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平成14年門審第101号
件名

漁船第八旭丸火災事件

事件区分
火災事件
言渡年月日
平成15年3月11日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(河本和夫、橋本 學、島 友二郎)

理事官
中井 勤

受審人
A 職名:第八旭丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
指定海難関係人
B 職名:Y電気工業代表

損害
甲板上の構造物を焼損

原因
明らかにすることができない

主文

 本件火災は、無人で岸壁に係留中の船内で発生したものであるが、その原因を明らかにすることができない。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年2月18日02時35分
 鹿児島県垂水港

2 船舶の要目
船種船名 漁船第八旭丸
総トン数 6.4トン
全長 14.85メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 161キロワット

3 事実の経過
 第八旭丸は、小型底びき網漁業及び遊漁業に従事する1層甲板のFRP製漁船で、船体中央部に操舵室、同室下部に蓄電池室、その前方に機関室が配置されていた。
 蓄電池は、主機始動用として容量155アンペア時のもの2個及び船内電源用として容量130アンペア時のもの2個を装備し、操舵室右舷に備えられた配電盤を介して各所に給電されていた。
 A受審人は、平成8年5月第八旭丸を購入した際、前船で使用していた網巻き機を第八旭丸の船尾甲板に移設することとし、電気関係工事をB指定海難関係人に発注した。
 網巻き機は、株式会社工進製のMR4024型と称する、定格出力400ワット、定格電圧24ボルト、1時間定格電流15アンペアのもので、据付けに当ってはモータ保護のための電路遮断器及びヒューズを介して配線し、公称断面積5.5平方ミリメートル3芯の電線を使用することなどが取扱説明書に記載されていた。
 B指定海難関係人は、配線工事にあたり、電線として公称断面積5.5平方ミリメートル2芯、導体径3.1ミリメートル、仕上がり外径約15.8ミリメートルのビニルキャブタイヤケーブルを用い、配電盤に予備のノーヒューズブレーカがなく、工期に余裕がなかったので、同電線を船内電源用蓄電池から蓄電池室天井の穴、操舵室後部隔壁左舷側甲板上高さ約15センチメートルで同隔壁を貫通する直径約50ミリメートルのビニル製エルボ管、さらに、船尾甲板に敷かれた木製すのこの下を通し、網巻き機モータのスイッチまでノーヒューズブレーカを介さずに直接接続した。
 A受審人は、その後1人で乗り組んで操業に従事し、毎年6月の休漁期に船尾甲板を掃除するとき、前示電線を点検して異状がないことを確認していたが、平成14年2月10日ごろ操舵室でねずみを発見し、ねずみが船内に侵入することを防止する目的で、同月15日前示ビニル製エルボ管の中にナイロン製の網を詰めて塞いだとき、電線にはねずみがかじったような痕跡がないことを確認していた。
 A受審人は、同月16日操業を終えたのち、13時00分垂水港南防波堤灯台から真方位037度270メートルの地点の岸壁に第八旭丸を係留し、配電盤の各スイッチを切ったうえで、操舵室出入り口を施錠しないまま、約2キロメートル離れた自宅に帰り、翌17日は休業日であったが、06時ごろ岸壁へ行き、第八旭丸の外観を点検して異常がないことを確認した。
 第八旭丸は、無人で前示地点に係留中の翌18日02時35分、操舵室後部隔壁左舷側付近から火災が発生し、通行人が発見して垂水市消防本部に通報した。
 当時、天候は曇で風力3の北東風が吹き、海上は穏やかであった。
 第八旭丸は、消防車からの放水で03時15分鎮火した。
 火災の結果、第八旭丸は、甲板上の構造物を焼損したが、のち修理された。また、鎮火後同消防本部による調査が行なわれ、操舵室後部隔壁左舷側付近が最も焼けていて火元とされ、同付近から短絡によって導体素線の先端が丸く溶融した電線が発見された。

(原因の考察)
1 火元と思われる操舵室後部隔壁左舷側付近で各素線の先端が丸く溶融した電線が発見されており、同電線が短絡して火花を発したことは認められるが、以下によりこの電線を特定することができなかった。
(1) A受審人の当廷における、「消防本部による調査で、火元と思われる操舵室後部隔壁左舷側付近で短絡痕のある電線を発見した。同電線は火災調査結果についての報告書添付の損傷写真写番号10及び11に写っているものに間違いない。自分も一緒に確認した。」旨の供述
(2) 火災調査結果についての報告書写添付の損傷写真写10及び11には、電線被覆が焼けて導体が剥き出しになった長さ約10センチメートルの電線が2本写っており、そのそれぞれの1端は短絡した形跡があり、他端は何かから外れた接続用端子にビスで接続されている。同端子及びビスの形状から推定して導体の直径は6ないし8ミリメートル程度と思われ、網巻き機電線の導体直径3.1ミリメートルよりも明らかに太く、同電線ではないと判断できる。
(3) 網巻き機電線は、蓄電池から網巻き機まで1本の電線で配線されており、操舵室後部隔壁左舷側貫通管付近で接続用端子は使用されていないことからも短絡した電線は網巻きの電線ではないと判断できる。
(4) 火災調査結果についての報告書写中、「A受審人の供述によれば、船内にねずみがいるとのことで、配線関係を見分した結果、ねずみが噛み切ったとみられる配線の断線部分を発見した。短絡痕とみられる箇所の焼損が激しいことからねずみによる短絡が原因と推定する。」旨の記載があるが、A受審人に対する質問調書中、「貫通管があった部分を調べていると、切断したケーブルが見つかり、火花で先端が丸くなっていた。本件の1週間前にねずみを見たし、この貫通管にその後詰めたタオルが何度も外されたことを消防に話すと、それはねずみだということになった。」旨の供述記載及び当廷におけるA受審人の、「本件の3日前貫通管を塞いだときねずみが電線を噛んだ痕跡はなかった。本件後の調査時にも短絡痕のあった電線付近で焼けたねずみの骨などはなかった。」旨の供述から、ねずみが電線を噛み切って短絡したとする推定原因を排除する。
2 電線がなぜ短絡したのか特定することができなかった。
 火災によって電線被覆が燃え、短絡した可能性を否定できない。ただし、この場合は、配電盤の各スイッチが切られていることから、短絡箇所は蓄電池と配電盤との間となる。
3 電線が短絡したとしても、操舵室内には若干の衣類を除いて可燃物はなく、短絡による火花が何に引火したのか特定することができなかった。
4 不特定の侵入者による失火ないしは放火の可能性を排除することができなかった。
 以上から、本件火災は、その原因を明らかにすることができない。
(原因)
 本件火災は無人で岸壁に係留中の船内で発生したものであるが、その原因を明らかにすることができない。

(受審人の所為)
 A受審人の所為は、本件発生の原因とのかかわりを明らかにすることができない。
 B指定海難関係人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。





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