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私はこう考える【ダム建設について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1996/02/14 朝日新聞朝刊
波紋(教訓は生かされるか 徳山ダムと矢作川河口堰:上)【名古屋】
 
 徳山ダム=岐阜県藤橋村=と矢作川河口堰(ぜき)=愛知県碧南・西尾市境=の両事業について再検討するため、建設省が昨年十二月に発足させた審議委員会が動き出している。ともに計画から二十年余を経ているが、本体は未着工。社会情勢が大きく変わった今、なお続けるべきかどうか、その吟味は始まったばかり。公共事業のあり方を問うた「長良川河口堰の教訓」は生かせるだろうか。
 大垣市本町の学習塾で今月四日、十五人の男女が子ども用の小さな机に身をかがめていた。「徳山ダム建設中止を求める会」の初会合である。
 代表は、日本野鳥の会西濃支部顧問の上田武夫さん(六五)。オオタカやクマタカ生息地の環境破壊が気になっていたが、ダムを受け入れた旧村民のことを考え、これまで運動には二の足を踏んでいた。しかし、再検討の委員会設置を知り、動き出した。昨年末から始めた反対署名は五百二十人を超えている。
 長良川河口堰建設差し止め訴訟原告で、岐阜市に住む村瀬惣一さん(七三)も顔を見せた。「利水面でダムは必要ないし、治水対策も堤防補強で考えるべきだ」とぶった。「河口堰建設をやめさせる市民会議」代表の天野礼子さんも署名呼びかけ人に加わっている。
 四十年近い徳山ダム問題で、市民グループの誕生は初めて。矢作川河口堰でも沈静化していた反対運動が委員会をきっかけに再燃しようとしている。
●「事業中止」文言も
 野坂浩賢建設相(当時)が、計画から長期間たったダムや堰事業の再検討システムについて指示したのは昨年五月。長良川河口堰について、「これ以上、先延ばしはできん」と運用を決め、非難を浴びた直後のことだった。
 「もっと早く地元で話し合っていれば、ほかの決着もあったのに」。「河口堰を取り壊すには四百二十五億円かかる」と官僚から耳打ちされ、選択の余地は少なかった。その無念の思いから、委員会の検討対象に『事業中止』の文言もねじこませた。「長良川で『野坂に泥をかぶらせた』という役人の思いを逆手にとった」のだという。
 「今ごろになって再検討と言われても困る」(愛知県水資源対策室)と、建設省は自治体から総スカンを食った。だが、委員会対象の十一事業は、反対運動などで頓挫(とんざ)しているものが多い。これで調整が進むなら、マイナスではない。
 青森県では、委員会の提言で、小川原湖淡水化事業の凍結を打ち出した。
●聞き役に回る委員
 朝日新聞社は一月、矢作川河口堰の委員を含め、延べ三十二人にアンケートし、三十一人から回答を得た。
 長良川河口堰の紛糾の原因として、十人が「事業の透明性(不足)」をあげ、今回の委員会設置を前向きに評価している。「治水」を根拠にした建設促進論が多いが、「官主導の計画行政のあり方を問いたい」(真継隆・名大教授)と意欲を燃やす委員もいる。
 徳山ダムの委員長、館正知岐阜大名誉教授は「『国がやっていることだから黙れ』という姿勢でなくなったのはよかった」と話す。河川行政について建設省が公開で地域の声を聞き、調整するのは初めてだ。
 もっとも、これまで開かれた委員会(徳山二回、矢作川一回)では、もっぱら委員は聞き役。中部地建や水資源開発公団が分厚い資料を持ち込み、事業の経過や必要性を説く。質問がわずかに出るものの、事業の是非は論じない。「産業界は渇水で大打撃を受けた。ぜひダムを」と、経済人の委員がいきなり必要論をぶったくらい。
●自治体関係者6割
 徳山は三県が、矢作川は愛知県が委員を人選した。いずれも知事が委員に名を連ね、全体の六割は自治体関係者。県や名古屋市はこれまで事業費負担にも同意しており、軌道修正は簡単ではない。
 「これまで『造ってほしい』と頼んできた。よその自治体との共同事業でもある。審議の推移や、内部検討を経て発言したい」(名古屋市)と慎重姿勢だ。
 徳山の委員会は今後、公聴会や専門部会設置も検討中だ。両委員会とも、九七年度予算の概算要求をする八月ごろをめどに「議論の方向を出す」という。
(社会部・伊藤智章)
<事業経過>
 徳山ダムは国が1976年に事業認可し、水資源開発公団が開発中。用地買収が遅れ、本体は未着工。総事業費2540億円(85年価格)のうち、約1300億円を準備工事に投じた。治水、利水、発電が目的。
 矢作川河口堰は77年に基本計画ができたが、漁協の同意が得られず、事業費900億円(推定)のうち、堤防工事などに約200億円を投じただけ。治水と利水が目的だ。
○審議委員へのアンケート
 (1)事業の必要性として何を主張するか(2)事業の問題点として何を論議したいか(3)長良川河口堰事業がもめたのはなぜか(4)その他=カッコ内は役職
【徳山ダム建設事業審議委員会】
阿部昌弘
(中経連常務)
(1)治水・利水両面で生活基盤づくりのため必要
