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私はこう考える【ダム建設について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1999/06/13 朝日新聞朝刊
問われるダム 全国各地で争い
 
 全国各地でダムをめぐる争いが起きている。治水や利水に一定の役割を果たしてきた半面、最近は環境破壊などの災いも目立つ。また、ダム建設の根拠の一つだった工業用水や水道用水の需要見通しを下げる自治体も多い。そのあり方が問われるダムの現実を全国に見た。
○欧米型発想、転換の必要
 新潟大の大熊孝教授(河川工学)は、今春の初講義で二枚の写真を載せた問題用紙を学生に配った。
 三重県の長良川河口堰(ぜき)と、鹿児島県の串良川にある川原園井堰(かわはらぞのいぜき)だ。
 長良川河口堰は、自然保護団体などから「無駄な公共事業」の象徴とされている。コンクリートと鉄の塊だ。
 川原園井堰は、農家の人たちが、山で刈ったシバを束にして積み上げた手づくりの堰である。
 「この二枚を見て、感じることを記せ」。その問いに、川原園井堰を「なつかしく感じる」と答えた学生が多かった。
 明治以降の治水は、欧米を手本にし、洪水を、できるだけ早く海に流す思想を根底に据えてきた。
 川を直線にし、堤防を高く築き、岸をコンクリートで固めた。水は堤防から一滴もこぼさない。それは一定の成果をあげた。
 だが、雨水を蓄える森の木は切られ、道路をアスファルトで覆い、下水管が張り巡らされた都市からも、水は一気に川へ流れた。
 その結果、少しの雨でも洪水は堤防を越えるようになり、さらにダムや堤防を強化する「いたちごっこ」が繰り返された。
 大熊教授は「全部守ろうとするのではなく、水があふれることを前提にした対策の方が、実際は被害が小さくて済む」と話す。
●八ツ場 都市の犠牲、山村に怒り
 群馬県の地方紙に現職町長のダム反対論が載った。昨年十一月のことだ。
 「五千億円を超える税金を使い、五十年前の計画を実施する必要があるのか、大いに疑問です」
 鬼石(おにし)町の関口茂樹町長が、利根川上流の吾妻川で建設省が進める「八ツ場(やんば)ダム」のことを書いた。
 群馬県は東京都の水道水の三分の一をまかなう水がめだ。県内には東京に水を送るダムが四つある。埼玉県境の鬼石町には下久保ダム。約三百戸が湖底に沈んでから三十年になった。
 友達と川に潜り、石を拾って遊んだ思い出が関口町長にはある。清流に育てられたと思っている。その清流が、今はない。
 山村を荒廃させて都市が発展することへの憤りがある。八ツ場ダムは長野原町での計画だが、「鬼石の轍(てつ)を踏ませたくはない」。その思いが、論文を書かせた。
 八ツ場ダムの有効貯水量は九千万トン。完成すれば川原湯温泉の旅館街がまるごと水没する。新聞を見た建設省の職員がきて、ダムの必要性を説いた。
 「国のための最小限の犠牲は仕方ないが、節水すれば、東京の水は足りないことはない」。関口町長は持論を曲げなかった。
 
 「東京にもう水源開発は必要ない。足りない時は農業用水の融通や節水を徹底すればいい」
 埼玉県在住で、水源開発問題全国連絡会の嶋津暉之さんは語る。
 東京都の水道水の需要は一九九三年度以降、減り続けている。現在の水利権は日量六百十三万トンだが、需要は一日当たり平均約五百万トンでしかない。
 都は、四半世紀後には一日最大六百五十万トンに増えると見込んでいる。川の水量が多い時にしか取れない「不安定取水」が三割を超えているため、解消のためにもダムは必要という。だが、首都圏の人口は二〇一〇年以降は減ると予測されている。工業用水も、すでに需要は横ばい状態だ。全国で唯一、節水普及課を持つ福岡市に比べ、東京は一人一日当たりの給水量が百リットル以上も多い。「ビルの数などが違う」と都は言うが、福岡並みに節水すれば、八ツ場ダムに相当する水は二カ月と十日間で節約できる計算だ。
●徳山 クマタカに見直し期待
 白いひなが見えた。鋭い視線で親鳥が警戒する。環境庁が絶滅危ぐ種に指定するクマタカの巣だ。
 双眼鏡を手に、元小学校教諭上田武夫さん(六八)は胸が高鳴った。聞いた通り、岐阜県藤橋村で水資源開発公団が進める徳山ダムの道路建設現場から五百メートルしか離れていなかった。
 四日後の五月二十七日、公団中部支社の幹部が記者会見し、関連工事の一時全面中断を発表した。ワシタカ類の調査のやり直しが必要になったのだ。
 上田さんは徳山ダムに反対する市民団体の代表だ。
 構想から四十二年ぶりの今秋の本体着工を目指し、公団は動きを早めている。巣の発見をきっかけに、このダムが本当に必要か、もう一度議論になればと思う。
 
