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 海難審判庁裁決録 >  2003年度(平成15年) > 乗揚事件一覧 >  事件





平成14年門審第4号
件名

貨物船楠栄丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成15年1月24日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(長浜義昭、米原健一、橋本 學)

理事官
畑中美秀

受審人
A 職名:楠栄丸船長 海技免状:三級海技士(航海)
B 職名楠栄丸甲板長 海技免状:四級海技士(航海)(履歴限定)

損害
船底外板全体に凹損

原因
船位確認不十分

主文

 本件乗揚は、船位の確認が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aの三級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年1月13日20時57分
 関門海峡

2 船舶の要目
船種船名 貨物船楠栄丸
総トン数 698.46トン
全長 61.80メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 956キロワット

3 事実の経過
 楠栄丸は、専ら炭酸カルシウム及び石炭灰の輸送に従事する船尾船橋型貨物船で、A、B両受審人ほか5人が乗り組み、炭酸カルシウム1,004トンを積載し、船首3.36メートル船尾5.00メートルの喫水をもって、平成13年1月13日12時10分大分県津久見港を発し、長崎県松浦港に向かった。
 A受審人は、船橋当直を一等航海士、B受審人及び自らの3人により、単独で4時間交替の3直輪番制をとっていて、16時30分ごろ大分県姫島付近で昇橋して船橋当直についた。
 19時30分ごろA受審人は、下関南東水道第2号灯浮標付近に至って機関当直中の一等機関士を昇橋させて主機の遠隔操作等に配したのち、法定灯火を表示して手動操舵で関門航路の右側を西行し、20時30分ごろ巌流島付近で次直のB受審人が昇橋してきたので、自らが左舷側レーダーの後方に立って指揮をとり、同航路の左舷灯浮標を順次たどるようB受審人に指示して自動操舵で操船にあたらせた。
 ところで、A、B両受審人は、夜間、関門航路を幾度も通航したことがあり、彦島の西側水域を西行する際には、関門航路第15号灯浮標(以下、灯浮標の名称については「関門航路」の冠称を省略する。)、第11号、第9号、第7号及び第5号各灯浮標の同期した一連の緑色灯光を右舷側に見て航行し、第5号灯浮標を通過したら第3号灯浮標に向けて転針することや、第5号灯浮標と台場鼻との間に平瀬が存在することを知っていたが、第5号灯浮標が18時09分ごろから消灯していて、関門海峡海上交通センター(以下「関門マーチス」という。)から国際VHF16、14両チャンネル及び1,651キロヘルツの無線電話で、そのことが繰り返し情報提供されていたものの、その情報を聞き漏らしていて、同灯浮標の消灯を知らなかった。
 こうしてA受審人は、20時41分半下関福浦防波堤灯台から164度(真方位、以下同じ。)1,000メートルの地点で、B受審人が自動操舵のまま針路を321度に定めたことを確認し、機関を全速力前進にかけ、10.2ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、第15号灯浮標より北西方に連なった緑色灯光を順次右舷側に視認しながら関門航路の右側を進行したところ、同時48分関門マーチスから国際VHF16、14両チャンネルで第5号灯浮標の消灯を自船に対し情報提供されたものの、このことをも聞き漏らした。
 20時50分少し過ぎA受審人は、台場鼻灯台から156度1.2海里の地点に達し、第9号灯浮標の灯光を右舷正横100メートルに認めて通過したとき、灯浮標が消灯することはあるまいと思い、0.5海里レンジとしていた1号レーダーの使用レンジを適切に切り替えて台場鼻、レーダー反射器の付いた第7号及び第5号各灯浮標並びにレーダービーコンの併設された第6号灯浮標等のレーダー映像を捕捉し、作動中のレーダーを活用するなどして船位の確認を十分に行わなかったので、第5号灯浮標の消灯に気付かず、同期した一連の緑色灯光の北西端として、右舷船首12度1,100メートルに視認した第7号灯浮標の灯光を、同方位1.2海里に存在する第5号灯浮標のものと誤認して続航した。
 一方、20時54分少し前B受審人も、台場鼻灯台から170度1,220メートルの地点において、第7号灯浮標の灯光を右舷正横100メートルに目視したが、その際、灯浮標が消灯することはあるまいと思い、レーダーを活用して船位を確認するよう進言するなど、A受審人を十分に補佐しなかったので、同受審人から第5号灯浮標が消灯している旨の指示が得られないまま、認めた灯光を第5号灯浮標のものと誤認して次の針路に向け、自動操舵で333度に転じた。
 A受審人は、B受審人が右転させたことを直ちに認めたものの、折から台場鼻沖合の関門航路を南下する3,000トン級の東行船の動向に気を取られていたこともあって、依然、レーダーを活用せず、灯浮標を誤認して転針したことにも、20時54分半わずか過ぎには関門航路の外に出たことにも気付かないまま進行した。
 20時55分少し過ぎA受審人は、台場鼻灯台から185度650メートルの地点で、B受審人が自動操舵のまま針路を342度に転じたことを、第3号灯浮標の灯光の方位変化を見て直ちに認めたものの、左舷側を航過する3,000トン級の東行船が気になっていて右舷側の台場鼻灯台の灯光の見え具合に注意が及ばなかったうえ、0.5海里レンジとしていた1号レーダーを1.5海里レンジと思って一瞥(いちべつ)しただけで、第5号灯浮標の手前で右転が繰り返されて平瀬に向首する状況となったことに気付かず、B受審人に航路内に戻る針路とするよう指示しないまま続航し、20時57分台場鼻灯台から247度260メートルの地点において、原針路、原速力のまま平瀬に乗り揚げた。
 当時、天候は小雪で風力5の北西風が吹き、潮候は上げ潮の中央期で、潮流はほとんどなく、視程は約3海里であった。
 乗揚の結果、楠栄丸は、船底外板全体に凹損を生じたが、自力で離礁し、救助船を伴走させて関門港門司区に入港し、のち修理された。

(原因)
 本件乗揚は、夜間、関門航路を西行中、船位の確認が不十分で、同航路外側の平瀬に向け進行したことによって発生したものである。
 運航が適切でなかったのは、船長が船位の確認を十分に行わなかったことと、有資格の船橋当直者が、船長指揮のもと、灯浮標の灯光を順次たどるよう操船にあたる際、レーダーを活用して船位を確認するよう進言するなど船長を十分に補佐しなかったこととによるものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、自ら指揮のもと、有資格の船橋当直者に関門航路の灯浮標の灯光を順次たどるよう指示して操船にあたらせ、同航路を西行する場合、灯浮標を誤認することのないよう、レーダーを活用するなどして船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、灯浮標が消灯することはあるまいと思い、船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、第5号灯浮標の消灯に気付かず、第7号灯浮標を第5号灯浮標と誤認して転針し、関門航路外側の平瀬に向首進行して乗揚を招き、船底外板全体に凹損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の三級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 B受審人は、夜間、船長指揮のもと、灯浮標の灯光を順次たどるよう操船にあたり、関門航路を西行する場合、灯浮標を誤認することのないよう、レーダーを活用して船位を確認するよう進言するなど船長を十分に補佐すべき注意義務があった。しかるに、同人は、灯浮標が消灯することはあるまいと思い、船長を十分に補佐しなかった職務上の過失により、船長から第5号灯浮標が消灯している旨の指示が得られないまま、第7号灯浮標を第5号灯浮標と誤認して転針し、関門航路外側の平瀬に向首進行して乗揚を招き、楠栄丸に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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