(2)問題があれば議論したい
大迫輝通
(岐阜経済大教授)
(1)治水
(2)治水上の効果、事業経過を知りたい
(3)詳細を公表して理解を求めるべきだった
(4)住民移転が完了しており審議が遅すぎた
奥野信宏
(名大教授)
無回答
河合達雄
(大垣商議所会頭)
(1)古くから水害を被っており、治水対策が急務
(2)治水。流域市町村は早期完成を期待
佐伯富樹
(三重大教授)
(1)多目的ダムだが短期的には治水
(2)事業の透明性
(3)計画、実施段階で事業透明性を優先しなかった
杉山幹夫
(岐阜新聞社長)
(1)治水と安定した水源確保
(2)(1)と同じ
(3)行政が情報公開に消極的で、市民が疑念
館正知
(岐大名誉教授)
(1)治水を急ぐように
(2)水余り論と論戦したい
(3)事業の透明性。説明不足や誤解に基づく反対もあった
三宅雅子(作家) (1)治水と利水
(2)事業の透明性
(3)環境の不安。当初、納得いく説明なし。情報がバラバラで、一般人は判断しにくかった
(4)ダム完成後も調査研究してデータ公開を
梶原拓
(岐阜県知事)
(1)治水・利水。一日も早い完成を
(2)(1)と同じ
(3)流域の当事者中心に議論されなかったため
(4)審議で事業が遅延してはならない
鈴木礼治
(愛知県知事)
(1)利水。尾張地域の水道水として必要
(2)すべて十分議論したい
(3)事業長期化のため
北川正恭
(三重県知事)
(1)多度町、桑名市の治水
(2)環境に配慮し、事業目的について議論したい
(3)治水・利水・環境。議論を尽くす努力をした
小倉満
(大垣市長)
(1)治水。水害防止のため
(2)治水。早期完成を
島中敏朗
(藤橋村長)
(1)治水・利水・発電。備えあれば憂いなし
(2)(1)と同じ
(3)反対理由は理解しにくく答えられず
(4)関係25市町村が自ら判断すべきだ。ダムの自然破壊は流域外に及ばない
西尾武喜
(名古屋市長)
(1)水源確保と渇水対策
(2)事業内容などの検討
(3)慎重な調査と議論が行われた
鵜飼一郎
(春日井市長)
(1)水道水の安定供給のため
(2)環境への配慮
(3)関係住民に対して堰必要性の説明が不足
服部治行
(桑名市助役)
(1)治水
(2)環境に配慮した取り組み。漁業との共生
(3)環境。事業進ちょく後、反対論がわき起こった
坂志郎
(岐阜県議長)
(1)治水。必要不可欠
(2)治水。審議で遅延はだめ
(3)地元以外の反対意見が大きく取り上げられた
(4)昨年10月、県議会で事業推進意見書を採択
松永清蔵
(岐阜県議)
(1)治水。生命財産の保護
(2)(1)と同じ
(3)治水。環境問題に不安残すと考える
山本和明
(愛知県議長)
(1)利水。尾張の水道水
(2)すべて
(3)事業が長期化したため
岩名秀樹
(三重県議長)
(1)治水
(2)治水工事をする時に、環境保全が必要
(3)利水・環境
(4)超長期計画は当然。環境との共存を大切に
高畑正
(大垣市議長)
(1)治水
(2)自然環境破壊をクリアできるか
(3)環境。設置者と環境団体との意見の相違
(4)公平な報道を
中島三郎
(藤橋村議長)
(1)治水・利水。旧村民の心情も考えるべきだ
(2)(1)と同じ
(3)サツキマス、シジミ漁の不安
(4)ダムが解決しないと村の施政方針が立てにくい
【矢作川河口堰建設事業審議委員会】
青山光子
(名市大名誉教授)
(2)環境を中心に総合的に考えたい
(3)環境、事業の透明性不足
(4)今回の試みの意義は大きく委員の責任は重い
井関弘太郎
(名大名誉教授)
(1)全体
(2)河川のあり方を考えるため事業の透明性
(3)当初から今日ほど事業の透明性に意を注げば
木下喜揚
(中経連専務)
(1)治水・利水。生活基盤づくりのため必要
(2)説明をよく聞き、問題があれば論議したい
真継隆
(名大教授)
(1)愛知県で恒常化している渇水対策のため
(2)官主導の計画行政のあり方を問いたい
(3)事業の必要性を再検討すべきだった
鈴木礼治
(愛知県知事)
(1)治水、将来の水確保
(2)すべて
(3)事業長期化
小林淳三
(碧南市長)
(1)治水、利水
(2)治水・利水・環境
(3)事業の透明性。必要性が理解されていなかった
本田忠彦
(西尾市長)
(1)治水。生活を守るため必要
(2)長良川河口堰を教訓に環境調査し、効果的な利水計画見直し
(3)環境。住民、利害関係人、自然保護団体などとの調整がまずかった
山本和明
(愛知県議長)
(1)治水、将来の水確保、三河湾の水質保全の必要
(2)すべて
(3)事業が長期化したため
平松健策
(碧南市議長)
(1)治水・利水
(2)治水・利水・環境
(3)必要性が理解されていなかった
近藤昇
(西尾市議長)
(1)治水・利水
(2)利水。水確保は一人ひとりの責任
(3)環境。生態系変化は周辺住民の生活にかかわる問題だが、コンセンサス努力が不十分だった
 
 
 
 
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