日本財団 図書館

共通ヘッダを読みとばす


Top > 社会科学 > 政治 > 成果物情報

私はこう考える【ダム建設について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1996/12/17 朝日新聞朝刊
行革は断念から始めよ ダムはムダ(税の悲鳴 浪費列島を行く:1)
 
 県境の国道トンネルを抜けると「ダム絶対反対」の黄色い旗が風に揺れていた。その数は三千本にもなる。
 四国山地の懐、徳島県木頭村(きとうそん)。人口二千余の小さな村が、国に巨大ダムを全面見直しさせた震源地になった。
 「ダム絶対反対」の垂れ幕が下がる役場で、藤田恵村長(五七)はいった。「ダムを反対に読めばムダだ」
 
 杉とユズが特産の村に、細川内(ほそごうち)ダム建設が持ち上がったのは一九六八年だった。「百年に一回の洪水に備え、飲料水や工業用水の供給」(建設省)を目的に、村のほぼ中央を流れる那賀川に、千百億円を投じて高さ百メートルを超すダムを建設する計画だ。
 ばく大な公費の投入で建設業は潤い、村にも多額の補助金が落ちるだろう。しかし、完成すれば、三十世帯、約百人の家が水に沈む。「過疎の集落がダムで二分されて、村がつぶれる」(藤田村長)。村議会は七六年を最初に十回の反対決議を繰り返し、「推進派」の村議に対するリコール運動が三回も起きた。
 村役場の二階に九三年五月、「ダム対策室」が置かれた。ダム阻止を仕事にする。職員二人が国会議員七人を含む全国の支援者に「NO(ノー)ダム木頭」と題した広報紙を送り、ダムの情報を収集する。
 財政を補助金に頼る村が国に反対し続けるのは大変だ。ダム建設で国に同調する徳島県は、県単独補助事業の林道工事の予算を九四年、九五年度と続けて前年度比で半分に削減した。公共事業が急に大削減されるのは異例だ。県は「事業の緊急性、重要性で判断した」と説明するが、村は「ダム反対を翻意させるための兵糧攻めだ」と受け止めている。
 
 会計検査院は昨年暮れ、細川内ダムなど全国六カ所のダムや河口堰(ぜき)建設が、地元の反対や用地買収で難航し、二十年から三十年近く経過しても着工できずに調査費約八百五十億円が無駄になっている、と指摘した。
 細川内ダムにはまず航空写真や測量のため、四十三億円の調査費がつぎ込まれた。九三年度からは四年連続して四億円の建設費がつき、建設省は来年度も四億円を要求している。村の年間予算二十五億円の二倍を超す国税が、ダム計画に消えたことになる。
 藤田村長はいう。
 「全国のダム建設地を視察したが、村が発展したところはほとんどない。なぜ、無批判に何千億円、何兆円もの税金が投入されてきたのか。行革というなら、まずこの村のダムを断念することから始めたらええ」
 建設省河川局の竹村公太郎開発課長は「地域の発展に役立たないダムは造らない。村長が絶対反対というのは、絶対的な重みがある」としながらも、「いつまで説得を続けるか、いつ見切るか、コメントできない」という。
 
 ダム予定地になったために、村ごと日本地図から消えたところがある。岐阜県の旧徳山村だ。
 「村の葬式だと思って撮っています」と増山たづ子さん(七九)は、夢中でカメラのシャッターを押した。山々は白く雪化粧していた。約五百世帯が県内数カ所に集団移転し、九年前に廃村になった。「(戦死した)父ちゃんがもし帰ってきた時、故郷がなくなっていたらどう思うだろう」とダムに沈む村の風景を撮り残している。約二十年で、写真は五万枚を超えた。
 約四十年前に構想が浮上した徳山ダムは、高さ百六十一メートル、長さ四百四十メートル。貯水量は東京ドームの約五百三十杯分になる予定だ。これまでに総事業費の半分を超す千四百億円が投じられている。
 しかし、用地買収が難航して、本格着工の見通しが立たずに、ここも「見直し」の対象になった。
 最大の利水者の名古屋市が先月のダム審で、水利権の半分を返上すると表明した。計画通り取水すると、完成後二十三年間は毎年二十六億円を国に払わなければならず、「水道事業会計を圧迫する」という理由からだ。建設省は来年度だった完成予定を二〇〇二年度に延ばしたが、それすら厳しい状況だ。
 集団移転して十年になる元村議(七二)は怒りを込めていう。「反対と賛成で村は真っ二つに割れたが、下流の都会の人が喜ぶと思って村を出た。いらないダムを何で計画したのだろうか。今さら、もう遅い」。増山さんは「いらないダムなら、せめて国立公園にして、村の四季やせせらぎを残して欲しい」といった。
 
 大分県の大野川流域に計画されている矢田ダムも、地元の反対で二十五年も着工できないでいる。すでに三十五億円を超す税金が投入されている。当初三百七十五億円だった事業費は、物価上昇などでいまは七百億円と見積もられている。
 建設省の現場事務所長は「ここも見直しになるかもしれない」とあきらめ顔だった。「企業も工業用水のリサイクルを進めており、ダム建設の緊急度は薄れている。私たちも長年泥沼に入った状態で、ここに居づらく、肩身が狭い」
 
 「泥沼」に投じられた巨額の経費は、私たちの税金なのだ。しかし、ここに紹介した三つのダムに、建設省は来年度も予算を要求している。だれのため、何のための工事なのか。行革を求める合唱の中で、国の予算編成が間近い。浪費の果ての「税の悲鳴」が、列島のあちこちで聞こえる。
 
 
 
 
※ この記事は、著者と発行元の許諾を得て転載したものです。著者と発行元に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど、著者と発行元の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。








サイトに関するご意見・ご質問・お問合せ   サイトマップ   個人情報保護

日本財団会長笹川陽平ブログはこちら



ランキング
注目度とは?
成果物アクセスランキング
220位
(28,647成果物中)

成果物アクセス数
45,760

集計期間:成果物公開〜現在
更新日: 2017年3月25日

関連する他の成果物

1.私はこう考える【北朝鮮について】
2.私はこう考える【中国について】
3.私はこう考える【死刑廃止について】
4.私はこう考える【公営競技・ギャンブル】
5.私はこう考える【天皇制について】
6.私はこう考える【国連について】
7.私はこう考える【自衛隊について】
8.私はこう考える【憲法改正について】
9.私はこう考える【教育問題について】
10.私はこう考える【イラク戦争について】
  [ 同じカテゴリの成果物 ]


アンケートにご協力
御願いします

この成果物は
お役に立ちましたか?


とても役に立った
まあまあ
普通
いまいち
全く役に立たなかった


この成果物をどのような
目的でご覧になりましたか?


レポート等の作成の
参考資料として
研究の一助として
関係者として参照した
興味があったので
間違って辿り着いただけ


ご意見・ご感想

ここで入力されたご質問・資料請求には、ご回答できません。






その他・お問い合わせ
ご質問は こちら から