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私はこう考える【ダム建設について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


2000/05/20 毎日新聞夕刊
44年目の初夏に・徳山ダム本体着工/上 故郷の記憶8万枚
◇「最後」の時が来る
 地図から消えた村は緑に深く沈んでいた。岐阜県の揖斐川上流に位置する旧徳山村で23日、日本最大、貯水量6億6000万トンの徳山ダムの本体工事起工式が行われる。この巨大ロックフィルダム計画が表面化したのは1957年。完成は2007年度の予定だ。だが、「水余り」を背景にダムの必要性に疑問を投げかける声は根強く、廃村となった旧徳山村の人々は古里になお心を残す。44年目の初夏、ダム建設は問題を抱えたまま最終段階に入る。
 “カメラばあちゃん”として知られる増山たづ子さん(83)が古里・旧徳山村の人たちや風景を撮った写真は8万枚を超える。自室の棚は天井までぎっしりとアルバムが詰まっている。個展を開き、写真集も出版した。
 13年前、徳山村は廃村となり藤橋村に吸収合併された。民宿を営んでいた増山さんも岐阜市に移転した。
 ダムの構想が持ち上がった当時、「村がなくなる」という実感はなかった。1970年代。建設計画が現実味を帯びてくると「村のことを残したい」と考えるようになった。
 同じころ、横井庄一さんがグアム島から帰還した。戦死と伝えられた夫の徳次郎さんがもし帰ってきたら「古里の姿を見せたい」という思いもあった。村人の会話、虫や鳥の鳴き声をテープに録音した。77年、民宿の客から安く譲ってもらったコンパクトカメラで撮影を始めた。
 「徳山のことを知ってもらえるなら」。増山さんは訪ねてくる人を村へ案内する。いつも首にタオルを掛けているのは「かぜの予防」以外にも理由がある。古里へ行くと思わず涙ぐんでしまう。同行する人に気付かれないよう、汗をふくふりをしてタオルで涙をぬぐう。
 
 旧徳山村民466世帯、約1300人は、多くが岐阜県内の5カ所に移転し、団地を形成した。集団移転でできた団地の一つ、岐阜県本巣町の文殊団地。建ち並ぶ約80戸の住宅はどれも立派な構えだ。補償金を受け取った旧村民たちは、競うように大きな家を建てた。団地の元町内会長、山本一夫さん(75)は「村は陸の孤島のような所だった。金をもらって村を出た方がよかった。寂しいとは思わない」と話す。
 同県揖斐川町の表山団地に住む扇間重男さん(78)は最後の村議の一人だ。「元気なうちにダムの完成を」と願う。徳山に住んでいたころ、県境をはさんだ福井県内で、廃れた集落をいくつも見た。「徳山もいずれこうなる」とダム建設を受け入れた。しかし、「古里のことは絶対に忘れん。夢に見るのは徳山のことばかり」。
 週に1度は妻ヨシ子さん(64)と自宅の跡を訪れる。昨年末、水没予定地の上にある山林に小屋を建てた。この夏、ここで何日か過ごすつもりだ。
 歳月は移転した旧村民の間に差をもたらした。散財して補償金を使い果たし、豪華な家にかかる税金が払えなくなって団地を去る人もいる。
 
 「みんな街に来て笑顔が少なくなった。村を出て本当に幸せになった人はいないんでないかな」。懐かしい風景や顔・・・。村で暮らしていたころの写真を見ながら増山さんがつぶやいた。
 古里の言葉で「最後(みなしまい)」。村が本当に消えてしまう時が近づいている。
【五味香織】
 
 
 
 
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