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私はこう考える【ダム建設について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1996/02/16 朝日新聞朝刊
環境(教訓は生かされるか 徳山ダムと矢作川河口堰:下)【名古屋】
 
 徳山ダム、矢作川河口堰(ぜき)の審議委員会では環境面も論議される。しかし、両委員会とも、開発促進の地元自治体が主要メンバーを占め、環境の専門家はほとんどいない。
 矢作川の初会合ではほとんど質問も出ず、建設省の説明の聞きっぱなしに終わった。「こんな素人同然の構成メンバーで、まともな議論ができるのか」と疑問視する委員もいる。
■漁民はカヤの外に
 二つの事業計画で、環境調査のデータはどう扱われてきたか。
 矢作川は、生活・産業排水で汚染され、それが三河湾の赤潮の一因にもなっている。下流に堰を造り、流れがよどめばどうなるか。
 建設省は一九八〇年に学者を集めて二つの委員会をつくり、川と海の生物や植物、水質にどんな影響を与えるかを検討し、報告書をまとめた。だが、事業計画のじゃまになると判断されたのか公にされず、建設省豊橋工事事務所の書庫に眠ったままだ。
 ただ、八六年に『事業計画と環境影響調査のあらまし』と題した十七ページのPR用パンフレットが関係者に配られている。
 パンフは、具体的データを伏せながらも、「プランクトンが大量発生し、水質が悪化する可能性がある」「ノリ漁場での適切な保全策は困難」「ヤマトシジミやアサリの稚貝に対する影響が考えられる」「(干潟が消滅し)シギ、チドリが他の干潟に移動する」と書くなど、自然環境に与える影響の深刻さの片りんをうかがわせている。
 豊橋工事事務所は、いま河口近くに小さな干潟を造り、アサリの稚貝をまいて生育状況を調べている。消滅する河口の干潟の代替地にしようというのだ。が、「自然条件も面積も違う。うまくいくのか」と専門家は首をかしげる。
 中部地建は「審議会の中で、おいおいデータを出していく」と言うが、直接被害を受ける肝心の漁民は、審議会のカヤの外だ。矢作川流域の自治体と農業・漁業団体でつくる矢作川沿岸水質保全対策協議会の内藤連三事務局長は、「漁民にまず説明する必要がありはしないか」という。
■評価はたった11行
 徳山ダムについては、水資源開発公団と中部電力が十年以上前にそれぞれ作成した二つの報告書がある。担当者は「今からみれば、不満足な点があるかもしれないが、その当時はしっかり調査し、報告書も地元に公表した」と胸を張る。
 しかし、中部電力がコンサルタント会社に作らせた報告書の総合評価の記載はたった十一行で、「環境への影響は軽微」と片付けている。しかも、「報告書のコピーは禁止」。これで誤りがないか、検証できるのだろうか。
 公団が、学者らに依頼して作った「揖斐川上流域生物相調査報告書」(八一年)は、ダム建設を前提としながらも、動植物、昆虫などが貴重な生態系をつくり、特に渓谷林や岩壁植物が危機にひんすると指摘している。
 調査した委員の一人は、「当時は真剣に調べたが、今から見ると不十分な面も多い。報告書だけを頼りに事業を進めていいものだろうか疑問だ。はたして今、ダムを造る必要性があるのかという根本的な問題が検討されるべきではないか」という。
○発電所構想断念―長野 学者、県に妥協せず
 審議委員会に今後提出される報告書は、事実が反映されているだろうか。
 長野県は昨年暮れ、大町市に、篭川(かごがわ)発電所の建設計画を凍結すると伝えた。構想浮上から十年後、事実上の断念だ。県は「電気料金が下がって採算がとれなくなったから」(企業局)と説明する。実は、県の依頼で環境調査した学者らが凍結に大きな役割を果たしていた。
■「うそは書けない」
 計画では、ダムは、取水量毎秒最大四トン、年間発電量約四千九百万キロワットをめざしていた。
