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私はこう考える【ダム建設について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


2001/03/10 朝日新聞朝刊
評価は二分、広がる波紋 田中康夫・長野県知事の「脱ダム宣言」
 
 公共事業の見直しが求められているなか、長野県の田中康夫知事が表明した「脱ダム宣言」が、県内外に大きな波紋を広げている。突然の宣言に、県議会には「撤回」を迫る声がある一方、建設に批判的な市民団体は「英断だ」と評価。ダムを担当する国土交通省は各地への飛び火を警戒する。宣言が打ち出された背景と、その影響を探った。
(長野支局・西本秀、地域報道部・中島秀憲)
○唐突な「宣言」
 「コンクリートのダムは、看過し得ぬ負荷を地球環境に与えてしまう。できうる限りダムを造るべきではない」
 田中知事は二月二十日の記者会見で「脱ダム宣言」を読み上げ、諏訪湖に流れ込む川の上流に計画されていた下諏訪ダムの建設中止を打ち出した。
 知事が県幹部に説明したのは、会見のわずか一時間半前。当初の宣言案には、本体着工していない他の六ダムの「原則中止」も盛り込まれていたが、県幹部から「ダム事業を盛り込んだ新年度予算案と整合性がとれない」と指摘を受け、急きょ下諏訪ダムに絞った。
 下諏訪ダムは、二〇〇〇年度に用地買収を進める予定だったが、「公共事業の見直し」を公約に掲げた田中知事の就任で、県は用地買収を延期。買収費を新年度予算に繰り越すかどうかの判断を迫られていた。知事は就任以来、公共事業の現場視察を重ね、問題視した二つのダムの建設にストップをかけた。しかし、下諏訪ダムは治水に加えて利水の目的もあり、知事周辺は「中止する理由がない」との見方を強めていた。
 知事は一月二十三日に現地入りし、「一度の視察で判断を下すのは性急」としていた。一方で昨年末から、公共事業見直しを唱える専門家や、民主党の「緑のダム構想」(注1)をまとめた学者らと意見交換。川と共存する新たな治水を探る河川審議会の答申(注2)などに接し、欧米ではすでに議論されているダム不要論に傾いていったようだ。
 だが、知事が思い描く治水の理念は、日本ではようやく模索され始めたばかり。それを地元住民への説明もなく、いきなり現実の政策に持ち込もうとする手法に周辺は戸惑った。しかし知事は、代替策も定まらないまま宣言に突き進んだ。
○抽象的な答弁
 オール野党の県議会は、「脱ダム」の理念はともかく、知事が流域住民や地元自治体を無視して中止を決めた点を「独断的すぎる」と批判する。「代替策はある」と言った後に、土木部に検討を指示した知事の言動も、不信感を増幅させた。反発する県議たちは開会中の議会で連日、中止の根拠や代替策、災害時の補償問題などを追及している。
 これに対し知事は「権限の範囲内での判断」「宣言の理念に基づいて中止した」「宣言が究極の代替策」といった抽象的な答弁を繰り返すばかり。あつれきは、県議会で脱ダム宣言に疑問を投げかけた光家康夫・土木部長(国土交通省出身)の更迭を決める事態に発展した。
 知事を支えるのは、支持率の高さと県のホームページを通じて県内外から届く数百通の電子メールだ。秘書課によると、大半が環境保全を訴える宣言の理念に賛成する内容だという。知事自身が答弁で「県民からのメールの九割が賛成意見。客観的な数字だ」とアピールしている。
○反対派に励み
 波紋は県外にも広がっている。東北六県の市町村長らでつくる「東北直轄ダム事業促進連絡協議会」が今月六日、脱ダム宣言に反対を表明した。
 国土交通省内には「ダム以外の治水方法を検討してもいいのではないか」という意見も出始めているが、今回の宣言はダムを選択肢から除いており、受け入れられない。「過去にもダム建設の中止はあったが、第三者機関の答申を受けるなどの手続きを踏んだ。長野の場合はあまりにも唐突で、代替案も見えてこない」と困惑気味だ。
 宣言は全国のダム反対運動の励みにもなっている。熊本県の球磨川水系で建設が進められている川辺川ダムをめぐり、球磨川漁協の総代会は宣言直後の先月二十八日、漁業補償案を否決して年度内の本体着工が不可能になった。「川辺川・球磨川を守る漁民有志の会八代支部」の塚本昭司支部長は「宣言が勢いになった部分はある。今までは『まずダムありき』だったが、これからの公共事業は住民が求めるものでなければ」と強調する。
 近著「ダムと日本」(岩波新書)で日本の治水政策の転換を訴えているアウトドアライターの天野礼子さんも「脱ダム宣言が実現すれば、二十一世紀に求められる自然再生型の世界の潮流に、日本もやっと仲間入りができる」と評価する。
 ただ、長野県内では、治水の専門家でない知事が現場に出かけ、ダム事業の可否を判断する手法に対し、流域住民から「ダムがなくて本当に大丈夫か」「川のそばに暮らす不安を分かっているのか」との声が出ているのは事実だ。
 県議会の主要三会派は九日、知事が掲げる公共事業見直しに一定のルールを確立しようと、流域住民や専門家が共同で治水策を話し合う検討委員会を設置する条例案を提出した。下諏訪ダムについても、改めて住民参加で是非を話し合うよう提案している。
 宣言をきっかけに、県議会や住民に、治水や公共事業のあり方を問い直す動きが広がりつつある。
<注1 緑のダム構想>
 民主党の鳩山由紀夫代表の特別諮問機関「公共事業を国民の手に取り戻す委員会」が昨年十一月にまとめた。これまで日本で建設されたダムは二千七百三十五で、さらに五百二十八が完成ないし建設されようとしていることを挙げて、(1)環境破壊(2)堆砂(たいさ)による治水効果の低下(3)巨額な財政負担、などの弊害を指摘。国内の森林二千五百万ヘクタールの総貯水量が、ダム全体の貯水量の九倍になるとして、水源涵養(かんよう)、土砂防止機能も含めて森林=緑のダムの活用を提言している。
<注2 河川審議会の答申>
 旧建設相の諮問機関、河川審議会は昨年十二月、ダムや堤防だけに頼らず、遊水池を利用するなど流域全体の治水対策を講じるべきだとする提言を答申した。国側はこれを、ダムや堤防整備の補完的な手段として選択の幅を広げたものと説明するが、河床と堤防の三面をコンクリートで固め、降雨を早く川から海に流すことを前提にしてきた明治以来の治水の基本を、転換させるものとされている。
 
 
 
 
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