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私はこう考える【ダム建設について】

 事業名 組織運営と事業開発に関する調査研究
 団体名 日本財団(The Nippon Foundation  


1994/06/29 朝日新聞朝刊
反対運動高まる 川辺川ダム・土地改良事業(らいとあっぷ)【西部】
 
 九州山地の中央にある熊本県五木村の中心部を水没させる川辺川ダムの本体工事着工が、来年度に迫った。建設省の計画発表からすでに二十八年。だが、ここにきて下流の人吉市の住民を中心に、環境破壊の面からダム再考を求める運動が起きて、来月末には同市で全国集会が開かれる。また、ダムに連動した国営川辺川総合土地改良事業に同意していた農家が、同意書の取り消しを求めている。
(社会部・野上隆生)
○既存水利権や負担金が心配
 川辺川が球磨川と合流する相良村柳瀬。田植えを終えた水田が広がる。居合わせた二人の農民が口々に言った。「このとおり、水は今でも十分足りとる」「絶対にハンコは押さん」。国が進める川辺川土地改良事業を受け入れるつもりはないという。
 六月に入って相良村を中心に、いったんはこの事業に同意していた農家約百四十戸が、「行政側の不十分な説明」を理由に同意取り消しの通告書を九州農政局に持ち込んだ。取り消しを求める農家はその後増えて約二百戸に達している。
 二つの川に挟まれた一帯は高原(たかんばる)台地と呼ばれ、河川よりかなり高い。ここで稲作ができるのは、上流から水を引いているからだ。戦時中、飛行場があったことから「飛行場用水路」と呼ばれる。延長十キロ。一九四一年に完成し、戦後の県営開拓事業で本格的に改修された。
 農家が土地改良事業に反対する最大の理由は、負担金だ。当初計画では、「水田は十アール当たり年間二万一千円」「畑は五千円」を十五年間払い続けることになっていた。
 コメの部分開放が現実のものとなり、これまで「土地改良は国や役場のすること」と思っていた農家の間に急速に不満が広がった。今年一月には、柳瀬地区の農家二十戸を中心に「川辺川利水を考える会」が発足した。
 こうした不満を背景に、今年二月の計画見直しで、農家負担分は県と、これまで負担なしだった市町村ですべて肩代わりすることになった。関係自治体でつくる川辺川総合土地改良事業組合長の高岡隆盛・相良村村長は「これだけ農家負担を軽減する所は、どこもない。感謝されてもいいぐらいだ」と言う。
 これに対して、以前は事業推進の立場だった、考える会会長の古川十市さん(四三)は「国営だけで、水が来るわけではない。さらに県営や団体営などの土地改良事業が必要。そうなれば当然、負担金が要る。水代もいくらかかるか分からない」と反論する。
 負担金のほかに、川辺川ダムが完成した後、飛行場用水路などの既存の水利権がどうなるかも、農家にとって気がかりな問題だ。
 九州農政局川辺川農業水利事業所は「新規水利権とともに、新たに設立される土地改良区が配水管理をすることになる」と説明している。藤本宣彦次長は「事業に参加しない人の水利権はそのまま有効」と言うが、考える会の農家は「そのうち、水路廃止などを持ち出してくるのではないか」と警戒している。
○洪水調節機能「信頼を欠く」
 一方、ダムそのものに反対する動きも、下流で再燃し始めた。昨年八月、人吉市の住民を中心に「清流球磨川・川辺川を未来に手渡す流域郡市民の会」(約五百人)が結成された。環境問題に主眼を置いて「川辺川の清流を守ろう」と、全国に輪を広げつつある。
 事務局長の重松隆敏さん(六六)は元人吉市議。十数年前、市議会の特別委員会の一員として、全国各地のダムを回り、ダムが地域にどんな影響を及ぼすかを調査した。「貴重な観光資源の球磨川下りができなくなるのではないか」との不安からだ。
 いくつもの事例を見た結果、川辺川ダムの最大目的とされている洪水調節機能があてにできないことが分かったという。ダム下流では水質が悪化し、水量が減った所も多かった。
 だが、ダム建設を受け入れた相良村、五木村などの反発で、人吉市議会の動きは立ち消えになった。「でも今回、全国からも関心が寄せられて運動が高まっている。計画を凍結し、もう一度ダムが必要かどうかを話し合いたい」と重松さんは言う。
○水没予定地は戸惑い隠せず
 「どうしてもっと早く立ち上がってくれなかったんでしょうか。いまさらダム反対と言われても、かえって迷惑」。五木村頭地の水没予定地に暮らす女性(五五)は、こう言った。
 かつて村挙げての反対運動は、条件付き賛成派と絶対反対派に分裂した。条件派二団体は一九八一年に妥結。計画取り消しの裁判闘争を続けた「五木村水没者地権者協議会」も、八四年に福岡高裁で和解したが、後には村民の間にしこりが残った。
 相良村のダムサイト予定地や五木村では、国道のつけ替え工事、代替地の造成工事などが始まっている。水没する五木村の四百九十三世帯のうち約三百二十世帯が村を出た。六〇年に六千人を超えた村人口は二千人を割った。水没予定地には、なお百五十世帯が残っている。河川予定地に指定されており、家を改築したくても建設省の制限を受ける不便な生活が二十二年も続いている。
 村議会事務局長の兼田昭治さんも、移転先が決まらない。「移転を終えて初めて、生活再建のスタートラインにつける。そのめどが立たないのは、精神的につらい。でも、それに耐えなければ、五木に住み続けられない」と話す。
 最近、人吉市の郡市民の会メンバーが時折、村を訪れる。その一人、原豊典さん(四九)は「子守唄(うた)の故郷として、五木村を知らない人はいない。国民的な価値を守るためにも、ダムに頼らない村づくりを共に考えたい」と話している。
<川辺川ダム>
 熊本県相良村四浦の川辺川に建設されるアーチ式の多目的ダム。総貯水量一億三千三百万立方メートルで、九州では五番目の規模。洪水調節や農地かんがいのほか、発電も目的にしている。六六年七月、建設省が計画を発表。七三年完成予定だったが大幅に遅れ、現在は二〇〇〇年完成を目指す。総事業費は千百三十億円。
<国営川辺川総合土地改良事業>
 川辺川下流の七市町村を対象に、農地造成や区画整理を行い、川辺川ダムからの水で田畑をかんがいする。対象面積三千五百九十ヘクタール、総事業費三百四十九億円。農地転用などで田畑が減少したため今年二月、対象面積を三千十ヘクタールに縮小する計画変更をした。かんがい排水施設の負担割合は当初、国六〇%、県二〇%、地元農家二〇%だったが、変更で国六〇%、県二八%、地元市町村一二%になった。
 
 
 
 
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