滋賀県北部の豪雪地帯、伊香郡余呉町に建設省がつくる高時川ダムが、たっぷり酸素を含んだ雪解け水を貯水してしまい、琵琶湖の深層に酸素を供給してきた雪解け水の機能を弱めるのではないか、と琵琶湖の研究者たちが心配している。同省近畿地方建設局の実施した環境影響評価ではこの問題は検討されておらず、今後、議論になりそうだ。
琵琶湖には年間53億立方メートルの水が流入、うち融雪水は10億立方メートルと推定されている。水深約100メートルの最深部の水にも酸素が行き渡り、生物の生息やきれいな水質を維持してきた。しかし1950年代以降、湖底の溶存酸素量は減り続けており、鈴木紀雄滋賀大教授は「あと20余年で無酸素状態になる」と指摘している。
最近の共同研究(代表・吉良竜夫滋賀県琵琶湖研究所長)で、奥田節夫岡山理科大教授(地形物理学)らは、湖底水の酸素は冬季に湖水の表層と下層が混合しあい補給されるほか、雪解け水が重要な役目を担っていることを明らかにしている。
それによると、雪解け水は溶存酸素量が多い。水温は零度に近く、泥や砂の濁りを含み、早春の湖の表層水より密度が高い。3―4月に雪解け水が湖に入ると、湖底の傾斜に沿って薄い層をつくりながら深部にゆっくり流れ落ちる。底層水は水温が低下すると共に、溶存酸素濃度が上昇する。
奥田教授は「ダムに貯水するうちに酸素が消費され、水温も上がる。どの程度かは詳細に調査する必要があるが、湖底への酸素供給の面で良い影響は考えにくい。ダムの操作に工夫もいるだろう」とみている。
高時川ダムは姉川の支流・高時川の余呉町小原に建設され、ロックフィル構造、堤高145メートルの大ダムで、総貯水量は1.5億立方メートル。治水、流量の維持と淀川下流の都市用水開発が目的。昨年度から事業予算がついている。
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