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私はこう考える【死刑廃止について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1999/11/29 朝日新聞夕刊
「死刑と無期の境界は」 国立市主婦殺害で最高裁判決
 
 何の落ち度もない主婦が惨殺され、夫と幼い子供二人に囲まれた幸せな家庭が壊された国立主婦殺害事件。被害者の夫は、法廷で「同じように殺したい。ぜひ死刑にしてほしい」と訴えていた。しかし、最高裁第二小法廷は二十九日、二審の無期懲役の判決を支持し、検察側の上告を棄却した。今回の事件のほか、死刑を求刑した四つの事件=表=について、検察は量刑不当を理由に上告しているが、遺族にとっても「何が死刑と無期懲役を分けるのか」という問いへの裁判所の答えはまだみえてこない。
 犯行が起きたのは一九九二年十月二十日。被害者は、四カ月前に自宅の塗装工事をしたことのある岡敏明被告(四三)の訪問を受け、「お茶でも飲んで下さい」と親切にもてなした。工事中から職人に自家製のパンをふるまうなどしていた被害者は、同日昼過ぎ、被告から強姦(ごうかん)され、鋭利な刃物で体を突き刺されて、殺された。
 現場を最初に見たのは、学校から帰宅した子供たちだった。当時小学校一年生の長男は「布団の中をのぞくと血がたくさん出ていた」と悲惨な目撃状況を捜査員に話した。小学校四年生だった長女の様子を、被害者の夫は「『お母さん、勉強するから、いい子になるから帰ってきてよ』と狂ったように叫んでいた」と供述している。
 被害者の母は法廷で「あんな残忍な殺し方をされて、もう一度社会復帰できないような重い罪にしてほしい」と述べて、「死刑を望むのか」との検察官の問いに「はい」と答えていた。
 
 総理府が今年死刑制度の存廃について実施した世論調査によると、死刑をやむを得ないと考える人は、七九・三%と調査開始以来最高だった。「被害を受けた人の気持ちがおさまらない」を理由に挙げた人は四八・六%と五年前の前回調査より八・二ポイント上がった。
<最高裁判決要旨>
 二十九日の国立主婦殺害事件の上告審判決で、最高裁第二小法廷が言い渡した判決理由の要旨は次の通り。
 死刑制度を存置する現行法制の下では、極刑がやむを得ないと認められる場合には死刑の選択も許される。殺害された被害者が一名の事案でも、諸般の情状を考慮してやむを得ないと認められる場合があることは言うまでもない。
 本件についてみると、被害者の無念はもとより、遺族の被害感情は厳しく、社会的影響も大きい。性欲に遊興費欲しさが加わって、犯行発覚を防ぐために殺害を安易に決意するなど、犯行は極めて卑劣で自己中心的であり刑事責任は誠に重い。前科からうかがえる性犯罪への親近性も顕著で、一審判決が死刑が相当であるとしたのは首肯し得ないではない。
 これに対し、無期懲役刑を言い渡した二審判決が指摘した、事件後の行動からうかがえる被告の人間性、被告の劣悪な成育状況、被害者への謝罪表明などの主観的事情は過度に重視すべきではない。しかしながら、強盗強姦(ごうかん)については計画的犯行であったとはいえ、殺人については事前に周到に計画されたものとまでは言い難いものがある。また、前科や余罪を見ても、他人の殺害または重大な傷害を目的とした犯行はこれまでになく、この種の犯罪への傾向が顕著であるとはいえない。
 その他、死刑を選択するか否かを判断する際に考慮すべき諸事情を全般的に検討すると、二審判決を破棄しなければ著しく正義に反するとまでは認められない。裁判官全員一致の意見で主文の通り判決する。
●個々の裁判官の裁量を尊重<解説>
 「被害者が一人の場合に、裁判所は死刑を避ける傾向にあるのではないか」という検察側の問いかけに最高裁がどのような答えを出すのかが、国立主婦殺害事件の焦点だった。この日の最高裁判決は、二審が示した無期懲役の量刑判断を支持したが、そのことから直ちに、最高裁が「被害者が一人の時には可能な限り死刑を差し控える」という立場を取ったとみるのは早計だろう。
 この事件は、犯行の残虐さに加えて、母親の無残な死体を最初に見つけた当時小学一年生の長男、小学四年生の長女に消し去ることのできない衝撃を与えた。とりわけ、そうした遺族の被害感情に思いを寄せる時、一審の死刑の量刑を重すぎると考える人は少ないのではないだろうか。
 一方で、一九九六年版「犯罪白書」によると、殺人や強盗殺人事件で被害者が一人の場合に、死刑が選択されているのは、(1)別の事件で無期懲役となり、仮釈放中に殺人・強盗殺人を犯す(2)身代金目的の誘拐殺人(3)保険金殺人――などの特別な事情が加わっている傾向が読みとれる。
 一、二審で量刑判断が分かれたことについて、ある刑事裁判官は「個人的には死刑もあり得るケースだと思う」としながらも、「無期懲役は、むしろ近年の量刑判断の流れを重視したのかもしれない」と話す。
 死刑と無期との境界はくっきり分かれているわけではなく、重なり合う部分がある。それを死刑にするか無期懲役にするのかは、ひとえに個々の裁判官の裁量に任されている。
 最高裁はこの日、「一審が死刑が相当であるとしたことはうなずけないわけではない」としつつ、殺人については計画性がないことや、殺人など重大事件の前科がないことを重視し、無期懲役の量刑もありうるとの立場を取った。二審の裁判官の裁量を尊重し、その選択が裁量を超えて著しく正義に反するとまでは言い切れない、と判断したにとどまるとみるべきだろう。
 来月十日には、強盗殺人罪で無期懲役刑が確定して服役し、仮釈放中に再び強盗殺人を犯した西山省三被告(四六)に対して同じ第二小法廷が判決を言い渡す。その判断を重ねてみる中で「死刑と無期懲役を分けるものは何か」という問いへの答えが見えてくるかもしれない。
(豊秀一)
○残る4件の判断待つ
 本江威憙・最高検公判部長の話 検察官の主張がいれられなかったことは残念だが、残る四件の検察官上告事件に対する最高裁の判断を待ちたい。
◆検察側が上告した残りの4事件
 被告(呼称略) 一、二審判決の認定事実
<被害者数>  (量刑は、一、二審とも無期懲役)
西山省三
<1人>
別の強盗殺人事件で無期懲役刑となり仮釈放中の1992年3月、友人と共謀し、広島県福山市の林道で女性(当時87)を殺して預金通帳を奪い、31万円余りを引き出した。
安川奈智
<2人>
同せい中の女子大生=無期懲役刑が確定=と共謀して91年11月、札幌市で女性の両親を殺して二十数万円を奪い、預金通帳などを使って計約450万円をだまし取った。
仲谷広美
<1人>
大阪府岸和田市で94年10月、取引先の銀行員(当時31)を殺害したうえに、銀行に現金8000万円の身代金を要求する脅迫状を送りつけるなどした。
藤村英彦
<2人>
岡山県倉敷市で93年12月、借金を断った父(当時79)を殺し、口封じのために母(当時74)も絞殺して、預金通帳を奪って260万円余りを引き出した。
 
 
 
 
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