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私はこう考える【ダム建設について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1999/11/22 朝日新聞朝刊
世紀を築く:24 川と生きる 洪水とつきあう知恵を(社説)
 
 江戸時代の浮世絵師、安藤広重の代表作「東海道五十三次」は、江戸の日本橋に始まり、京都の三条大橋で終わる。そこには川と人の織りなす風景が実に多い。
 多摩川で舟に乗る着物姿の女性。大井川を板に乗って担がれて渡る武士。天竜川では、きせる姿の船頭が描かれている。川は、人々にとって身近な存在だった。
 人は自分の住むところからどれくらい歩けば、川などの水辺に近づけるか。
 全国二十の都市についての建設省の研究によると、江戸時代はおおむね二百メートル以内だった。現在は三百メートルを超える。東京では五百メートルだ。心理的な距離感からいえば、川はもっと遠い存在になっている。
○治水が大きくする流量
 明治以降、川は開発で埋め立てられ、蛇行した流れは治水事業で直線化された。水辺の樹木は伐採され、コンクリート堤防に変わった。上流には、発電や水資源開発、治水の目的で次々とダムが築かれた。
 それにより、水質は悪化し、多様な生態系が壊された。魚は各地で産卵の場を奪われ、野鳥はすみかを狭められた。景観は激変し、川は人工の水路と化した。
 近年は、開発にブレーキがかかりつつある。けれども、人の生命、財産を守ることをうたう治水事業だけはなお別格だ。各地でダム建設や河川改修が進んでいる。
 皮肉なことに、治水が進むとかえって洪水の規模は大きくなる。
 川を堤防で直線化すると、雨水が素早く海に流れ、沿岸の水はけはよくなる。他方で、川の流量は一時的に膨らむ。さらに、河川改修が進んだ安心感から、両岸が開発され、森や田畑など水をためる「遊水地」が減る。これも川の流量を増やす。
 そこで、再び堤防のかさ上げなどを迫られる。すると、一段と開発が進み、また流量が増す。いたちごっこである。
 利根川の堤防は明治のころに比べ、三、四メートルも高くなっている。戦後は、上流の十カ所に治水ダムをつくった。それでも、水を完全に治めるには至っていない。
 ここに、近代河川技術の限界がある。発想を変えることが必要だ。
 東京大学名誉教授の高橋裕氏は「はんらんを許容する治水思想を取り入れるべきだ」と提言している。
 四国の吉野川を、建設省の可動堰(ぜき)建設予定地から上流へ向けて歩くと、やがて両岸がうっそうとした竹林で覆われている光景に出あう。
 江戸時代から続く日本最大の水害防備林だ。一九五五年ごろに比べると百四十ヘクタール減ったが、いまも三百七十ヘクタールが残る。
 川が洪水になったとき、あふれる水の勢いを和らげ、流れ込む土砂を止めてきた。水害を軽減するのに効果があった。
 徳島県阿波町に住む町議(無所属)の三木康弘さん(四七)は、この竹林で遊びながら育った。川の中州では田畑を耕す。洪水時はその田畑が水をため、流量を緩和する。そんな体験から、治水目的の可動堰計画を「自然破壊と金の無駄遣い」とみる。
 愛知県を流れる豊川下流の豊橋市には、江戸時代から残る広い遊水地がある。「霞(かすみ)堤」と呼ばれる堤防には、初めから切れ目があって、水はそこからあふれ出す。堤防際には雑木林が生い茂る。遊水地はふだん、田畑として使われている。
 建設省は上流にダムを造り、遊水地をなくす計画だ。「豊川を勉強する会」代表の松倉源造さん(五八)は「遊水地や雑木林を残す工夫をすべきだ」と反発している。
 「はんらんを認める治水」は、江戸時代までは珍しくなかった。一つの知恵といえた半面、農民の犠牲も伴った。
 だが、たとえば減反の田んぼを買うか借りるかして活用できないか。被害を償い、住宅地に盛り土をするといった工夫をすれば、採用できない案ではなかろう。
 ドイツやオーストリアでは、直線化された川をもとの蛇行した姿に戻し、洪水のときは沿岸の湿地や平原、森にあふれさせる方法が広まっている。岸に沿った土地は、政府や州が買い上げている。
 先に市民グループの招きで来日した環境コンサルタント、カール・アレクサンダー・ジンク氏はこう話した。「自然の川を回復することが、治水事業になる」
○住民の意識改革も必要
 欧州では、九五年の大規模な水害で近代治水に疑問が強まり、その後、治水にも役立つ川の再生事業がいっそう進んでいる。米国も、基本的に同じ方向にある。
 山の多い日本は欧米と違って、川の土砂がつくった沖積平野に多くの人々が住み、川の流れも速い。地域を堤防で守らざるを得ない事情はある。今後も河川改修を進めることが必要なところはあろう。
 しかし、治水なら自然をいくら傷つけてもいい時代ではない。人命と同時に、環境をも守る川づくりを模索すべきだ。欧米の経験に学び、洪水と共存してきた伝統の知恵を生かすことは、その一つの方法だ。
 そうした道をめざすには、行政はむろん、住民もまた、ひたすら堤防とダムに頼る防災意識を変えなければなるまい。
 緑のダムである上流の山林を、もっと大切にすること、洪水のときは早めに避難することなどはいうまでもない。
 洪水とつきあう知恵を絞り、親しみたくなる川をよみがえらせたい。
●利根川の洪水と治水計画
 (流量単位は毎秒トン。東京大学名誉教授・高橋裕氏による)
洪水発生年 最大流量 治水計画決定年 計画流量
    1900年 3750
1910年 7000 → 11年 5570
1935年 9400 → 39年 10000
1941年 10700    
1947年 17000 → 49年 17000
1959年 10000 → 80年 22000
1982年 11600    
 〈注〉計画流量とは、治水計画で想定した洪水流量。その流量に耐えられる川にするために、治水事業が進められる。
 
 
 
 
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