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 海難審判庁裁決録 >  2003年度(平成15年) > 乗揚事件一覧 >  事件





平成14年神審第100号
件名

貨物船メリー オーシャン乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成15年3月7日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(大本直宏、内山欽郎、上原 直)

理事官
野村昌志

損害
船底外板に凹損及び推進器翼端に損傷

原因
強潮流に対する配慮不十分

主文

 本件乗揚は、鳴門海峡の強潮流に対する配慮が不十分で、強い逆流期に同海峡の最狭部に差し掛かり、操船の自由を失ったことによって発生したものである。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年9月27日09時40分
 鳴門海峡

2 船舶の要目
船種船名 貨物船メリーオーシャン
総トン数 3,597トン
全長 103.40メートル
登録長 96.01メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 2,427キロワット

3 事実の経過
 メリー オーシャン(以下「メ号」という。)は、船尾船橋型の貨物船で、船長K(大韓民国国籍)ほか13人が乗り組み、空倉で、船首2.40メートル船尾4.30メートルの喫水をもって、平成14年9月24日18時00分大韓民国仁川港を発し、瀬戸内海経由で和歌山県和歌山下津港に向かった。
 K船長は、越えて27日07時45分昇橋し、潮汐表第1巻で鳴門海峡が北流最強09時11分7.1ノットである表値を読み取り、同海峡通峡予定時刻08時45分の潮流を5.2ノットと算出し、自船の速力と通峡経験から通峡可能と考え、当直航海士を補佐に、同甲板手を手動操舵にそれぞれ就け、08時15分孫埼灯台から326度(真方位、以下同じ。)2.8海里の地点に達したとき、針路を119度に定め、機関を全速力前進にかけ、11.5ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で進行した。
 K船長は、08時20分孫埼灯台から339度2.0海里の地点で、右転を開始し緩やかな回頭模様で続航し、同時25分同灯台から353度1.3海里の地点に至り、針路160度ステディの操舵号令で、大鳴門橋中央部の両橋梁標に向首し、折からの逆流の影響を受け、9.5ノットの速力で進行した。
 そのうち、K船長は、次第に逆流が強まるなか、08時33分孫埼灯台から031度680メートルの地点に達し、速力が6.5ノットまで低下していることを知ったとき、自ら算出した予測値5.2ノットに対し、大鳴門橋の手前700メートルのところで、すでに5ノットの逆流を受けていること、鳴門海峡の最狭部に近づくにつれて急速に逆流の影響が大きくなることを勘案すれば、同海峡通峡が極めて困難であるのを予見し得る状況下、同海峡の強潮流に対する配慮を十分に行わなかったので、速やかに反転し同海峡北部の広い海域で潮待ちするなり、明石海峡経由に航行計画を変更するなりの措置をとらなかった。
 こうして、K船長は、原針路のまま急速に減速傾向が強まる状況で続航中、大鳴門橋直下を目前にした08時45分孫埼灯台から084度550メートルの地点で、ついに船体の停止状態に陥り保針を続けたものの、対地速力を得られず、何隻かの同航船や反航船が自船の至近を航過する状況などに危険を感じ、ようやく鳴門海峡通峡を断念して、明石海峡経由に航行計画を変更することにし、右舵一杯を令したところ、渦流やわい潮など複雑な潮流の影響を受け、西方を向首したままそれ以上の舵効が得られず、操船の自由を失い、孫埼付近の陸岸に向首進行するので乗揚の危険を感じ、機関を停止に次いで全速力後進にかけ、左舵20度を令したが及ばず、メ号は、圧流されながら左転中、09時40分孫埼灯台から133度100メートルの浅所に197度に向首し3.0ノットの速力で乗り揚げた。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の初期で、鳴門海峡最狭部付近には約11.5ノットの北流があった。
 乗揚の結果、自力離礁したが、船底外板に凹損及び推進器翼端に損傷を生じた。

