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2004.6 NO.1
運輸政策研究機構
研究調査報告書要旨
都市交通統計における新手法の開発研究
 
1. 研究の目的
 本研究は、既往の都市交通統計調査が、その体系および手法が見直しの時期にきているとの認識のもとに、特に公共交通に関する調査に着目して、ITをはじめとする新技術の活用を前提とした、より効率的で、有効性が高く、現在の調査ニーズに対応した調査体系を検討し、従来の調査に替わる「新たな都市交通統計調査」の基本方針を確立することを目的として実施したものである。
 
 本研究は、平成14年度から平成15年度の2ヵ年に渡り実施した。
 平成14年度は、既往の都市交通統計調査を比較検討するとともに、ITの普及動向を把握し、新技術を活用した調査方法の可能性を検討した。
 平成15年度は、これらの成果に加え、今後の研究課題と調査ニーズを再整理した上で、新たな調査方針を見据えつつ、新技術の活用可能性を検証し、調査体系、並びに、調査の概略仕様を策定した。
 以下に、平成15年度報告書のうち、調査課題と調査ニーズ、並びに、調査体系と調査の概略仕様に係る要旨を述べる。
 
 公共交通の現状に鑑み、(1)都市鉄道の検討課題について、最初に、1)政策課題、2)事業者からみた課題、3)利用者からみた課題の3つに区分し、次のとおり整理する。
(1)都市鉄道の検討課題
1)政策課題
(1)利便性の向上のための新線整備
(2)輸送力増強による混雑緩和
(3)都市構造・まちづくりへの支援
(4)速達性・快適性の向上等輸送サービスの高質化
(5)持続可能な輸送サービスの確保
(6)政策評価
2)事業者からみた課題
(1)自動車からの需要の転換
3)利用者からみた課題
(1)混雑緩和
(2)利便性・快適性の向上
(3)運賃の低廉化
(2)都市鉄道の検討課題に対する調査ニーズ
 これら都市鉄道の課題を検討するにあたり、求められる統計データを、課題と同様に、政策ニーズ、事業者ニーズ、利用者ニーズの3つに区分し、以下に対応させる。
1)調査ニーズ【政策】
(1)等時間移動圏域、地域別鉄道利用率、新線整備による利用経路の変化とゾーン間移動時間の変化
(2)路線別・時間帯別通過人員、路線別・時間帯別輸送力、路線別・時間帯別混雑状況、路線別・時間帯別通過人員、ピーク率、フレックスタイムの実態
(3)路線別利用者数、空港駅利用者出発地分布、空港駅アクセス時間分布、駅別乗降人員、圏域内移動時間帯分布、鉄道不便地域分布
(4)路線別・時間帯別通過人員、多ルート間比較(所要時間、乗換え回数)、ピーク時着席率、乗換え利用者数、乗換え施設整備状況、乗り継ぎ利用者数、カードシステム導入駅間流動量、乗車、運行サービス情報の提供状況
(5)総合的な鉄道利用実態、利用者の意向
(6)新線整備前後の交通流動、鉄道需要量データの提供、居住地〜通勤・通学地の特定と人数の計測
2)調査ニーズ【事業者】
(1)定期券の利用実態、利用者の意向、乗換え利用者数、乗換え時間・距離、他モード間の乗換え利用状況、利用者のサービス意識・意向
3)調査ニーズ【利用者】
(1)路線別・時間帯別通過人員、路線別・時間帯別輸送力、路線別・時間帯別混雑状況、フレックスタイム制の実態
(2)時間移動圏域の経年変化、ピーク時着席率、乗換え利用者数、乗換え施設の整備状況、乗り継ぎ利用者数、カードシステム導入駅間流動量、経年比較、エスカレータ設置状況、乗車状況、運行サービス情報の提供
(3)乗り継ぎ割引区間利用者数、他モード間乗り継ぎ流動
(3)バス交通の検討課題
 さらに、今後のバス交通の検討課題について、前項の都市鉄道と同様に3つの視点から整理する。
1)政策課題
(1)公共交通ネットワーク機能向上
(2)道路混雑の緩和策としてのバス利用転換
(3)需給調整規制撤廃後の利用者利便性の確保
(4)少子高齢化への対応
(5)フィーダー交通としての交通結節点における乗り継ぎ利便性の確保バス不便地域の解消
2)事業者からみた課題
(1)バス交通の活性化
3)利用者からみた課題
(1)利便性の向上
(2)快適性の向上
(3)運賃の低廉化
(4)バス交通の検討課題に対する調査ニーズ
 最後に、以上の課題を検討する際に求められる統計データを、前項と同様、政策ニーズ、事業者ニーズ、利用者ニーズの3つに区分して対応させ、以下に示す。
1)調査ニーズ【政策】
(1)地域別バス利用者数
(2)バス交通の優位性の内容
(3)輸送サービス実態(輸送力)
(4)高齢者のバス利用券種
(5)乗り継ぎ利用客数、乗り継ぎ施設の状況
2)調査ニーズ【事業者】
(1)バス利用者の利用実態、利用者のバス選択要因、利用券種
3)調査ニーズ【利用者】
(1)運行情報、遅延情報、運行速度、輸送力
(2)着席可能情報
(3)乗り継ぎ情報
 