 学者らが調べると、まず計画の基本となる流域面積が建設省の値と食い違い、川の流量の減少で、生態系が大打撃を受けることがわかった。それを報告書にまとめたが、県は「これでは困る」。書き直しを命じたが、委員たちは「『環境への影響は軽微』というようなうそは書けない」と抵抗した。事務局役のコンサルタント会社が県の説得に努めたこともあり、原案に近い報告がまとまった。
 「篭川発電計画減水に伴う環境影響調査」(九〇年)というマル秘報告書を見ると、例えば「川で発電取水すれば、イワナの生育に悪影響の出ることは明らかである」「取水により立地の乾燥化と土壌の貧栄養化でヤナギ、ハンノキ群落が衰退、アカマツなどが侵入し、植生への影響が大きい」などと厳しい言葉が並んでいる。
 手続き的には、それを国の審議会に出し、計画が正式に認められる。県は、前もって環境庁に示し、了解を求めた。ところが、同庁は「この通りなら環境保全はできず、計画は認められない」と突っぱねた。
 あわてた県は、報告書とは別に「環境影響検討書」を作り、県解釈を並べた。
 「魚類の減少については川水を利用する水力発電の宿命で(イワナの)生息に対する影響は少ない」「植生への影響は少ない」。そして、「国内資源の有効活用と電力安定供給への寄与等を考慮すると、本計画の実施は妥当であると考えられる」と結んだ。
■地元同意得られず
 県は「学者は調査と評価までで、対策は事業者の問題」と説明する。しかし、県に都合の悪いデータの存在を知った漁民らが反発、地元同意は得られないままだった。もし学者たちが県に妥協した報告書を作っていれば、とっくに工事が始まっていたはずだ。
 委員の一人は「コンサルタント会社の理解も得て、一緒に頑張ったからまともな報告書ができた。今のアセス制度での環境調査は、都合の悪いデータがあっても事業者が嫌って報告書に記載しないなど問題だらけだ」と話す。
○淡水化計画中止―青森 需要薄れツケ嫌う
 長良川河口堰問題を契機に、建設省は環境保全にずいぶん積極的になった。
 しかし、長良川河口堰の円卓会議では、環境調査や保全策の評価はしても、その必要性にまで踏み込んで議論はしなかった。
 ところが、今回始まった審議委員会の先陣を切り、青森県の小川原湖の淡水化計画が約二十年ぶりに中止されることになった。十一月の二回目の審議会で、淡水化事業の見直しがあっけなく打ち出された。需要もないのに巨額の事業費のツケがかかるのを嫌った自治体と建設省が、事前に水面下で話し合っていた。
■官僚が想定問答集
 一九六九年の新全国総合開発計画を踏まえ、七七年「むつ小川原開発第二次総合開発計画」が閣議決定された。五千ヘクタールの用地に工場を誘致して河口堰で湖を淡水化し、日量六十万トンの水量を開発する計画は、オイルショック後、誘致の挫折でとっくに破産していた。
 しかし官僚たちは、つい最近まで、事業に執念を見せていた。建設省東北地方建設局が九〇年に作成した想定問答集がある。
 「河口堰建設の必要性が現在の社会情勢に適合していると考えますか」との問いに、「基本計画書からだけでは社会情勢に適合していることはうたえない。四全総等をもとに新たに必要性の論理構築が必要」。
 また、「(開発計画が狂ったのに)計画通りの水開発が必要なのか」という問いには、「他の水資源開発が期待できないことを強調し、この計画で半永久的な水資源量を確保しなければならないことを訴える。場合によっては開発事業を離れた二十一世紀半ばあたりを目標とした需要予測であってもよい」。
 官僚たちが外向けの理屈づけに頭を痛めていた様子がよくわかる。
 
 徳山ダムと矢作川河口堰計画が、環境にとどまらず社会、経済、財政面など多角的な面から検討されるのか。自治体は、なお「水資源開発が必要」と言い続けるのか。中央官庁や自治体は、本当に変わろうとしているのか。審議会はそれらを測るバロメーターでもある。
(杉本裕明)
 
 
 
 
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