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私はこう考える【ダム建設について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


2000/09/01 朝日新聞朝刊
利水事業に農家そっぽ(着工目前の川辺川ダム:下)
 
 建設省による川辺川ダム(熊本県)計画は、自然環境へのダメージや漁業権をめぐる対立だけでなく、建設目的の一つ「農業利水」を巡っても大きな疑問符を突き付けられている。ダムから農業用水を引くために計画された農水省の国営川辺川総合土地改良事業に多くの受益農家がそっぽを向き、裁判を通して「事業は不要」と訴えたのだ。公共事業のあり方を問うこの裁判の判決は、八日に熊本地裁で言い渡される。判決次第では、今秋に本体着工が迫る中、ダム基本計画そのものの見直しを迫られる可能性も出てきそうだ。
(熊本支局・中島一仁、樫本淳)
 土地改良事業は、熊本県人吉市など川辺川、球磨川流域七市町村の田畑約三千十ヘクタールが対象。一九八四年にいったん着工したが、農水省は農業情勢の変化を理由に九四年、対象農地の規模を縮小し、農家負担を軽くする計画変更を決定。法律で必要な三分の二以上の対象農家の同意を集め、九六年四月に計画を確定した。
 国営事業で水路の本管を引き、支管を県営と団体営事業で設置する。農家が水を受けるには、国営以外の事業にも参加しなければならず、別に負担金が必要となる。
 だが、農家側は同意取得の際に、「水代はただになる」「事業が中止になる」などの説明を受けたと反発、九六年六月、受益農家約八百六十人が熊本地裁に提訴した。原告団は最終的に、対象農家約四千人の半数にあたる約二千百人にまで膨れ上がった。
■死者まで同意
 最大の争点は、計画変更で法的に必要な対象農家の三分の二以上の同意を集めたのかという点だ。農水省側は、名簿を提出し「三分の二の同意は明らか」と主張したが、原告団の調査などで同意取り付けのずさんさが明らかになった。その一つが「死者の同意」だ。
 熊本県多良木町の農業男性(七二)宅に九四年四月、顔見知りの町役場職員が訪れた。「事業が取りやめになるので署名と印鑑をもらいに来た」と説明。名簿には四十年以上前に亡くなった祖父の名があった。男性が「祖父は死んでいる」と言うと、職員は「大したことではない」と、印鑑だけ押して引き揚げたという。
 農水省が計画変更の概要を公告した九四年二月以前に死亡していたにもかかわらず、名簿に記載されていたのは七十四人。うち三十五人が同意したことになっていた。名簿に必要事項をきちんと記載しないまま、署名と印鑑を取っていた例もあった。
 農水省側はこれらを認めた上で、「一部にミスがあったが、取得手続き全体には影響しない」と同意の有効性を主張している。
 これに対して原告側は、事業実施で対象農家に義務を負わせる以上、法に基づいた厳格な同意取得でなければならないと主張。「手続きをやり直すべきだ」と訴えている。
■水を引いても
 農家が反対の声を上げた背景には、農水省も認める農業情勢の変化がある。訴訟が結審した今年三月、原告団の梅山究団長(六九)が最後の意見陳述に臨んだ。
 「米余りの状況の中で、苦肉の策として畑地かんがいへと看板を塗り替えたうえ、補助金目当てに国営事業に拡大した」
 国全体が食糧増産を目指した時代は終わり、減反政策が各地に浸透した。計画変更で農水省は、水田から畑地作物へと事業の軸足を転換させた。だが、農産物の輸入自由化が進む中、負担金を払って水を引いても経営を維持できる農家がどれほどあるのだろうか。
 これに追い打ちをかけるように、農家の高齢化や後継者不足が進む。熊本県立大の中島煕八郎教授(農村計画学)の調査では、事業対象地域の農家就業人口は、七〇年から九五年の間に半減した。逆に六十五歳以上の比率が男性で約三倍、女性で約四倍に。男性後継者がいる農家戸数は、約四分の一にまで落ち込んだ。
 後継ぎがいない高齢農家が増える中、新しい農産物を作り、経営規模を拡大する農業が果たして成り立つのだろうか。事業に反対する農家の叫びは切実だ。
 三十年以上も前に立てられた巨大ダム計画。公共事業の問題点として挙げられる事業の長期化が、農業情勢と事業のずれをここまで拡大した。
 だが、建設省はこうした事態を気にせず、今秋のダム本体工事着工を目指して地元の球磨川漁協に補償交渉を求めている。漁協との交渉を「最終ハードル」と位置付け、「判決をどう判断するかは農水省の問題だ。現時点では確定した計画」として、ダム建設の目的を再検討する考えのないことを強調している。
 
 
 
 
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