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私はこう考える【死刑廃止について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1993/12/12 産経新聞朝刊
【オピニオンアップ】論説委員・飯田浩史 死刑存廃は世論調査で
◆三ケ月法相非難は卑怯
 先月末、東京、大阪、札幌の各拘置所で計四人の死刑囚の刑が執行された(あくまでも推定)ことに関してまた声高な死刑廃止論者、団体からの三ケ月章・法相非難が渦巻いている。
 今年三月、三年四カ月ぶりに三人の死刑が執行されているが非自民の細川護煕政権になって初めてということもあって脆弱(ぜいじゃく)な八党派連立政権にゆさぶりをかけようとのねらいがあるものとみられる。
 ねらいたがわず公明党の市川雄一書記長をはじめ、社民連の江田五月代表、社会党の村山富市委員長が相次いで「遺憾」あるいは「反対」を表明した。
 しかし、三ケ月法相は就任直後に記者の質問に答えて「わたしの任期中に死刑執行命令書に印を押す案件がないことを願っている。(命令を出すことは)法相の一番つらい仕事だが、残酷に殺された被害者側とのバランスも考えねばならない。死刑に反対という信念の人は法相を引き受けるべきでない」と死刑執行は法治国家の法相としての責務だとの考えを示している。
 だれしも好き好んで死刑執行の命令を出す人はいない。与党各党、会派の幹部、閣僚は三ケ月法相がこうした考えを明らかにした時点で細川首相に法相の「罷免」を要求すべきだった。それをしないで執行のあとで個人の意見として法相を非難するのはひきょうな行為だ。
◆知られざる慎重な手続き
 刑事訴訟法では死刑の執行は死刑が確定した日から六カ月以内に法相が執行命令書に署名押印し、それから五日以内に執行する、と規定している。それなのに執行までに数年以上かかるのはなぜかとの疑問がある。
 法務省刑事局には、法制審議会に提出する資料収集などをつかさどるセクション(全員検事資格をもっている)があるが、この部署の仕事はそれだけではなく、確定死刑囚の裁判記録を精査して疑問がないことを確認したうえで法相のところに記録を持ち上げる役目がある。
 年齢は三十代初めで、死刑事件そのものや確定囚にはまったく関係のない検事が当たる。それも一人ではなく複数の検事が回し読みする。最高裁判決で終わり、というわけではない。公表されないので実態は不明だが、この結果針の先ほどの疑問が発見されれば疑問が氷解するまで法相に記録書類が持ち上げられることはない。こうしたことが執行までに時間がかかっている一因にもなっている。
 刑事訴訟法にはない手続きだが、死刑の執行にはこれほど慎重な配慮がなされている。記録を受け取った法相はさらに自分が納得するまで命令書に印を押さず、時には記録を点検した検事を呼び納得するまで印を押さないこともあるという。
 だいぶ前のことだが、裁判官出身で、仏教に深く帰依していた法相が、刑事局長から上げられた記録を毎朝自宅の仏壇にまつり自身でお経をあげたあと、記録を読み、その結果どこからみても死刑しかない、との確信を得たあとはじめて命令書に印を押したといわれる。
 昭和六十三年十一月から今年三月まで四代の法相が命令書に印を押さなかったことが一部の新聞、テレビで美談のようにもてはやされたこと、とくに僧籍をもつ元法相が「宗教上の信念に基づいて印を押さなかった」と公言したことと比較して三ケ月法相や三年余りの“死刑執行ゼロ”を終結させた後藤田正晴・前法相の「法相のつらい役目だ。なんらかの事情で印を押せない人は法相就任を辞退すべきだ」とのことばとどちらが理にかなっているかはおのずから明らかであろう。
◆硬骨検事長のエッセー
 最近朝日新聞社から「検事調書の余白」と題するエッセー集が刊行された。著者は札幌高検検事長、佐藤道夫氏である。「金丸五億円不正受領事件」で東京地検特捜部が金丸本人を一度も調べずに罰金二十万円の略式起訴した時に、現職の検事長でありながら「この処置は国民から負託された検事の役目を放棄したものだ」との投書を朝日新聞に投稿した人だ。
 エッセー集は時局批判あり、先輩検事の思い出などもあるが職務柄、犯罪者との調べの模様が多い。保護司だった母の薫陶をえて育った、といわれるだけあって犯罪者に向ける目も検事とは思えぬ温かみが文章にあふれている。その中に死刑問題を論じた「死刑存廃」「人はどこまで罪を許せるか」「『残虐』な犯罪」の三編があるが、死刑制度廃止を求める人も存置を主張する人もぜひ読んでもらいたい示唆に富む内容だ。
 死刑存廃−では高名な法学者でありいま廃止運動の重鎮ともなっている元最高裁裁判官が裁判官時代に「誤判のおそれがまったくないかといえば“一抹の不安が残る”」といいながら下級審の死刑判決を支持したことをあげ、「こんな底の浅い死刑廃止論では困る」と批判。
 どこまで許せるか−では親身になって面倒をみた郷里の学校の後輩に妻子を殺された被害者が「犯人は憎い。しかし人の死を求めるのは神の教えに反する。わたしが甘やかしたことも悪い。もう一度立ち直る機会を与えてやってくれ」と検事に訴えた話を紹介している。
 残虐−では強盗をなりわいにしている男が金を奪っただけですまず家人をさんざんいたぶった後皆殺しにして、火を付け全焼させ、裁判では抵抗した主婦がわたし(犯人)に人殺しまでさせた、オニのような女だ、とうそぶく極悪非道な男を現実にあった事件としてとりあげ、被害者が味わわされた恐怖感、絶望感、屈辱感はいかばかりか。この現実を知らずして安易に死刑廃止を訴える人は幸せだ、と結んでいる。
 三ケ月法相は近く死刑存廃について六回目の世論調査を実施する考えを明らかにしている。賛成だし、わたしも国民の大多数が「どんなに極悪非道な犯罪者の命でも国家の名において守る」ことを受け入れるなら死刑廃止に従う。ただ声が大きい廃止論者だけでなく、被害者の遺族、無関係の第三者の声も反映する方法での実施を望みたい。
 
 
 
 
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