1987/10/31 朝日新聞朝刊
新しい時代の水対策を(社説)
大都市の地下街や高層ビルの上の方にまで、凝った噴水施設がつくられる時代になった。水の流れを見ていると、不思議に心がなごむ。21世紀のキーワードとなっている「ゆたかさ」「うるおい」「やすらぎ感」などは、人と水との新しいかかわりあいのなかにこそ、求められるものといえるだろう。
国土庁が策定した「ウォータープラン2000」は、昭和75年(西暦2000年)を目標年次とした全国総合水資源計画で、53年度につくった長期水需給計画を全面的に改定したものだ。第4次全国総合開発計画に基づいて、水資源についての総合的な施策を進めるうえでの指針になる。
水が国土整備や地域開発の計画を立てるさい、最も重視しなければならない基本的な要素であることは、いうまでもない。ところが、諸外国に比べて、国民1人当たりの降水量が必ずしも多くないうえに、近年、少雨傾向が強まっている。今夏、首都圏は異常渇水に見舞われたが、毎年どこかで異常少雨が頻発している。このため、特に3大都市圏や瀬戸内沿岸、北九州では、長期的な渇水対策事業が必要になっている。
しかし、今回の水資源計画を、新たなダム建設のよりどころにしてはならないと思う。
計画では、目標年次までに230億トンの供給増を図るために、全国で約500カ所のダムが必要だという。このうち、約380カ所はすでに着工しているので、新たに120カ所つくる計算だ。
本当に必要なダムは、もちろんつくらねばならない。しかし、規模にもよるが、建設期間は短いもので7、8年、大きいダムだと12、3年もかかる。地元への補償費を含め、資金計画はふくらむ一方である。
水の需要は全般的に、50年代に入ると、40年代ほどには伸びなくなっている。農業用水は減反や畑地かんがいの進展などで、また工業用水は回収率の向上や産業構造の変化などで、いずれもほぼ横ばい傾向にある。
着実に伸びているのは生活用水だ。核家族化が進んだり、生活水準の向上を反映したものである。それでも、国民の間に節水意識が行き渡って、節水型水使用機器が普及したり、大都市のビルには雑用水利用の導入がはかられるようになった。各自治体で水道の漏水防止対策も進められている。今回の計画でも、75年までの生活用水の年平均伸び率は、約2%程度と小幅だ。
水需給の問題は、地域性が強い。農地面積の減少が、そのまま取水量の減少につながらぬことも確かだ。しかし、農業用水の比重は大きいだけに、西暦2000年の時点でもこれだけの量を確保する必要があるのかどうか、改めて検討し直したらどうだろう。
世の中の変化に合わせて、既得権も見直していかなければならない時代である。国、地方自治体、地域住民が納得ずくで、水利権を有効に活用する道を探ることが必要だ。
一方で、水資源の危機管理体制を充実させなければならない。四全総は、多極分散型の国づくりをめざしている。しかし、首都圏への1極集中が予想以上に進むことは当然、考えておかねばなるまい。
われわれは、すでに高度の水依存型社会に生きている。予想外の規模の水ききんなど、不測の事態が起こったときに、どう対応するかを含めて、ふだんから危機管理機能を高めておくことが、水供給の安全度を高めるのにつながる。
世の中の変化は速い。長期計画と実態のずれが明らかになれば、随時、改定して、計画に柔軟性を持たせることも必要だろう。
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