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 海難審判庁裁決録 >  2003年度(平成15年) > 乗揚事件一覧 >  事件





平成15年広審第4号
件名

交通船スリーエース乗揚事件(簡易)

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成15年3月19日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(竹内伸二)

理事官
岩渕三穂

受審人
A 職名:スリーエース船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
推進器翼及び舵柱が曲損、船尾船底に亀裂

原因
進路選定不適切

裁決主文

 本件乗揚は、進路の選定が適切でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
適条

 海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年3月29日11時50分
 愛媛県松山港第1区

2 船舶の要目
船種船名 交通船スリーエース
総トン数 11.11トン
全長 13.80メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 176ワット

3 事実の経過
 スリーエースは、主に広島県尾道糸崎港及び同港周辺で不定期の旅客輸送に従事する旅客定員26人のFRP製旅客船で、ときどき愛媛県今治港及び同県松山港に寄港することがあり、月間15日ほど運航していたところ、A受審人が1人で乗り組み、松山港検疫錨地に停泊中の貨物船まで造船所の技師を送る目的で、船首0.5メートル船尾1.7メートルの喫水をもって、平成14年3月29日09時00分尾道糸崎港中央桟橋を発し、同港内の日立造船株式会社向島工場で技師1人を、さらに広島県土生港の同社因島工場で技師2人をそれぞれ乗せたのち、松山港に向かった。
 A受審人は、それまでに数回松山港に入港したことがあり、同港への出入港にあたっては、松山港を含む安芸灘一帯を記載した小縮尺の海図を見て出入港針路を検討し、興居島黒埼沖を航行するときは、通常高浜瀬戸を通航する船舶が通る黒埼、四十島間を航行し、松山市高浜町沖合150メートルにある四十島と同町海岸との間の水路については、海岸に干出岩が拡がっていて水深が浅く、浅瀬など険礁の位置を詳細に確かめたことがなかったので通航しないようにしていた。
 発航時A受審人は、それまでに通航していた黒埼、四十島間を南下して同島南南西方1.3海里の検疫錨地に向かうつもりで、自宅に置いてある海図を見ないまま尾道糸崎港を発航し、土生港に寄せたあと瀬戸田水道及び大三島、大崎上島間を経て大下瀬戸を通航した。そして、安芸灘に入ってから霧模様となり、レーダーを備え付けていなかったので視界内の島や陸岸を見て船位を確認しながら安芸灘を南下した。
 11時38分A受審人は、興居島北端の頭埼を右舷側1,400メートルに通過して高浜瀬戸に入り、同時46分松山港高浜5号防波堤灯台から270度(真方位、以下同じ。)900メートルの地点で、九十九島を左舷側400メートルに航過したとき、針路を180度に定め、機関を回転数毎分1,700の全速力前進にかけ、15.0ノットの対地速力で進行した。
 A受審人は、四十島に向首して高浜町沖合を南下し、11時49分少し過ぎ松山港外港2号防波堤灯台から353度1,370メートルの地点で、同島まで150メートルとなったとき、それまで同島東側の水路を通航したことがなかったが、なるべく海岸に近いところを航行することとし、同水路をいちべつして浅瀬に見られる波浪や岩などが認められず、その中央を通れば大丈夫と思い、黒埼、四十島間の安全な水路を通るよう、進路を適切に選定することなく、出港時に予定していなかった、通常船舶が航行しない四十島と高浜町海岸との間の水路中央に向けて針路を150度に転じ、間もなく四十島を右舷側80メートルに航過して180度の針路に戻し、原速力のまま続航中、スリーエースは、11時50分松山港外港2号防波堤灯台から356度1,110メートルの地点において、水面下に没していた干出岩に乗り揚げ、これを擦過した。
 当時、天候は曇で風はほとんどなく、視程は約3,000メートルで、潮候は下げ潮の中央期にあたり、潮高は1.1メートルであった。
 A受審人は、すぐに停船して損傷状況を調査し、舵が効かず航行不能となったことを知り、携帯電話で松山港の交通船に連絡して救助を求めるなど事後の措置にあたった。
 乗揚の結果、スリーエースは、推進器翼及び舵柱が曲損するとともに、船尾船底に亀裂を生じて舵機室に浸水したが、のち修理された。

(原因)
 本件乗揚は、愛媛県松山港において、高浜瀬戸を南下中、進路の選定が不適切で、黒埼、四十島間を航行せず、干出岩などの浅瀬があって、通常船舶が通航しない四十島東側の水路を通航したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、愛媛県松山港において、同港検疫錨地に向け高浜瀬戸を南下する場合、四十島東側の水路については、出港時に通航を予定していなかったうえ、予め浅瀬など険礁の位置を詳細に確かめていなかったのであるから、通常船舶が通航しない同水路を避け、通航経験がある黒埼、四十島間の安全な水路を通るよう、進路を適切に選定すべき注意義務があった。しかし、同人は、同島東側の水路をいちべつして浅瀬に見られる波浪や岩などが認められず、同水路の中央を通れば大丈夫と思い、黒埼、四十島間の安全な水路を通るよう、進路を適切に選定しなかった職務上の過失により、浅瀬のある四十島東側の水路を通航して水面下に没していた干出岩への乗揚を招き、推進器翼及び舵柱を曲損するとともに船尾船底に亀裂を生じさせ、舵機室に浸水させるに至った。





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