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私はこう考える【ダム建設について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


2000/08/31 朝日新聞朝刊
「見直し」含まれず漁業補償が焦点に(着工目前の川辺川ダム:上)
 
 自民党の公共事業抜本見直し検討会が中海干拓や吉野川可動堰(ぜき)などの中止、「白紙」の方針を打ち出す中、建設省が熊本県相良、五木両村で進める九州最大級の川辺(かわべ)川ダム計画=ニュースのことば参照=が、この秋に予定される本体着工を目前に最大のヤマ場を迎えている。漁業補償交渉に入るかどうかを話し合う漁協の臨時総代会と、ダム計画に連動した国の農業利水事業をめぐる訴訟の判決が、九月上旬に迫っているからだ。大型公共事業の代表格とされている巨大ダム計画の行方に全国の注目が集まっている。
(熊本支局・中島一仁、樫本淳)
 「建設目的はどれも破たんしています」「ダムができたら、アユはもう育ちません」
 東京の自民党本部で今月三日、地元の市民グループの代表ら八人が、見直し検討会の谷津義男座長に会った。三十五年前にできたダム計画は既に目的を失ったこと、そして何よりも地元に強い反対運動があることをアピールし、川辺川ダムを見直し対象に加えるよう訴えるのが狙いだった。
 谷津座長は「熊本の知人から同様の話を聞いている。私も関心を持っている」と話したといい、市民らの期待は高まった。
 だが、結局対象から外れていた。期待は大きな落胆に変わった。
 川辺川ダム事業は、与党三党が決めた「採択後五年以上未着工」など四つの中止基準には当てはまらなかった。だが、この基準に環境保全の観点が盛り込まれていれば、どう判断されたか――。この事業を巡る環境問題の一例として、絶滅が心配される野鳥クマタカをめぐる保護論争にまだ決着がついていないのだ。
■クマタカ論争
 日本自然保護協会や地元の環境保護グループは、一九九六年からダムサイト建設予定地近くの谷にすむペアを中心に観察を続けている。九九年十二月、中間報告を公表し、このペアの子育て時の行動圏に、ダムサイトの骨材を取る山が含まれていることを示した。
 猛きん類の保護問題は、これまでも全国各地のダム計画に大きな影響を与えており、計画に遅れが出る事態も予想された。
 ところが今年六月、建設省は事業区域の動植物の生息調査結果を公表し、その中で「この山は行動圏の外縁部に当たるが、影響は小さい」と、保護グループ側の指摘を退けた。
 自然保護協会の横山隆一常務理事は「この山が含まれないように、恣(し)意的な線引きをしたのではないか」と反発。基礎データの公開を求めた。
 建設省は八月に意見交換の場を設け、今後必要に応じてデータを公開し、線引きの妥当性を議論すると約束した。ただ、一方で「骨材採取の山は変えない」とも明言しており、最初に結論ありきとする議論の実効性に疑問の声が出ている。
■漁協内対立激化
 建設省は昨年五月以降、時には「誠意が感じられぬ」と強硬姿勢もちらつかせながら、五回にわたって地元の球磨川漁協に漁業補償の交渉開始を求めてきた。本体着工へ向けて唯一残った法的手続きだからだ。
 漁協内は現在、ダム容認、反対両派が激しく対立しているが、その根底には漁業権を巡る法律論が横たわっている。今月二日、東京で建設省の補償担当者を交えた漁業補償問題を考える集会があった。
 同省の担当者は、ダム湖になる水域で漁業権が一部消滅するとし、「補償を受ける権利は漁協にある」と述べた。これに対し、ダム反対派の後ろ盾で漁業権に詳しい明治学院大の熊本一規教授は「補償を受ける権利は漁民一人ひとりにある」と主張。本体着工には組合員全員の同意が必要との見解を示した。
 漁協理事会で多数を占めてきた反対派は、建設省の補償交渉申し入れに対し、熊本教授の考え方に立って、「漁協には交渉権限がない」と突っぱねてきた。
 これまでの裁判例では、双方の見解が取り上げられているが、八九年に最高裁が「漁協説」を採用。建設省はこの判例を盾に、漁協の決議に期待を寄せる。
 反対派に対し、容認派は意思決定機関の総代会開催を求め、巻き返しを画策。補償交渉委員会の設置と理事らの改選を議題にした臨時総代会が、九月一日に開かれることになった。
 総代会では容認派が優勢とみられ、補償交渉委員会の設置が決まる可能性は強い。ただ、二十九日に公表した全組合員アンケートでは補償交渉入りに反対の組合員の方が多く、反対派は勢いづいた。両派のせめぎあいはさらに続きそうだ。
<川辺川ダム計画>
 熊本県南部を流れる川辺川は日本三大急流の一つ、球磨川の支流で、延長は六十二キロ。流域面積は五百三十三平方キロに及び、球磨川水系全体の約三割を占める。環境庁の水質調査で全国一の清流とされ、「尺アユ」と呼ばれる三〇センチもの大物アユが取れることで知られる。
 一方で球磨川は、古くから洪水常襲地帯でもあった。一九六三年から三年連続で中流域の人吉市などを水害が襲ったのをきっかけに、建設省は六六年、川辺川が流れる相良村に巨大ダムを造る計画を発表した。
 同省は七六年、洪水調節、農業利水、発電を主目的に基本計画を告示。工期は二〇〇八年度までで、総事業費は二千六百六十五億円にのぼる。
 当初、相良村やダム湖に水没する五木村で反対運動が起こったが、九一年に水没者への補償交渉が最終決着した。同じころ、人吉市などで反対運動が再燃。建設省はいまだに本体工事に入れないでいる。
 反対論の主な根拠は、清流をつぶしてまで巨費を要するダムを造る必要はない、という点だ。堤防の改修や遊水地の復活でダムに頼らない総合的な治水を求めている。
 ダム建設の目的の一つ、利水(川辺川総合土地改良事業)をめぐっては、対象農家約四千人のうち約八百六十人(補助参加者を含めると約二千人)が、「水は足りている」と、事実上の事業中止を求めた訴えを熊本地裁に起こしており、九月八日に判決が言い渡される。
 一方、本体着工には、まだ漁業補償が残されており、球磨川漁協では賛成、反対両派の対立が続いている。九月一日、意思決定機関である総代会が臨時開催され、補償交渉に入るかどうかが話し合われることになっている。
(熊本支局・中島一仁)
 
 
 
 
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