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平成14年広審第116号
件名

プレジャーボートアリョン機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成15年1月30日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(西林 眞、西田克史、佐野映一)

理事官
吉川 進

受審人
A 職名:アリョン船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
指定海難関係人
B 職名:船舶所有者

損害
排気管ゴム継手の破損箇所から海水が機関室に侵入

原因
主機始動後の冷却海水通水状況の確認不十分、運航状況及び機関の状態の説明不適切

主文

 本件機関損傷は、主機始動後の冷却海水通水状況の確認が十分でなかったことによって発生したものである。
 船舶所有者が、売り渡すにあたり、購入者に対して運航状況及び機関の状態等を適切に説明しなかったことは、本件発生の原因となる。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年8月14日19時30分
 広島県広島港

2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボートアリョン
全長 7.25メートル
機関の種類 4サイクル8シリンダ・電気点火機関
出力 152キロワット
回転数 毎分4,400

3 事実の経過
 アリョンは、アメリカ合衆国で建造された、海水混合船尾排気方式の船内外機を装備するFRP製プレジャーボートで、船首側からキャビン、操縦席及び機関室を配置し、操縦席の左舷側にL字形のソファを置き、機関室上部にはケーシングを被せて後部甲板を形成し、船尾にはトランサムステップを備えていた。
 主機は、同国アウトボード・マリーン・コーポレーションが製造した8シリンダV形配列の電気点火機関に、同社製のアウトドライブを連結したもので、操縦席に設置された計器盤には主機回転計、速度計、潤滑油圧力計、冷却水温度計、燃料計及びバッテリーの充電電流計が組み込まれ、冷却水温度上昇の警報装置は設けられていなかったものの、同温度の過上昇を検出すると、操縦ハンドルを増速方向にとっても燃料が抑えられ、回転数が上がらないようになっていた。
 主機の冷却は、海水直接冷却方式で、アウトドライブの下部ギヤケース両舷側に設けられた海水吸入口から、こし器を介して同ドライブに内蔵されたヤブスコ式の冷却海水ポンプによって吸引された海水が、潤滑油冷却器及びシリンダジャケットを冷却したのち、排気マニホルド内に合流して排気管内を冷却しながら、トランサムステップ下方に位置する、主機とアウトドライブの連結部にあたるトランサムマウントに設けられた排出口から船外に排出されるようになっており、アイドリング運転中の冷却海水出口温度は通常60ないし65度であった。また、排気管は、金属製で、右舷列及び左舷列の各排気マニホルド出口に設けられた上部排気管と両舷列が合流して排出口に至る下部排気管とからなり、同マニホルド及び各管とはゴム継手で接続し、同継手の両端がクリップバンドで固定されていた。
 また、主機の冷却海水は、吐出状況を直接確認しづらい位置に排出口が設けられていることから、始動後は冷却水温度計の上昇経過を監視して通水状況を確認する必要があり、長期間の係留によってフジツボやムラサキイガイなどがアウトドライブの海水吸入口付近に付着すると、海水の吸引量が不足するおそれがあった。
 B指定海難関係人は、平成14年3月にアリョンを購入することになり、前所有者が上架のうえ、船底の洗浄、アウトドライブ海水流路の掃除等、整備を行った状態で受け取り、同人から船体及び機関についての取扱い説明を受け、アウトドライブに海水吸入口が設けられていることを知っていた。その後、広島県広島港の西部に所在する廿日市ボートパーク(以下「ボートパーク」という。)を定係地とし、たまに広島湾内を航走する程度であったことから、同年7月に入って船内掃除等のためアリョンに赴いた際、アウトドライブやプロペラにフジツボが付着し始めているのを認めたものの、それ以降整備を行わず係留したままとした。
 ところで、B指定海難関係人は、アリョンを売却することとし、インターネット上のオークションに出品していたところ、M(以下「M購入者」という。)から打診を受けたので直接交渉を始め、翌8月6日に係留中のアリョンを見てもらうことになり、船内を案内する間主機を30分間ほどアイドリング運転したが、始動後の点検を行わなかったので、海水吸入口付近に付着したフジツボによって海水の吸引量が減少し、冷却水温度が通常より上昇していることに気付かなかった。そして、同人に対しては、毎週のように航走していて機関には異常がないと伝え、アウトドライブなどにフジツボが付着していることを含め、運航状況及び機関の状態等を適切に説明することなく、越えて11日にエンジンキーを渡した。
 一方、A受審人は、M購入者の経営する会社の社員であり、平成7年に海技免状を取得したのち、知人所有やレンタルのプレジャーボートを借りて遊走していたもので、アリョンの購入後、同社の従業員及び家族を乗せて宮島の水中花火大会を見物することになってそのときの運転を同購入者から指示されたことから、事前準備のため同月13日に係留中のアリョンに出掛け、機関室、キャビン内部及び操縦席の装備機器の内容を点検し、主機の発停がスムーズに行えることを確認のうえ帰宅した。
 翌14日夕刻、A受審人は、同乗者が集合する前にボートパークに着き、燃料油と手洗い水を補給したのち主機を始動し、トランサムステップの下方で排出口が見にくかったが、B指定海難関係人から毎週運航して機関の運転状態に問題はないと言われたと、M購入者から聞いていたので大丈夫と思い、冷却水温度計の上昇経過を監視して冷却海水の通水状況を確認しなかったので、その後アイドリング運転を続けるうち、海水吸入口がフジツボに塞がれた状況のもとで海水の吸引量が著しく不足したまま、同温度計が80度近くまで上昇していることに気付かなかった。
 こうして、アリョンは、A受審人が船長として乗り組み、M購入者ほか同乗者11人を乗せ、花火見物の目的で、19時15分ボートパークを発し、微速で航行して廿日市大橋の下を通過したのち主機を回転数毎分2,000にかけて航行を続けていたところ、冷却の阻害された主機と排気管が過熱し、19時30分広島はつかいち大橋橋梁灯(C1灯)から真方位162度800メートルの地点において、右舷列上部排気管と下部排気管とのゴム継手がクリップバンドによる締付部付近で破損し、機関室ケーシングの隙間から排気ガスが噴出した。
 当時、天候は晴で風力4の南風が吹き、港内は穏やかであった。
 A受審人は、操縦ハンドルを上げても増速しないのでおかしいと思っていたところ、機関室から煙が出ているとの報告を受けたのでいったん主機を停止し、同室ケーシングを開けて排気ガスの噴出を認めたものの、漏洩箇所が分からないままケーシングを閉めたのち、冷却水温度計が80度以上に上昇しているのに気付き、その低下を待って主機を再始動しようとしたが始動することができなかった。
 アリョンは、排気管ゴム継手の破損箇所から海水が機関室に浸入し始め、やがて喫水が増えてキャビンのべーシンから水が溢れ始めたので、118番通報で救援を依頼し、まもなく来援した巡視艇にA受審人と同乗者が移乗するとともに、同艇の排水ポンプで排水しながら修理地にえい航され、のち上架のうえ、過熱、濡損した主機の開放整備のほか、破損した排気管ゴム継手及び濡損した電気機器などを新替えして修理された。