 3. で整理した調査課題と調査ニーズを踏まえ、さらに技術的検証を行った後、新たな調査の基本方針を検討した。その結果、次のように考えることとした。
(1)鉄道調査の基本方針
 鉄道調査については、従来の調査方法の問題点を解消するとともに、調査精度の向上、需要喚起施策の検討に資する情報を収集する調査が必要であること考え、次のような基本方針とした。
・終日の輸送サービスの改善、需要喚起の検討に資するデータを付加する。
・調査精度の向上、調査結果の公表を迅速に進めるため、自動改札機データを活用する。
・データの取得方法に関しては、自動改札機の普及状況を考慮する。
・調査ニーズに応じた調査対象圏域とする。
(2)バス・路面電車調査の基本方針
 バス等調査については、鉄道との連携による大都市圏公共交通網としてのネットワーク形成に視点を置く。また、従来の定期券調査を廃止する一方、バス・路面電車OD調査の対象範囲を再考することなどとし、次の調査方針とする。
・利用実態や利用者の意向を把握する。
・主要な流動、調査ニーズに応じた範囲とする。
・輸送力等サービスについても把握する。
・他の交通機関との乗り継ぎ状況を把握する。
 
 以上の基本方針に従い、新たな都市交通統計調査の体系を以下のように考えた。
(1)新たな調査の体系
1)鉄道調査の構成
(1)鉄道定期券・普通券等利用者調査
(2)鉄道OD調査
(3)鉄道輸送サービス実態調査
2)バス・路面電車調査の構成
(1)バス・路面電車定期券・普通券等利用者調査
(2)バス・路面電車OD調査
(3)バス・路面電車輸送サービス実態調査
3)乗り換え施設実態調査
(1)鉄道〜鉄道への乗換施設
(2)鉄道〜バスの乗換施設
(2)新たな調査の概略仕様
 続いて、4の基本方針、並びに、5.(1)で述べた調査体系に基づき、新たな鉄道調査、バス・路面電車調査の概略仕様を次のように設計した。
1)鉄道調査の概略仕様
(1)鉄道定期券・普通券等利用者調査
 鉄道利用の質的情報と、ITを活用した量的情報を収集する。基本仕様は次のとおりとする。
・降車客を対象とし、通勤・通学目的に限らず全目的の鉄道利用実態を把握する。
・降車客を対象とすることにより、効率的なサンプル回収が期待できる。調査の実施は、平日1日に縮小する。
・定期券発売実績に加え、券種別・時間帯別降車人員数、駅間OD数等も母集団として拡大する。
・事業者への調査協力の範囲(負担量)は、前回を越えないこととする。
(2)鉄道OD調査
 駅間OD量調査についても、ITの活用を前提とし、基本内容は次のとおりとする。
・自動改札機データを用いて、券種別(定期、定期外)・時間帯別駅間OD量を把握する。
・自動改札機を配置していない事業者、自動改札機を設置していても、券種別・時間帯別OD量が集計できない場合は、従来の鉄道普通券調査を実施する。
・調査対象は、調査対象路圏域内の全駅とする。
・調査項目は、券種別・時間帯別乗降駅間移動人員とする。
・集計・分析項目は、券種別・着時間帯別駅間移動人員、券種別駅間通過人員とする。
(3)鉄道輪送サービス実態調査
 平成12年調査は、鉄道輸送力の調査にとどまっていたが、今後は、利用者が求める情報を付加することを検討する。なお、調査ニーズに応じた鉄道路線、調査時間帯区分とする。
2)バス・路面電車調査の概略仕様
(1)バス・路面電車定期券・普通券等利用者調査
 従来の定期券調査に替え、バス利用の質的情報を収集するバス・路面電車定期券・普通券等利用者調査とする。基本内容は次のとおりである。
・調査場所数は、従来の定期券発売所数を越えないこととする。
・バス系統ごとの輸送量の推計は行わず、利用者の質的情報を充実させる。
・調査方法は、主要バスターミナル等、乗降所において、バス利用者に対して調査票を配布し、記入後回収する。
・主な調査対象地域は、鉄道端末バス利用者数の上位駅を起終点とするバス系統の圏域とする。
・鉄道駅のほか、大規模なバス乗降場所についても、調査ニーズに応じて対象とする。
・調査内容は、次のとおりとする。
〔利用実態:目的、券種、出発地・目的地、出発時刻・到着時刻、利用区間、乗り継ぎの有無、乗り継ぎ時間、アクセス・イグレス手段・時間等〕
〔利用意向:選択理由、優位性、利用頻度、利用の動向、サービスヘの要望〕
(2)バス・路面電車OD調査
 バス・路面電車OD調査の仕様の概略は、調査課題、調査ニーズに鑑み以下のとおりとする。
・調査実施期間を拡大し、事業者独自で実施した結果に替えても差し支えない。
・調査場所は、鉄道端末バス利用者数の上位駅を起終点とするバス系統とする。
・また、鉄道駅への乗り継ぎターミナル以外であっても、調査ニーズに応じて対象とする。
・調査対象系統は、1日当りの運行本数が一定の基準以上とする。
・調査内容は以下のとおりとする。
〔乗車・降車停留所、降車時間等〕
(3)バス・路面電車輸送サービス実態調査
 平成12年調査と同様であるが、対象を(1)、(2)の対象系統に限定する。
(3)乗換え施設実態調査の方針
 従来の調査では、鉄道から鉄道への乗り継ぎ施設の実態について調査した。新たな調査では、新駅の設置、施設の更新があった施設に限定する。一定以上の利用がある鉄道〜バス・路面電車の乗り継ぎターミナルも対象とする。
 
報告書名:「平成15年度 都市交通統計における新手法の開発研究報告書」
(資料番号150062)A4版108頁
報告書目次:
I. 調査企画
II. 今後の都市交通統計調査の調査課題
III. 既往の都市交通統計調査の問題点
IV. 公共交通における新たな調査方法のあり方
V. 新技術の現状・動向の把握
VI. 他の交通調査との相互活用
VII. 技術的可能性の検討
VIII. 新たな調査体系の構築
IX. 新たな調査の実施に向けた課題
【担当者名:藤田 健、山根章彦】
 
【本調査は、日本財団の助成金を受けて実施したものである。】







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