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 海難審判庁裁決録 >  2003年度(平成15年) > 乗揚事件一覧 >  事件





平成14年門審第106号
件名

油送船第十一重福丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成15年3月11日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(長浜義昭、西村敏和、米原健一)

理事官
関 隆彰

受審人
A 職名:第十一重福丸船長 海技免状:四級海技士(航海)
B 職名:第十一重福丸一等航海士 海技免状:五級海技士(航海)(履歴限定)

損害
船尾船底外板に凹損、推進器翼に曲損

原因
居眠り運航防止措置不十分

主文

 本件乗揚は、居眠り運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年1月16日13時20分
 山口県大畠瀬戸

2 船舶の要目
船種船名 油送船第十一重福丸
総トン数 199トン
全長 47.99メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 625キロワット

3 事実の経過
 第十一重福丸は、専ら瀬戸内海において重油の輸送に従事する船尾船橋型油送船で、A、B両受審人ほか1人が乗り組み、空倉のまま、船首0.80メートル船尾2.60メートルの喫水をもって、平成14年1月16日11時45分山口県岩国港を発し、大畠瀬戸経由で大分港に向かった。
 ところで、大畠瀬戸において、西航する船舶は、同瀬戸東端の大畠航路第4号灯浮標(以下、大畠航路各号灯浮標については「大畠航路」の冠称を省略する。)から、同瀬戸中央付近に架けられた大島大橋の大島大橋橋梁灯(C1灯)(以下「橋梁灯」という。)を通り西方に1,950メートル引いた線(以下「C線」という。)の北側海域を、同大橋の第3及び第4各橋脚の間を経て航行するよう、また、東航する船舶はC線の南側海域を、同大橋の第3及び第4各橋脚の間を経て航行するよう、海上交通安全法に基づく指定経路(以下「指定経路」という。)が定められていた。
 A受審人は、船橋当直をB受審人及び自らの2人により、単独で4時間交替の2直輪番制と定め、離岸時から操船にあたり、12時15分橋梁灯から029度(真方位、以下同じ。)12.0海里の地点に達したとき、針路を205度に定め、機関を全速力前進にかけ、折からの約0.4ノットの南南西流に乗じて10.9ノットの速力(対地速力、以下同じ。)とし、自動操舵に切り換え、出港操船を終えてB受審人と船橋当直を交替したが、その際、前日午後から待機のため停泊していて、同人に十分な睡眠時間を与えたので、居眠りすることはあるまいと思い、眠気を催したときには船長に報告するよう指示することなく、また、自ら指揮して大畠瀬戸を通航するために、同瀬戸に接近したら報告するよう指示もしないまま降橋した。
 B受審人は、A受審人から何の指示も受けないまま船橋当直につき、自らが操船して大畠瀬戸を通航するつもりで広島湾を南下していたところ、12時52分橋梁灯から033度5.3海里の地点に達したとき、2時間ほど前に風邪薬を服用していたこともあって眠気を催したが、出港前にとった昼食後の眠気であろうから我慢できるものと思い、休息中の船長に報告して昇橋してもらうなど、居眠り運航の防止措置を十分にとることなく、舵輪の後方に置いたいすに腰掛けたまま当直を続けていたところ、いつしか居眠りに陥った。
 B受審人は、居眠りしたまま、13時00分半第5号灯浮標の西側を通過し、同時05分半には約1.0ノットに強まった南南西流に乗じて11.5ノットの速力で進行し、同時14分少し前指定経路の東端まで1海里に接近して、約2.2ノットに強まった南西流により6度ほど右方に圧流されながら12.4ノットの速力で続航し、同時18分からは西方に流向を変えた潮流により10度ほど右方に圧流されながら、原針路、11.6ノットの速力で進行中、13時20分橋梁灯から120度980メートルの地点において、第十一重福丸は、屋代島北岸に乗り揚げた。
 A受審人は、自ら指揮して大畠瀬戸を通航するために昇橋しないまま、自室で休息していたところ、衝撃を感じて急ぎ昇橋し、乗揚を知って事後の措置にあたった。
 当時、天候は曇で風力1の西南西風が吹き、潮候は下げ潮の初期で、付近海域には約2.2ノットの西流があり、視界は良好であった。
 乗揚の結果、船尾船底外板に凹損を、推進器翼に曲損をそれぞれ生じたが、救助船によって引き下ろされ、のち修理された。

(原因)
 本件乗揚は、大畠瀬戸に向け広島湾を南下中、居眠り運航の防止措置が不十分で、同瀬戸東口の屋代島北岸に向首、進行したことによって発生したものである。
 運航が適切でなかったのは、船長が船橋当直者に眠気を催したときには報告するよう指示しなかったことと、船橋当直者が、眠気を催した際に船長に報告しなかったこととによるものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、大畠瀬戸に向け広島湾を南下中、単独の船橋当直を一等航海士にあたらせる場合、眠気を催したら船長に報告するよう指示すべき注意義務があった。しかるに、同人は、出港前に十分な睡眠時間を与えたので、居眠りすることはあるまいと思い、眠気を催したら船長に報告するよう指示しなかった職務上の過失により、船橋当直者から眠気を催した旨の報告が得られず、船橋当直者が居眠りに陥り、自ら指揮して大畠瀬戸を通航することもないまま、屋代島北岸に向首、進行して乗揚を招き、第十一重福丸の船尾船底外板に凹損を、推進器翼に曲損をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、単独で船橋当直にあたり、大畠瀬戸に向け広島湾を南下中、眠気を催した場合、風邪薬を服用していたのだから、船長に報告して昇橋してもらうなど、居眠り運航の防止措置を十分にとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、昼食後の眠気であろうから我慢できるものと思い、居眠り運航の防止措置を十分にとらなかった職務上の過失により、いつしか居眠りに陥り、屋代島北岸に向首、進行して乗揚を招き、第十一重福丸に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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