 徳山ダムは二〇〇七年度完成をめざす。
 総貯水容量六億六千万トンは日本一の規模。総事業費二千五百億円の半分をすでに投じた。洪水対策や発電もあるが、主要な目的を利水においてきた。
 一九八七年、旧徳山村の廃村と四百六十六戸すべての移転が決まった。縄文遺跡もあった集落は、ブルドーザーで整地された。
 「国のためと言われ、泣く泣く村を出た。慣れない都会暮らしに疲れて死んだ人もいる」。故郷の写真を撮り続ける増山たづ子さん(八二)はため息をつく。
 公団は、買収が残る土地について強制収用も辞さない構えだ。
 徳山ダムで当初確保したのは水道用水(上水)と工業用水(工水)を合わせて毎秒十五トン。だが、名古屋市は九七年、早々と上水三トンの権利を返上した。
 三・五トンの工水の権利を持つ岐阜県でも、地元三百社の需要は最大一・五トンでしかない。
 地下水が豊富で「水都」として知られる大垣市の企業は「川の水は質が低いし、温度変化も激しい。切り替えるメリットはない」と言い切る。
 岐阜県は七六年度完成の岩屋ダムの水も使い切っていない。愛知県も水需要を下方修正した。徳山ダムの水が本当に必要なのか、疑問が出ている。
●川辺川 治水の効果、住民は疑問
 熊本県の球磨川は、日本三大急流のひとつに数えられる。環境庁は昨年、水質日本一と認定した。
 その清流の命運を決める川辺川ダム計画が、年度内の本体着工に向け、やま場を迎えた。完成すれば「五木の子守唄(うた)」で知られる五木村の中心部も水没する。
 川辺川が球磨川に合流してすぐ下流に、人吉市がある。たびたび洪水に見舞われた。商店街外れの銭湯の脱衣所の板壁に、背比べのような印があった。
 一九三一年の創業からの大水の記録だと番台のおかみが言う。球磨川上流には六一年、洪水を防ぐ治水が主目的の市房ダムができた。これで水害はなくなると人々は期待したが、人吉市周辺は六三年から三年連続で水害に見舞われた。
 六五年の水害の翌年、流量では球磨川を上回る川辺川にも治水ダムが必要だと計画が浮上した。有効貯水容量一億六百万トン。九州第二のダムになる。
 「清流球磨川・川辺川を未来へ手渡す流域郡市民の会」の重松隆敏事務局長(七二)は懐疑的だ。
 「六五年の大水害は市房ダムの管理ミスが原因ではないか。より大規模のダムで同じことが起きれば被害は計り知れない」。大雨をためてくれるダムも、想定以上の雨が降れば決壊を防ぐために放流する。「ダム水害」と、各地で訴訟も起きている。
 重松さんは、水害体験者の証言を集めたりし、洪水を川べりで受けとめていた遊水地の復活などを提案している。だが、国はダム優位の主張を変えない。
 