(原因)
 本件機関損傷は、主機始動後の冷却海水通水状況の確認が不十分で、係留中に船内外機のアウトドライブ付海水吸入口がフジツボに塞がれた状況のもと、海水の吸引量が著しく不足したまま広島港内を航行中、主機の冷却が阻害されたことによって発生したものである。
 船舶所有者が、売り渡すにあたり、購入者に対して運航状況及び機関の状態等を適切に説明しなかったことは、本件発生の原因となる。

(受審人等の所為)
 A受審人は、購入者から運航を任され主機を始動した場合、トランサムステップの下方で排出口が見にくかったのであるから、冷却が阻害されたまま主機を運転することのないよう、冷却水温度計の上昇経過を監視して冷却海水の通水状況を十分に確認すべき注意義務があった。ところが、同人は、船舶所有者から毎週運航して機関の運転状態に問題はないと言われたと、購入者から聞いていたので大丈夫と思い、冷却海水の通水状況を十分に確認しなかった職務上の過失により、海水吸入口がフジツボに塞がれた状況のもとで海水の吸引量が著しく不足したまま運転を続け、主機及び排気管の過熱を招いて排気管ゴム継手が破損し、機関室が浸水して主機及び電気機器などを濡損させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人が、たまに航走した程度でアウトドライブなどにフジツボが付着しているのを認めていたにもかかわらず、売り渡すにあたり、購入者に対して、運航状況及び機関の状態等を適切に説明しなかったことは、本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては、勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。





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