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GPSと海難について
海難の再発防止のために
 近年の電子機器の発達普及は著しいものがあり、それは陸上はもとより海上にも及んでおります。
 その一つが船位確認に非常に有効な航海計器としてのGPS(衛星航法装置)がありますが、
GPSの性能の理解不十分
GPSの機器操作等に気を取られた
GPS情報の不適切な利用
等GPSの取扱いが原因(直接的原因及び間接的原因)で海難に至った事例が多々あり、プレジャーボートも例外でなく同様の事例が発生しております。
 この様に本来「安全な航行を助けるべき航海計器」が海難発生の要因となるという皮肉な現象がおきています。
 そこで、海難審判庁が平成5年から平成13年までの間に、GPSの取扱いが海難発生の原因として裁決された事故事例について、その概要と原因、防止策等について紹介しますので、海難の再発防止の参考としていただければ幸いです。
 
「GPSと海難」
〜GPSの取扱いが海難発生にかかわった事例の分析〜
資料提供 海難審判庁(海難分析集No.4 GPSと海難)
 
−GPSの性能の理解不十分−
事例1 プレジャーボート(モーターボート)が防波堤に衝突
 GPSプロッターに築造中の防波堤が表示されていないことを知らなかった
 
発生:平成9年10月4日18時10分(夜間)、神戸港
気象等:天候曇、風力3、東風、上げ潮の中央期、日没時刻17時40分
船長の海上経験:十分な経験あり、10年程前から年間約10回大阪湾を航海
GPSの使用経験:1年前にGPSを装備した新造の本船を購入し、3回航海
 
(1)海難の概要
 船長(四級小型船舶操縦士)は、釣りをしたのち帰港中、GPSプロッターを見て針路を定めたところ、前路に築造中の防波堤があるものの同プロッターにはこれが入力されておらず、その存在に気付かないまま、22ノットの速力で進行中、同防波堤に衝突した。
(2)海難原因
 水路調査不十分
(3)船長の供述
・GPSを3回使用した航海の経験から、GPSプロッターを海図代わりに使用すれば容易に航海することができるものと思い、発航前に最新の海図に当たるなどして水路調査を行わなかった。
・埋立て工事が行われている海域において、築造中の防波堤があったが、GPSプロッターにはこれが入力されておらず、その存在に気付かなかった。
・防波堤の存在を知っていれば衝突しなかった。GPSプロッターに頼ってしまった。
・取扱説明書には、海図を使用すべき旨の注意の記載があった。
同種海難の防止策
 港付近の海域では、岸壁や防波堤の築造や、季節や時期を限って設置される施設があり、GPSプロッターの地形図には表示されていない岸壁、防波堤等があることに注意する必要がある。
 港付近の通航にあたっては、GPSプロッターに表示された地形や手持ちの海図と目視によって認めた地形とを照合することも、以後の安全な航海のために効果的である。
 
事例2 漁船が乗揚
 狭視界時、浅所が広く散在しているのを承知した水路の航行に当たり、水深を表示させたGPS魚探を頼りに航行し、レーダーで船位を確認せず
 
発生:平成10年5月10日17時00分、広島県呉港北東方海域
気象等:天候雨、南南西風、風力3、視程約1km、上げ潮の初期
船長の海上経験:経験あり
GPSの使用経験:経験あり、いつも使用
 
(1)海難の概要
 船長(一級小型船舶操縦士)は、かき筏で買いつけたかきを載せ、竹原港への帰途に就き、降雨のために平素操舵目標としていた山頂などを視認できなくなったが、魚群探知機兼用型のGPSに表示させた水深を目安に北上し、水深が浅くなったことを認めたとき対処すればよいと思い、レーダーを利用するなどして船位の確認を十分行わないままGPSの針路線に沿って13ノットの速力で進行中、横島の北西部に広く散在する浅所に乗り揚げた。
(2)海難原因
 船位不確認
(3)船長の供述
・GPSプロッター使用中、レーダーは1.5マイルレンジで作動中。小尺度の海図を船内に保有しているが、GPSを見るので使用したことがない。水深を見ながら航海するので魚群探知機は常時作動中であった。
・浅所の場所が大体このあたりだろうということは知っていた。見たことはないが水面上に出ている部分があるものと思っていた。
・GPSの針路線に沿って航行し、浅所を避ける針路としたつもりだった。
同種海難の防止策
 GPSの精度、画面表示の精度、更に保針の精度等を考慮する必要がある。
 魚群探知機兼用型GPSを使用する注意として、一般的に魚群探知機は船底の直下を計測しているので、航走中に障害物の位置を知るためには、GPSプロッターで船位を確認する方法が適当である。
 
事例3 プレジャーボート(モーターボート)が運航阻害
 魚群探知機兼用型GPSプロッターは、単体のGPSに比べて消費電力が多い事を知らなかった
 
発生:平成13年1月25日14時30分、鹿児島県笠利湾
気象等:天候曇、北西風、風力1
船長の海上経験:経験あり、マリンクラブの所有船を利用
GPSの使用経験:経験あり
 
(1)海難の概要
 船長(四級小型船舶操縦士)は、マリンクラブの所有船で釣り場に向かい、発航したときGPS魚探のスイッチを入れ、釣り場に至って主機を停止し再び始動して潮上りする釣りを繰り返し、それまで主機の始動が容易にできていたことから、主機停止中にGPS魚探で魚群探知を行っても大丈夫と思い、主機停止中の蓄電池の放電に対して配慮をしないままGPS魚探の使用を続け、蓄電池の過放電で主機が始動不能になり、航行不能となった。
(2)海難原因
 蓄電池の放電に対する配慮不十分
(3)船長の供述
・これまで主機の始動が容易にできていたことから、主機停止中にGPS魚探を使用しても大丈夫と思っていた。
・GPS魚探に電力を消費して過放電になった。本件時使用していた電気器具はGPS魚探だけである。
・釣りは2、3箇月に1回ぐらい、会員制となっている本船は年に4回ぐらい数人で出かける。
・流し釣りの間隔は、長いときで20分ぐらい、短いときで10分ぐらい。
・GPS魚探をONとして主機を切るとバッテリーの放電が大きいということは知らなかった。救助されたのち海上保安官から聞いた。その後、他の漁師からも聞かされた。
・GPS魚探を装備しているのは本船が初めて。主機を停止してもずっと入れっぱなしだった。本件は、バッテリー系統の知識不足だったと思う。バッテリーからの放電系統を知らず、バッテリーが有限ということも知らなかった。GPS魚探の使用中の放電が大きいことがわかった。
マリンクラブの経営者の供述
・オーナーたちの代表者として船の運航管理をしているが、全般的に勉強不足であったと思う。GPS魚探のスイッチを入れたままにすると、蓄電池の放電が大きいということを知らなかった。漁師さんたちにもいろいろ聞こうと思っている。私自身釣りをするときにGPSの電源は切っていない。短い時間だったからこれまで大丈夫だったのだろうと思う。バッテリーは新品だった。
・クラブ経営者として、利用者にアドバイスはしていなかった。本件後、主機を停止する際には、機器類の電源を切断することを強く言っている。機器類と、主機始動系統のバッテリーを分けることを検討しようと思っている。
同種海難の防止策
 魚群探知機兼用型GPSプロッターは、単体のGPSに比べて消費電力が多い事を念頭に置く必要があり、特に、機関を停止してバッテリーのみを使用して釣りを行う場合に注意すべきである。







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