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私はこう考える【ダム建設について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1996/03/28 朝日新聞朝刊
ダムの災いを見つめよ 「地球人の世紀へ」(社説)
 
 開発と環境をテーマに新潟大学博士課程に学ぶ中国人留学生の胡イ^テイ^さん(三三)。ときに浜に立つ彼女は、日本海の波の向こうの母国に思いをはせる。
 中国第一の大河・長江(揚子江)の中流では、世界最大級の「三峡ダム」が二〇〇九年を目標に造られつつある。幅二キロ、高さ百八十五メートル。治水、発電、灌漑(かんがい)などが目的だが、環境への影響を考えると、その得失は微妙だ。「自然は元に戻せないから」と胡さんは言う。
 三峡を船で下ると、奇岩が両岸に迫り、がけには古代の道が通る。白帝城が山頂にかすむ。『三国志』の舞台でもある。ダムは、上流六百キロをのみ込み、百万人を超す住民をこの景勝地から追いたてる。
 貴重なカワイルカ、チョウザメは生存を脅かされる。水が汚され、上流から運ばれる大量の土砂が積もるおそれもある。一九六〇年に完成した黄河の三門峡ダムは、数年で埋まり、大規模な改修を余儀なくされた。ゆくゆく埋まってしまえば、なんの役にも立たない。残されるのは、荒れはてた自然だけである。
 胡さんは、中国からカナダに渡った戴晴さんが著した『長江、長江』を邦訳し、近く出版する。そこに三峡ダムの問題点を読んで、胡さんの模索は続く。中国の人々の暮らしを真に豊かにする道は何か。
○淡水魚種が危ない
 世界最長のナイル川上流に、アスワンハイダムが完成したのは一九七〇年だった。それはエジプト近代化の原動力だったが、環境を激変させた半面を見逃せない。
 下流の古代遺跡は、壁が白い粒で染まっている。なめると、しょっぱい。洪水で土地が洗われなくなった結果、地下から塩が噴き出しているのだ。塩害で放棄された農地も少なくない。
 ダムは、上流に上るサケの産卵を阻み、河口に土砂を運ばないことで魚のえさ場を細らせる。『世界の資源と環境』(米国の世界資源研究所編)によると、水の汚染も加わって、地球の川や湖にすむ淡水の魚種は、五分の一が絶滅したか、危機にひんしている。インドでは、トラやゾウが生息地を奪われている。
 広大な森林を水の底に沈め、人々を追いやるのが前提だ。新潟大の鷲見(すみ)一夫教授が調べた世界二十四のダムだけでも、百九十二万人が移住させられた。
 世界資源研究所によると、世界の取水量はグラフの通りだ。その多くをダムが支える。その数、三万六千を下らない。
 たしかに、ダムに依存しなければならない現実はある。先週、発表された「国連の水報告」では、二〇一〇年までに各地で水不足が起き、水戦争も心配されると予想している。実際、中東のヨルダン川やユーフラテス川では国際摩擦も生じている。
 一方で、地球温暖化対策として、石炭や石油に代わって、二酸化炭素を出さない水力発電への期待もある。
○自然と共生しつつ
 そもそも、巨大ダムの歩みは、一九二九年の金融恐慌後に米国が打ち出したニューディール政策が草分けだ。それが、いまや発展途上国にまで広がっている。
 しかし、いっときの利便や発展とひきかえに、大きな災いを地球環境にもたらしてはいないだろうか。最近になって、長い目でみると、ダムは恵みよりも災いの方が大きいことを示すデータが積み重ねられ、流れが変わる兆しが出てきた。
 米国カリフォルニア州は豊富な水を使うことで栄えてきた。しかし、一昨年に作った二〇二〇年目標の水計画では、水の再利用や節水を前面に掲げた。ロサンゼルスは近年の渇水を契機に、節水型のトイレやシャワーに奨励金を出し、水をたくさん使う家庭は水道料金を高くした。すると上水道使用量は四半世紀前の水準に落ちた。
 ワシントン州オリンピック半島のエルワー川では、もう一度、サケが上ってくる流れを取り戻そうと、古いダムを取り壊す計画が進められている。
 ブラジルでは、蛍光灯に反射板を取り付けるなどの節電計画で、中規模の水力発電ダム一つ分を浮かしている。
 名古屋に「雨水利用を進める会」ができたのは、昨年夏だった。臼井章二会長は隣家の雨水まで集め、もう十八年、水道を一滴も使っていない。会員は百六十人にのぼっている。
 国連報告は、発展途上国の飲料水の半分が水道管の漏れなどで失われていると指摘する。水の供給と同時に、管理、節約が必要としている点に注目したい。
 英国のジャーナリスト、フレッド・ピアス氏は近刊『ダムはムダ』の中で、「古代の知恵に学べ」と説いている。
 イランでは、山の中腹にモグラの穴のようにトンネルを掘り、そこからわき水を引いていた。その水は今世紀半ばまで、国内使用量の四分の三に達していた。中国の新疆地方にも、同じようなトンネルが千カ所以上あり、水供給の三分の一を賄う。
 くみ取るべきは、自然と共生しながら水を利用してゆくことではないか。
○文明のシンボルか
 途上国を資金面から後押ししてきた世界銀行が変わったのは、インドのナルマダ川のダム建設について、九三年に融資を打ち切ったころからだろう。世銀も環境的視点を強く打ち出すようになってきた。
 先進国が援助という形でダム建設を促してきた面も否定できない。代替案を含め、その国に合う方法は何か、問い直す必要がある。途上国への援助額世界一の日本はその役割を負うている。中国に対しても、エネルギー効率の改善にもっと技術的な支援をすべきだろう。
 「ダムは造らないことを原則にしたい。どうしてもほかに方法がない時に、初めて造る緊急避難的な扱いと考えた方がいい」と岡本雅美・日本大学教授。この二十九日、熊本市で開かれる日本環境会議で、「ダムと民主主義」と題して講演する。
 日本には二千五百以上のダムがある。さらに五百以上の計画がある。それらの功罪を綿密に検証する必要がある。同じ水力発電でも、自然と共存できる小規模発電や揚水発電の可能性を探るべきだ。
 ダムが国家威信をかけた文明のシンボルだった時代にそろそろ終止符を打とう。
●世界の年間取水量(単位は億トン)
◇アジア 1兆5,310
 日本 910
 インド 3,800
 中国 4,600
◇北・中米 6,970
 米国 4,670
◇欧州 3,590
◇旧ソ連 3,580
◇アフリカ 1,440
◇南米 1,330
◇オセアニア 230
 
 
 
 
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