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2001/07/07 産経新聞朝刊
【主張】ダム建設 必要性を見極めて厳選を
 
 毎日の生活や産業活動に水は欠かせない。その水が日本では余っていると聞くとほっとした気分になるが、安心してばかりはいられない。必要量以上にダムを建設する国のズサンな水資源開発計画の実態が、総務省の行政評価・監視調査で明らかになった。
 四国・吉野川の早明浦ダムのように総事業費三百三十一億円をかけて建設されながら、完成後二十年以上も利用されていないといったケースが多数判明した。
 ダムには利水だけでなく、洪水などの災害を防止する治水の機能がある。自然破壊を理由に、一切のダム建設を否定する田中康夫・長野県知事の「脱ダム」宣言にはくみすることはできないが、日本のダム建設のあり方を全面的に見直す時期であることは確かだ。
 既存ダムについて生活用水と農業・工業用水の相互利用をはかるなどの有効活用を促進するとともに、必要性を徹底検証するダム事業の厳正なルールづくりが急がれる。
 国は、昭和三十六年制定の水資源開発促進法に基づいて全国の主要七水系について水資源開発基本計画を策定し、国土交通省所管の水資源開発公団によってダム建設を進めてきた。
 総務省が各計画の根拠となる用途別の需要見通しと実績を比較調査したところ、工業用水の場合、筑後川水系で毎秒約三立方メートルの需要見通しに対して、実際には毎秒約〇・一立方メートルの利用しかないなど、全水系で3−50%の実績にとどまっていた。水道水でも筑後川水系で36%、利根川・荒川水系で44%など、実績が需要見通しを大幅に下回る「水余り」の状態となっていることがわかった。
 水道水は厚生労働省、工業用水は経済産業省、農業用水は農水省とダムの用途ごとに所管が違うことも、有効活用を阻む壁となっている。小泉内閣の「聖域なき構造改革」の中で、ダム事業も見直しの対象となっているが、水資源開発公団の存廃を含めて思い切った改革が急がれる。
 だが、地域によっては水不足に悩み、洪水の危険地もある。天候に左右される「水」の備えを怠ることは許されない。必要性を吟味して事業を峻別する厳正なルールの下に、ダムの適正な配置と活用をはかるべきだ。
 
 
 
 
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