近畿の水がめとして計画されている大滝ダム(吉野郡川上村)のダムサイトの建設に向けて、吉野川をせきとめる仮締め切り工事に着手する転流式が29日、同村大滝の吉野川河川敷であった。近畿地方建設局大滝ダム工事事務所は、民家の移転交渉、山林買収がまだ残っているものの、これで本体工事の着手に弾みがつき、平成6年度完成をめざしたい、といっている。
仮締め切り工事は、ダムサイトを建設するため、吉野川の流れをう回させる。工事に伴う土砂のたい積などでアユ、アマゴの成育、漁場に影響を受ける吉野漁協(喜多村銕夫組合長、1536人)と、約15.5キロの漁場流域がダム湖に水没する川上漁協(辻弘義組合長、1197人)との漁業補償交渉が合意、吉野漁協は5億8000万円で、川上漁協は13億円で妥結している。
転流式には、福田晴耕大滝ダム工事事務所長、大谷一二川上村長ら約100人が出席。大型ブルドーザーが約600立方メートルの土砂を幅3メートル、長さ20メートルにわたって川面に押し出し、吉野川の流れをせき止めた。川の流れは、右岸側に59年に貫通している全長450メートル、高さ7.5メートルの仮排水路トンネルに向きを変えた。作業員がたる舟をトンネルに流し、工事の安全を祈願した。
同事務所の説明では、ダムサイト建設地から上流150メートル地点と、下流250メートル地点に仮締め切りの堤防を造ったあと、6月中旬にもダム本体の基礎岩盤の掘削工事にかかる。また、同事務所は、水没家屋(487戸)のうち、移転交渉がまとまっていない31戸との交渉、水没する買収山林のなかで用地取得ができていない29.6ヘクタールの取得に全力を挙げる考えだ。
大谷村長は「昭和34年の伊勢湾台風の災害を教訓にダム建設が決まった。しかし、40年に建設計画が策定された後、村中心部の移転など生活補償、漁業補償が難航した。ダム本体の建設が始まるが、村を出た人、残った人を考えると複雑な気持ちだ。今後は、ダム湖の景観を生かし、観光立村を目ざし周辺整備を進め、村再生に努めたい」と話している。
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