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私はこう考える【死刑廃止について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


2002/08/28 朝日新聞朝刊
日本の死刑制度存廃論 欧州中心に廃止の潮流(私の視点・その後)
 
 死刑制度の存廃をめぐって、「私の視点」で議論が続いている。きっかけは、大島令子衆議院議員の「死刑、廃止しなければ人権後進国」(5月27日付)との訴え。これに対し、多くの反論や意見が寄せられた。いま、日本の死刑制度を取り巻く状況はどうなっているのだろうか。
(企画報道室・磯洋介)
 死刑制度で一番大きな変化は、国際環境だ。
 89年にいわゆる「死刑廃止条約」が国連総会で採択されてから、死刑を廃止する国が徐々に増えた。アムネスティ・インターナショナルの調べでは、今年1月現在、存置国・地域84に対し、廃止国・地域は欧州を中心に111と上回っている。
 先進国で死刑を残すのは、米国と日本だけだ。このため昨年6月、欧州評議会は日米両国に対し、「03年1月1日までに死刑廃止に向けた具体的な進展がみられない場合、オブザーバー資格を見直す」と決議した。
 死刑問題に詳しい明治大学の菊田幸一教授は、「経済や軍事力で優位な日米に対し、欧州には人権や環境問題を外交交渉力にしたいという政治的意図はあるものの、死刑廃止はもはや世界の流れだ」と断言する。
 こうした見方に対し、法務省は、今年4月の国連人権委員会での死刑廃止決議が、賛成25に対し、反対が20、棄権が8あったことなどを挙げ、「死刑廃止が国際的に一致したといえる状況にはない」(北村篤・参事官)と反論。死刑の存廃についても、「各国における国民感情、犯罪情勢、刑事政策のあり方などを踏まえ、独自に決定すべきだ」(同)という従来の見解を変えていない。
 ただ、これまで比較的死刑存置国が多かったアジアでも、韓国では昨年10月に過半数の国会議員によって死刑廃止法案が提出され、現在審議中だ。死刑の執行も金大中大統領が就任した98年以来、ない。台湾でも昨年5月、法務大臣が04年までに死刑を廃止する計画を発表している。
 総理府(当時)が99年9月に行った世論調査では、79%が死刑制度を支持すると答えているとはいえ、死刑廃止の国際潮流から日本だけが遠ざかる可能性がある。
○浮上する執行停止制度
 死刑制度を支持する人の間でも、生命を奪う死刑と、10年を経過すれば仮釈放が可能な無期刑に、大きな違いがあることを問題だと指摘する声は大きい。
 そこで、国会の超党派で組織する「死刑廃止を推進する議員連盟」(会長・亀井静香氏)は、死刑の代替刑として、仮釈放を認めない終身刑を新たに設ける法案を検討して、来年の通常国会に提出する方針だ。
 ただ、この死刑に代わる終身刑については、死刑廃止論者からも「かえって残虐な刑罰だ」「重罰化の動きを加速する」との批判がある。
 日弁連の死刑制度問題対策連絡協議会の座長を務めた柳重雄弁護士は、「日本の刑務所は閉鎖的で非人間的な扱いをする、と諸外国から批判されている。処遇を改善しないまま終身刑を導入すれば、かえって人道上問題になる」と指摘する。
 そうした中で浮上しているのが、死刑執行停止制度、いわゆるモラトリアムの採用だ。死刑制度そのものは維持しつつ、確定死刑判決を受けた者に対する死刑の執行を一律に停止する。その間に死刑制度について存廃も含めて国民的な議論をして見直すというのだ。
 死刑を廃止した多くの国が採用し、5月に来日した欧州評議会のメンバーもモラトリアムの導入を勧めた。死刑廃止議連の保坂展人事務局長(社民党)も、「幅広い国民的議論を巻き起こさないと、刑法の最高刑から死刑を除くのは難しい。耳の奥に残った」と言う。
 日弁連でも現在、死刑執行停止法案をつくり、政府内に臨時調査会などを設けて死刑制度の存廃について合意形成するよう提言できないか、内部で検討している。
 今後、日本でも死刑制度の存廃が大きな社会的、政治的課題になる可能性が高い。
◇読者の意見から 肉親が被害者でも反対か/罪の自覚ないまま抹殺して何になる
 「私の視点」に寄せられた意見では、当初、死刑廃止論に反発する声が多かった。しかし、次第に死刑廃止に理解を示す意見も増えている。
 多かったのは、大島議員が死刑囚の首の写真を撮って法相に「死刑は残虐だ」と訴えた行為に対して、「(大島氏は)殺害された被害者の遺体はご覧になったのでしょうか」(41歳、勤務医)、「自分の親や子供が被害者になった場合でも、死刑は反対であろうか」(61歳、女性)といった応報感情に基づく反発だ。
 死刑制度に対しても、「正義を実現するためには、(国家に)一元化された暴力装置が必要」(38歳、塾講師)、「あだ討ち時代に戻ることはできないので、法治国家としての処罰は必要」(58歳、公務員)と肯定する。
 死刑制度を必要としない社会は理想だが、次々と起こる凶悪事件に、どうしても極刑を望む心理は強いようだ。
 逆に、死刑制度の廃止に賛成する人は、国家による「殺人」に疑問を感じ、誤判や冤罪の可能性を指摘する。
 「死刑制度を廃止しなくてはならないと思う最大の理由が、国家に市民の生殺与奪権を与えてはならないことだ」(49歳、NPO職員)。「人が裁判を行う以上、冤罪の危険性を完全に除去するのは不可能。(死刑に賛成の人は)仮に自分の身内が冤罪で死刑になっても受け入れられるのか」(27歳、大学院生)
 一方で、そもそも「死」は刑罰になるのか、という意見もあった。横浜市に住む32歳の幼稚園教諭は、「自らの罪すら理解していない犯罪者を、社会が抹殺したところで何になるのか。たとえ何十年かかろうと罪を理解させることが、刑として有効だと思う」。
<死刑制度をめぐる最近の主な動き>
1989年   国連で死刑廃止条約を採択(91年発効、日本は米国、中国などと反対)
93年   後藤田法相、3年4カ月ぶりに死刑執行を再開
国連人権規約委員会が死刑廃止を勧告
94年   超党派の国会議員による「死刑廃止を推進する議員連盟」が発足
96年   ロシアが欧州議会に加盟するため、死刑執行を停止
99年   総理府の世論調査で、「死刑もやむを得ない」が79%と戦後最高。オウム事件の影響か
2001年   欧州評議会が日米に対し、「死刑廃止に進展がなければオブザーバー資格を見直す」と決議
米連邦議会に死刑執行停止法案が提出される
02年   死刑廃止議連が死刑廃止法案の骨子を発表
欧州評議会と死刑廃止議連が、国会議員会館で司法人権セミナーを開く
 
 
 
 
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