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私はこう考える【死刑廃止について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1998/05/27 朝日新聞朝刊
「無期懲役」が問うもの オウム裁判(社説)
 
 「私はやっぱり生きていちゃいけないと思います」
 法廷で弁護人の質問にそう答えたオウム真理教元幹部の林郁夫被告に対し、東京地裁は無期懲役の判決を言い渡した。
 死者十二人を出した地下鉄サリン事件の実行犯。現在の死刑制度を前提とするならば、極刑が当然と思われていた。
 判決は、事件に関与した松本智津夫被告ら教団関係者の氏名や役割を進んで明らかにした被告の供述を、刑法上の自首にあたると認定したうえで、こう述べている。
 「その供述が突破口となって、教団上層部の検挙につながり、教団の組織解体と将来の凶悪犯罪の未然防止に貢献した」
 無期懲役を求刑した検察の論理に大筋で沿い、被告に認められる特別の事情を最大限に酌んだ内容と見ることができる。
 釈然としない思いをもつ向きも、被害にあった人を中心に少なくないだろう。組織犯罪の解明という刑事政策上の配慮が優先され、証拠の評価や量刑判断が、裁判官や検察官の恣意(しい)に流れるようなことがあってはなるまい。
 しかし、三年前の騒然とした社会状況を思い起こせば、教団の全容を表に出そうとした被告の行動に一定の評価が与えられてしかるべきだという見解には、相応の説得力があるように思う。
 法の許す範囲内で、その運用に軽重をつけることによって、犯罪を防止し、社会の安全を守る。これからの刑事司法を考えるうえで、そうした発想や姿勢が求められる場面はますます増えるだろう。
 そのことを、裁判が提起した重い課題と受け止めて引き続き議論していきたい。
 私たちはこれまで、死刑の運用については慎重な上にも慎重であるべきだと訴え、国民意識の変化も見ながら、制度の存廃論議を進めていくべきだと主張してきた。
 そうした観点からも、今回の判決がもつ意味は小さくない。被害者の数や犯行の態様などから機械的に量刑を決めるのではなく、個々の事情をきめ細かく積み上げ、その中から結論を導き出す姿勢を、今後も尊重していくことが大切である。
 それにしても、様々なことを考えさせられる裁判だった。
 医師として学識も社会的地位もあった被告が、どうして殺人をも肯定するカルト教団にはまり込んでしまったのか。逮捕後、あれだけの分別を取り戻せた人が、なぜ凶悪事件に手を染める前に、自らの力で目を覚ますことができなかったのか。
 私たちが生きるこの社会の危うさや、人間がひとつの価値観に身をゆだねてしまったときの恐ろしさを、林被告を通じて感じ取った人も多いのではないか。
 このような事例が繰り返されないという保証はない。被告の体験を、悲劇の再発を防ぐ手がかりにしなければならない。
 犯罪のおぞましさと対照的だったのが、被告が散布したサリンによって地下鉄職員の夫を亡くした二人の女性の姿である。
 許せないという当然の思いを抱きながらも、罪を告白する被告の姿に人間性の一端を見いだし、ついに「死刑を望む」との言葉を口にできなくなったという。
 被害者の心の中は第三者が容易に推察できる問題ではないし、異なる気持ちを抱いている関係者も大勢いることだろう。
 しかし、二人の態度からは、オウムの対極にある人間の尊厳や強さ、やさしさを教えられたような思いがする。
 
 
 
 
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