(原因の考察等)
1 原因の考察
 本件は、11.5ノットの対地速力を有するメ号が、鳴門海峡の強い逆流期に通峡しようとし、同流に抗しきれず、大鳴門橋直下を目前に船体停止状態が続き、操船の自由を失い、圧流されて浅所に乗り揚げたものであるが、以下、本件の原因について、事実認定の時系列順に考察する。
(1) K船長が、潮汐表第1巻で、鳴門海峡北流最強09時11分7.1ノットである表値を読み取り、通峡予定時刻08時45分の潮流を5.2ノットと算出し、自船の速力11.5ノットと通峡経験から通峡可能と考えたところまでは不可としない。
(2) しかしながら、08時33分K船長は、孫埼灯台から031度680メートルの地点である大鳴門橋の手前700メートルのところに達したとき、速力が6.5ノットまで低下していることを認めていたのであるから、自ら算出した通峡時逆流予測値5.2ノットに対し、すでに5ノットの逆流を受けていること、及び鳴門海峡の最狭部に近づくにつれて急速に逆流の影響が大きくなることを勘案すれば、同海峡の通峡が極めて困難であるのを予見し得る状況であったものと認められる。
(3) ところが、K船長は、鳴門海峡の強潮流に対する配慮を十分に行わなかったので、速やかに反転し、同海峡北部の広い海域で潮待ちするなり、明石海峡経由に航行計画を変更するなりの措置をとらなかった。
 したがって、本件の原因は、排除要因として「鳴門海峡の強潮流に対する配慮不十分」と摘示し、その配慮すべき時刻と地点は、08時33分大鳴門橋の手前700メートルのところとするのが相当である。
2 同種海難発生防止上の観点
 鳴門海峡は、証拠の標目番号9の第五管区海上保安本部、小松島海上保安部及び海上保安協会徳島支部発行の「鳴門海峡を航行する場合の注意事項」と題する日本文・英文のカラーパンフレットに記載された事項等によっても、本件に関係する点を抜粋すると、次のとおりである。
(1) 日本有数の船舶交通の難所で、複雑な海底模様などにより、渦流やわい潮の影響を受ける。
(2) 大型船舶は、潮流の最強時前後でも通峡は避ける。
(3) 潮汐表に掲載の潮流は計算値であって、実際の潮流は、大きく異なる場合がある。
 ところで、同種海難の最新事例に平成14年10月17日に言渡した「貨物船シン ヘイン乗揚事件(平成14年神審第43号)」がある。
 シン ヘイン(以下「シ号」という。)は、総トン数2,548トンで約10ノットの速力で北上中、南流最強時の約1時間半前に、鳴門海峡最狭部へ差し掛かる予定で進行中、平成14年3月22日08時40分大鳴門橋下でほとんど前進しなくなり、09時52分通峡をあきらめ左舵一杯としたところ、操船の自由を失い、09時56分浅所に乗り揚げた。このとき、潮汐表第1巻によれば、鳴門海峡南流最強は10時07分7ノットであった。
 排除要因としては、貨物船シ号乗揚事件は「鳴門海峡通峡時機の選定不適切」で、同最狭部通峡を中止する時刻として、最強時の1時間半前を摘示し、本件は「強潮流に対する配慮不十分」とし、反転する時機を具体的に摘示し、両船の大きさ速力等の違いや種々事実関係の相違から、両事件の排除要因には表現上の違いが生じている。
 しかしながら、本件及び貨物船シ号乗揚事件の事例には、前示の鳴門海峡の特殊性を鑑み、安全運航の基本である潮待ち又は航行計画変更の必要性を挙げているので、同種海難発生防止上の観点として、鳴門海峡通峡の可否を含めた検討は、慎重に行うことが重要であることを判示している。

(原因)
 本件乗揚は、鳴門海峡の強潮流に対する配慮が不十分で、強い逆流期に同海峡の最狭部に差し掛かり、操船の自由を失い、浅所に向け圧流されたことによって発生したものである。

 よって主文のとおり裁決する。





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