出状況を十分に確認すべき注意義務があった。ところが、同人は、冷却水の量が不足することなどはあるまいと思い、冷却水の船外排出状況を十分に確認しなかった職務上の過失により、船底の海水吸入口に付着した海藻や貝などの海洋生物によって同口が著しく目づまりしていることに気付かないまま、機関を始動したのち運転を続け、クレーン台船を曳航中、機関の負荷に必要な冷却水の通水量が不足する事態を招き、高温警報装置が作動しないまま過熱運転となって全シリンダのピストンとシリンダライナが焼損するに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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