 ダムには農業利水の目的も加わった。だが、国営事業で水を引いて潤うはずの農家自身が九六年、国を相手に訴訟を起こした。
 「違法に同意を取られた」「負担金を払ってまで水はいらない」。国側も「死者の同意書があった」と認めた。訴訟には受益農家の半数以上が加わった。「事業推進に必要な戸数が同意した」という国の主張にほころびが出ている。「利水が目的から消えればダム計画は見直さざるを得ない」と川辺川利水訴訟の梅山究(ふかし)原告団長(六八)は言う。一審判決は来夏の見通しだが、裁判は長期化も予想される。
●松倉・白老トマム 時のアセス、中止可能に
 「中間段階の判断を本当に表に出すのか」
 「知事の判断のあとでいいではないか」
 「それでは公開する意味が薄れてしまう」
 北海道庁三階の会議室。大テーブルを挟んで激しい議論が交わされた。一九九八年四月、停滞している事業を見直す「時のアセスメント」を初めて使う検討チームが、情報公開の判断を迫られていた。
 再評価のまな板に載った公共事業には、八〇年代後半のバブル経済を背景にした大規模ダム群もあった。約一時間の議論の末、チームは「途中段階をすべて即時にオープンにする」ことにした。
 
 時のアセスは九七年、道が発案して導入した。公共事業の計画が時代に合わなくなっていないかを時々見直す意味で、「踊り場方式」とも呼ばれた。役所自らの「止める手法」と、全国が注目した。
 役人は前任者の判断を踏襲する。一度決まったことを覆すのは容易ではない。ダムなどの事業は、時代が変わって環境などの疑問が突き付けられても、「すでに決定済み」と片付けてしまうことが多かった。
 「長期間の停滞」という客観的な物差しを導入したことで、時のアセスは「見直し」に対する役人の心理的なハードルを下げた。行政は間違わないとする「神話」から解放した。道は時のアセスを使い、函館市の水の確保や治水を目的にする「松倉」、リゾート地の水を確保する「トマム」、室蘭市への工業用水を供給する「白老」の三つのダムの中止を決めた。ダム以外も含めると、中止や凍結は九事業のうちの八事業に上った。
 時のアセスが成功した秘けつは、担当部自身に基本的な見直し作業を担わせたこともあったが、何といっても検討経過をすべて公開した点にある。
 道幹部は「公開することで水面下の圧力が防げる。根拠が明確なら公開を恐れる理由はない」と話す。担当部が自分の事業を厳しく見直せるのか、という庁外の懸念に、道は「情報公開で我田引水的な結論は防げる」と反論した。
《都道府県と政令指定都市の水需要見直し》
 (注)▼は従来計画より需要減、△は増を見込む、カッコは見直し時期。○は見直し中か予定。×は見直しなし。――は未策定。工水は工業用水、上水は水道用水
 
都道府県
北海道 工水▼上水△(98年3月)
青森 ×
岩手 工水▼上水▼(96年3月)
宮城
秋田 工水△上水△(97年3月)
山形 工水▼上水△(95年3月)
福島
茨城 工水△上水△(97年3月)
栃木
群馬
埼玉 ――
千葉
東京
神奈川 上水▼(97年1月)
新潟 工水▼上水▼(96年3月)
富山 工水▼上水△(97年9月)
石川 ――
福井 工水▼上水△(98年5月)
山梨
長野 ――
岐阜
静岡 ――
愛知 工水▼上水△(98年3月)
三重 ×
滋賀 ――
京都 ――
大阪
兵庫 工水▼上水▼(97年3月)
奈良
和歌山 工水▼上水▼(98年3月)
鳥取 ――
島根 ×
岡山 工水▼上水▼(96年4月)
広島
山口 工水△上水▼(98年2月)
徳島 ――
香川 工水▼上水△(97年5月)
愛媛
高知 ――
福岡
佐賀 ×
長崎 工水▼上水▼(97年3月)
熊本
大分 ――
宮崎 ――
鹿児島 ×
沖縄 ――
 
政令指定市
札幌
仙台 上水▼(99年3月)
千葉
横浜
川崎
名古屋 工水▼上水▼(95年12月)
京都 上水△(98年12月)
大阪
神戸 ×
広島
北九州 上水▼(98年12月)
福岡 上水△(96年8月)
 
 
 
 
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