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 海難審判庁裁決録 >  2003年度(平成15年) > 乗揚事件一覧 >  事件





平成14年門審第110号
件名

押船げんかい被押バージげんかい乗揚事件
二審請求者〔理事官伊東由人〕

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成15年3月4日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(島 友二郎、河本和夫、米原健一)

理事官
伊東由人

受審人
A 職名:げんかい船長 海技免状:五級海技士(航海)
指定海難関係人
B 職名:げんかい甲板員

損害
バージ・・・・船首船底に破口を伴う凹損

原因
げんかい・・・居眠り運航防止措置不十分

主文

 本件乗揚は、居眠り運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年6月2日22時27分
 福岡県姫島曽根埼南方

2 船舶の要目
船種船名 押船げんかい バージげんかい
総トン数 144トン  
全長 30.50メートル 88.40メートル
  21.00メートル
深さ   7.50メートル
機関の種類 ディーゼル機関  
出力 1,471キロワット  

3 事実の経過
 げんかいは、専ら鋼製被押バージげんかい(以下「バージ」という。)とともに海砂の採取運搬に従事する鋼製押船で、A受審人及びB指定海難関係人ほか4人が乗り組み、船首4.00メートル船尾4.50メートルの喫水をもって、海砂2,050立方メートルを積載して船首5.00メートル船尾5.50メートルの喫水となったバージの船尾凹部に船首部を嵌合(かんごう)させ、全長約106メートルの押船列(以下「げんかい押船列」という。)とし、平成14年6月2日21時40分佐賀県唐津港を発し、関門海峡経由で、福岡県宇島港に向かった。
 A受審人は、船橋当直(以下「当直」という。)を、唐津港と海砂採取海域との往復及び博多港への航海時は自らが単独で、宇島港への航海時は、出港後倉良瀬戸までの約3.5時間のうち、前半の2時間はB指定海難関係人が、後半の1.5時間は他の甲板員がそれぞれ単独で行い、同瀬戸から関門海峡通過までを自らが、その後宇島入港前までを再度甲板員が行う当直体制としていた。
 A受審人は、離岸に引き続いて操船に当たり、徐々に速力を増しながら港外へ向かい、21時48分唐津港西港東防波堤西灯台から317度(真方位、以下同じ。)100メートルの地点に達したとき、ジャイロコースを050度に定め、マイナス3度のジャイロエラーがあったことから047度となった針路で、機関を全速力前進の回転数毎分300に掛け、10.0ノットの対地速力とし、法定の灯火を表示して自動操舵により進行し、同時50分唐津港西港第2号灯浮標(以下「第2号灯浮標」という。)を左舷前方に見る唐津港港界付近で、昇橋してきた次直のB指定海難関係人に針路及び速力などを引き継いで当直を委ね、降橋して自室で休息をとった。
 A受審人は、平成5年2月から甲板員として乗船したB指定海難関係人に対し、当初は当直経験の豊富な甲板員と二人当直として同業務に習熟させ、自らも見張りの重要性など、当直中の諸注意事項の指導を行ったのち、同人が一級小型船舶操縦士の免状を受有し、小型漁船の船長経験があり、当直の職務全般についての知識、能力を有することを認めたことから、翌6年より単独の当直を任せていた。一方、B指定海難関係人は眠気を催したとき、船橋内を歩いたり、船橋両舷のドアを開けて外気に当たったりして、居眠り運航の防止策をとって当直に当たっていた。
 ところで、B指定海難関係人は、地元の祭りである呼子大綱引きに参加するために前日から休暇をとり、当日は13時半から綱引きに参加して1時間ほど綱を引き、疲れが残った状態で21時過ぎに乗船したものであった。
 当直を引き継いだB指定海難関係人は、たばこに火を着け一服し、平素は次の転針地点までは立ったまま当直を続けているが、当日綱引きに参加したことから疲れを感じ、第2号灯浮標を左舷側に航過したころ、舵輪の後方に設置した背もたれ及び肘掛け付きのいすに腰を掛けて当直に当たって、続航した。
 21時52分少し過ぎB指定海難関係人は、唐津港大島灯台から013度1,600メートルの地点に差し掛かったとき、たばこを吸い終え、綱引きによる疲れが残っていたことから眠気を覚えたものの、まさか居眠りに陥ることはあるまいと思い、立ち上がって船橋内を歩くなど、居眠り運航の防止措置をとらないまま当直を続けているうち、間もなく居眠りに陥った。
 こうして、B指定海難関係人は、21時58分半唐津港大島灯台から031度1.8海里の転針予定地点に達したものの、居眠りに陥っていてこのことに気付かず、転針できずに福岡県姫島に向首したまま進行中、22時27分筑前姫島港東防波堤灯台から207度550メートルの地点において、げんかい押船列は、原針路、原速力のまま姫島曽根埼南方の浅礁に乗り揚げた。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、視程は約2海里で、潮候は上げ潮の初期であった。
 A受審人は、自室で休息中のところ、乗揚の衝撃を感じ、急ぎ昇橋して事後の措置に当たり、その後、積荷を瀬取りしたうえ自力で離礁し、唐津港に帰港した。
 乗揚の結果、バージの船首船底に破口を伴う凹損を生じたが、のち修理された。

(原因)
 本件乗揚は、夜間、唐津湾を湾外に向けて北上中、居眠り運航の防止措置が不十分で、予定の転針が行われず、姫島曽根埼南方の浅礁に向首進行したことによって発生したものである。

(受審人等の所為)
 B指定海難関係人が、夜間、唐津湾において単独で船橋当直に就き、湾外に向けて北上中、眠気を催した際、居眠り運航の防止措置をとらなかったことは、本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては、勧告するまでもない。
 A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。





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