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1990/02/02 朝日新聞朝刊
死刑廃止の動き、世界と日本に落差 国連で廃止条約採択
死刑を人道上残酷な刑罰とみて廃止しようという動きが海外で高まっている。昨年12月には、国連で、史上初の「死刑廃止条約」が採択された。国連の資料によると、死刑制度を撤廃したり、制度は残しても事実上停止しているといった死刑廃止国はすでに52カ国に達している。一方、死刑存続の立場に立つ日本政府は死刑廃止条約の採択にも反対した。司法面でも、死刑の是非が問われた連続射殺事件「永山事件」の差し戻し上告審で、最高裁は6日口頭弁論を開くが、凶悪事件に対して死刑適用を維持する姿勢は変えないと見られる。凶悪事件が相次ぐ中、国民の間での死刑をめぐる論議は低調で、国際社会の動きとは対照的な状況が続いている。
(古西洋記者)
世界の死刑廃止の状況については、1987年、国連差別防止少数者保護小委員会に提出された報告書の調査がある。それによると、(1)死刑を全廃している国は、西独、フランス、オーストリアなどヨーロッパ、中南米を中心に29カ国(2)軍法に規定されている罪や戦時下の犯罪を除いた普通の罪について死刑を廃止している国は、カナダ、ブラジル、イスラエル、英国など12カ国(3)死刑制度はあるが、過去40年間死刑の宣告も執行もなく、慣習上廃止とみなすことができる国は、ベルギーとスリナムの2カ国(4)過去10年間、死刑の執行がなく、運用上廃止しているとみなせる国は、アルゼンチンやニュージーランドなど9カ国、となっている。
民間の国際人権組織アムネスティ・インタナショナルの調査では、89年までに死刑を制度、運用で廃止した国は81カ国・地域に達している。とくに増え始めたのは70年代後半からという。
「世界の4割の国で死刑が廃止されている。天安門事件以後の中国などで大量の死刑が執行されたため、処刑数自体は減っているとはいえないが、もはや、死刑廃止は世界的な潮流といえる」としている。
正式名を「市民的及び政治的権利に関する国際規約第2選択議定書」という死刑廃止条約もこうした状況を受けて去年12月15日に、総会で採択された。戦後いち早く死刑を廃止した西独が熱心に締結を働きかけたといわれる。
しかし、人権に関する条約がこれまでほとんど全会一致で採択されたのに、この条約は賛成59、反対26、棄権48と賛否が分かれた。賛成国は死刑廃止国の西欧や中南米などの諸国。反対は、日本、米国、中国、イスラム諸国など。死刑に対する国情の違いを見せつける結果ともなった。
日本は「死刑廃止問題は、各国の国民感情や犯罪様態を考慮して慎重に検討されるべきだ。死刑廃止について国際世論の一致があるとは必ずしも考えられない。さらに、十分な審議を尽くす必要がある」と審議不足を理由に反対した。
死刑に対する政府の姿勢は昨年12月の参院法務委での後藤法相答弁に表れている。
「国民の大多数は現在なお凶悪な犯罪を犯した者に死刑を科すことは正当と考えているようだ。しかも、死刑に凶悪犯罪を抑制する効果があると信じている者も多いと思われる。こうした事情から死刑制度は維持すべきだと考える」
この委員会の2日前に発表された総理府の「犯罪と処罰に関する世論調査」の結果では、「死刑廃止反対」が67%、「廃止賛成」は16%だった。アムネスティ日本支部の調べでは、日本国内での各種の世論調査で「死刑存続」を支持する声はほぼ50―70%台を維持している。
しかし、こうした数字に疑問を投げかける声も少なくない。死刑問題を研究している辻本義男・中央学院大学助教授(刑法)は「日本では、国会でも、マスコミでも、死刑についての論議がほとんどなく、政府も積極的に死刑についての情報を公開しない。どの死刑囚がいつ処刑されたかも不明だ。国民は死刑について極めて漠然としたイメージしか持っていない。論議を深めれば、認識も変わるはずだ」と見ている。
永山事件の口頭弁論で弁護側は、死刑廃止条約など世界の動向を指摘し、「死刑違憲論」を前面に出す。10日には死刑廃止運動団体が東京弁護士会で集会を開く。しかし、凶悪事件の陰に隠れてどこまで死刑問題を世論に訴えられるか、状況は依然として厳しい。
「死刑廃止に向けての市民的及び政治的権利に関する国際規約第2選択議定書」
第1条 1 この選択議定書の当事国の管轄下にある者は、何人も処刑されることはない。
2 締結国は、その管轄権内において、死刑廃止のために必要なあらゆる措置を講じる。
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